二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.4 )
- 日時: 2012/04/05 13:19
- 名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
その背中が完全に見えなくなるまで、女の子は腕を組んで仁王立ちをしていた。……やがて肩の力が息を吐くとともに抜け、「くう〜〜〜〜」と言いながら思いっきり伸びをする。
「あ、……あの」
恐る恐る声をかける夏目に振りかえった女の子は、得意満面の笑みを浮かべていた。満点の答案用紙を親に見せに行く時の子供のような。目元はきりっとしていて大人っぽさを感じる分不釣り合いのようであり、逆にそれが魅力になっているようにも思えた。
「いやー、デブの割にヤバげだったね今の。大丈夫? 立てるかい?」
そう言いながら笑顔と共に手を差し伸べてくる。ためらったが、自分に向けられている無邪気な笑みをとりあえず信じることにした。
引っ張り上げられ改めて目の前の少女と向き合うと、そこまで歳は違わないように思えた。大目に見ても大学生ぐらいだろうし、もしかしたら自分と同い年かもしれない。どちらにせよ、ここらでは全く見た事のない顔だ。
「あ、あの。さっきはどうも、ありがとう……」
礼を言いながら、……今さらのように気付く。
この人。
妖が見える上に、素手で追い払う程の力を————?
もちろんこの時、夏目の頭には自分にもそれ相応の力があるという事実は忘却の彼方にあったのだが。
「気にしない気にしない。怪我がないみたいでよかったよ」
夏目の全身をくまなく見まわしたのち、あけっぴろげに笑う女の子。……苦手ではないが、このタイプはとっつきにくい。次は何を話せばいいのだろう。
ふとした拍子に、女の子の視線が手にとっている友人帳の背表紙に注がれる。興味深そうな目つきに気付いた瞬間、反射的にそれを背中に隠した。
「えっと……。これは、」
「へー。それが友人帳かあ」
刀ですっぱり斬られた気分だった。
あまりにもあっさり振り下ろされたせいで、一体何が起こったのか分からない。
少女の言葉の真意を理解するより前に、続く言葉の一太刀が夏目を裂く。
「ってことは、君が夏目貴志くん?」
うっわ、すごい偶然。たまたま通りかかって助けたのが君だったとは。
驚きと思いがけない出会いを面白がっている少女の笑顔に黒い影が差しているように見えてしまう。顔が強張り暑さのせいではない汗が流れ落ちる。指が白くなるほど強く友人帳を握りしめた。
人で、友人帳のことを知っている者はほとんどいない。
なのになぜ、見知らぬこの子が友人帳のことを口にするんだ?
まるでこれが何なのか知っているような口ぶりで————?
「夏目くん? どしたの、貧血でも起こしたー?」
そして、なぜおれの名を?
「……あ、そっか。出会い頭に赤の他人にこんなん聞かれても気味悪いよね」
やーすまんすまん。頭を掻きながら苦笑を零す。
「まっ、まず結論から言っちゃうとさ」
柔らかい表情の中に、鋭利なものをそっと忍ばせたような表情で、少女は言った。
「その友人帳の中にさ、欲しい名があるんだ。悪いんだけど売ってくれない?」