二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.1 )
- 日時: 2012/04/05 13:16
- 名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
第一話
じりじりと肌が焼ける音が聞こえそうだ。目の前の光景も陽炎のせいでゆらりゆらりと揺れ、熱気が目に見えるかのよう。アブラゼミだかクマゼミだかの鳴き声も熱さによって歪められたのか、わんわんとした喧騒にしか聞こえない。
「……あっ、じぃー」
プラスチックの下敷きで忙しなく顔に風を送りながら西村がこぼす。毛先で大粒の雫となっていた汗が、なびく髪に従いぱらぱらと散っていく。
「おい、こっちに飛ばすな」
北本の声色も猛暑のせいか、気だるげな粘っこい響きを帯びていた。襟元に人差し指を引っ掛けぱたぱたと揺らすが、首筋を伝う汗はあとからあとから玉となって滑り落ちていく。
「テスト中だからって早く帰れるのはありがたいが、……こんな炎天下の中下校するのは地獄だな」
「だよなあ。夕方ぐらいになれば暑さもまだマシなんだけど」
時刻は正午近く。ピークはまだ迎えてないとはいえ、太陽が最も高く昇っている今と西に傾きかけている夕刻では気温に雲泥の差があることは言うにも及ばず、それが盛夏の昼日中といえばまた然りである。
「同じ中学の奴が言ってたんだが、隣町の方じゃ熱中症とか早めの夏風邪とかでけっこうバタバタ倒れてるんだとさ」
「げっ。ならおれ明日から水筒にポカリ入れてこよ」
「お前なあ……。ああいう糖分高いのはしょっちゅう飲むものじゃないぞ。日本人なんだからお茶飲め、お茶」
「へーいへい。でもたまにはいいだろ?」
「…………」
「…………」
会話が途切れ、二人は歩く速度は変えずに顔を見合わせる。無言の中視線だけでお互いの考えをくみ取り、結局その役目は北本が引き受けることになったらしい。彼の右腕が、この暑いのに顔面蒼白な青年の肩を軽く叩く。
「ナツメ、大丈夫か? 倒れそうなら早く言えよ」
青年——夏目貴志は、今の今まで灼熱の炎天にあぶられていた意識をはっと取り戻した。一歩を踏みしめるたびに自分が遠のいていくのは感じていたが、それすらも北本が声をかけてくれるまで分からなくなっていた。
「あ、ああ。悪い、ぼーっとしてた」
「話聞いてたかー? 最近熱中症とか流行ってんだってさ。お前も気をつけろよな」
笑いながらべしべし背中を叩かれ、夏目も痛がりながらも嬉しそうな苦笑を洩らした。
……昨夜、テストの合格祈願とかいうよくわからん建前を引っ提げて、中級二人が唐突に押しかけてきて酒盛りを始めてしまったせいだ。追い出した頃にはとうに深夜を過ぎており、それから英単語を反芻していたら空が白んできていた。
暑さに加えて、睡眠不足ゆえのこの体調であることは言えないが、こうやってさりげなく心配してくれるのは素直に嬉しい。
これが数年前であったなら、奇異の目と無言の嘲笑しかもらえなかっただろうから。
——また、ヘンナモノでも見たのか?