二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.5 )
日時: 2012/04/06 13:57
名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)


第二話

 開いた口が塞がらない。
「あー、タダでとは言わないよ。いい値で買うからさ。ね?」
 落雷を受けたかのような夏目の顔容は、段々と嫌悪と怯えが入り混じったものに変わっていく。それを見て取った少女の方も、伝え方がいけなかったことに気付き慌てて言い直そうとする。しかし今の夏目には、少女のその微妙な表情の陰りが悪意あるものとしか映らなかった。
 背を向け、脱兎の如く駆けだす。なぜ自分の名と、友人帳のことを知っているのかは後から考えればいい。とにかく、早くこの女の子から離れなければ。
「ええ!? ちょ、待って夏、」
「とうっ」
 ゴチッと鈍い音。少女の「うぎゃ!」の悲鳴と共に、転倒したのか砂袋を落とした時のような音も続く。

「だぁーれがお前のようなきな臭い者に名を渡すか、阿呆め。そもそもこれ以上友人帳が薄くなってはたまらんわ」

「せ、先生!?」
 のたうちまわる少女の近くにちょこんと座っているのは、やたら頭のデカい不気味な猫だった。どことなく招き猫に似ている容姿なのは、実際長い年月の間招き猫に封じられていたからである。
「全く。帰りが遅いと塔子が心配していたから見に来てやったら、こんな垢抜けた小娘に救われたばかりか名までせびられおって。もう少し警戒心を持たんか夏目!」
 たしたしと地面を叩くこの猫も、実は妖。本来斑と名乗る自称高貴なあやかしものだそうだが、普段はこのように依代となった招き猫の姿をとっている。彼(?)とは、自分の用心棒をしてもらう代わりに死後友人帳を譲る約束をしているのだが、……今はほとんど飼い猫のようなポジションに立っている感も否めない。
 だから、
「今日は珍しく用心棒っぽいな、ニャンコ先生」
「阿呆! お前が不用心すぎるからだぞ!」
「む、おおおおぉおお……。なんか白い物体があぁあ……」
「ああ、悪い。大丈夫だった、」
 引っ張り上げてやろうと手を伸ばして、……そのまま固まった。
 額を抑えている少女の右腕。
 肘から手首の先までの肉が、ざっくりと割れていた。
 少女も腕から伝う生温かい液体が頬に落ちて気付いたのか、傷をさも不思議そうな面持ちで見つめる。
 そして少女の目と彼女を凝視する夏目の目とが合い、

「「うっ、わ——————!!」」

 さっきの妖の牙か————!