二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.3 )
日時: 2012/04/05 13:18
名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)

「あッ、グ……!」
 巨体が突如夏目にのしかかり、耐えきれずに後ろ様に倒れるとぶくりとした指が首を掴む。頭を打ち付け視界がちかちかと瞬く中、えびすもどきはくつくつと笑いをこぼす。
「おお、おお。それが友人帳。何とまあ強力な妖気の割にはみすぼらしい」
 背筋を這うようなおどろおどろしい声音。白く濁った両目が食い入るように夏目を見据える。しかし横に割れた額からのぞく三つ目の瞳だけは、今なお握りしめている友人帳を凝視していた。
 殴りつけようとして、できなかった。両の腕はえびすもどきが乗っかっているせいで身震いすら起こせず、それは足も同様だった。夏目の細面に焦りが走る。
「よこせ。友人帳を。よこせ、よこせ。よこせよこせよこせよこせよこせ」
 えびすもどきが「よこせ」を連呼する度に、犬歯が木の幹をへし折る時のような音を立てながら伸びていく。もはや弱腰気味だった挙動はどこにもない。
 遂にはあごの先まで達した牙は不気味に白かった。助けを呼ぼうにも首を押さえられているせいでとぎれとぎれ漏れるのは言葉にもならないうめき声のみ。身をよじろうとするたび、叫ぼうとするたびに、えびすもどきはさも楽しそうに嗤う。
 がぱあ、と。人の頭も飲み込めそうなほど大きく開かれた口は、血のように紅い。
「うっ、わあぁああーーーーーー!!」



 めりっ、と軋む音がした。
 首が見えないくらい膨れた顔の側面に、コンバースの右足がめり込む。
 呆気にとられて丸くなった三つの目は、自分のものと同じ形をしているような気がした。



「どおおおぉおおおおおおおぉおおりゃああぁああぁあああああああ!!!」



 脂肪の塊にも見える巨大な体が、豪速球の如く横ざまに吹き飛ぶ。飛び蹴りの姿勢のまま夏目の眼前を通過し、右足を伸ばし切り地面を滑りながら着地したその誰かはとりあえず女の子だ。右耳より上で結んである長髪が遅れて落下する。
 えびすもどきは家の垣根に激突して、何が何やらわからず呆けた表情をしている。それを威圧するように女の子はゆらりと立ち上がった。何とか上半身を起こした夏目の目の前に立つその子の太ももが陽光を受けて白く光る。
「おーおー。こんな真っ昼間から何してんだこの三つ目メタボリック」
 腕を組み、睨みつけられたのかえびすもどきは僅かに怯んだ。しかしそれも数瞬のみで、見開かれた三つの眼球に怒りが燃える。
「おっ、……おのれえぇええ小娘!! 生かして返、」
 あっという間に懐に潜った女の子に、えびすもどきは為す術がなかったに違いない。下から突き上げる一撃を顎に喰らい、身を反らして頭から落下。聞いてる方が痛そうな呻きを上げるえびすもどきを、見下すように睥睨しながら女の子は怒鳴り上げる。
「そっくりそのまま返してやるわ!! 生かして返してほしいならとっとと失せな下っ腹デブ!!」
 ひいぃいいいぃいと漏らした悲鳴がえびすもどきの答えだった。修羅じゃ夜叉じゃと叫びながらよたよた逃げ出す背中にもう一度女の子が怒声を浴びせると、驚くあまり着物の裾を踏んで盛大に転んだ。しかしもみくちゃになりながらも立ち上がり、右に左にふらつきながらだんだんと小さくなっていく。