二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.6 )
- 日時: 2012/04/06 18:28
- 名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
「くっそー、あんのえびすもどきめー……。こんなことならもう一発腹にでもキメときゃよかった……」
悔しそうに歯噛みする少女の隣に座る夏目は、彼女以上に血の気がない様子で引きつった表情をしていた。
とりあえず持っていたハンドタオルで止血をして、今は近くの野原に二人と一匹で腰を下ろしている。先生との散歩でよく訪れる場所だ。
少女は最初盛大に叫んだ割には、夏目が指をもつれさせながら取り出したタオルでてきぱきと処置をしていた。「あーあー、やっちまったなー」とカラカラ笑いながら腕を縛っている横で、夏目がどんなに卒倒しそうな顔をしていたか、少女は知らないだろう。同様に、彼も腕に抱いていた先生をどんなにきつく締め上げていたか知らないのだが。
「……引っかかれた時気付かなかったのか?」
「ぜーんぜん。アドレナリン爆発してたからかなー? 見るまで分からなかったよ」
怪我した方の手を顔の前で振って、案の定「いでっ」と呻いて腕を抑える。唇を噛み締めて上を向くときの顔が可笑しくて、思わず吹きだした。
「おっ。やっと笑ったね」
え、と呟けば、白い歯を見せてニシシと笑う少女。気恥ずかしくなって目をそらす。やはりうだるように熱いのには変わらないが、木陰の中にいるので時折入ってくる風は涼しい。少女は正面に視線を戻し、髪をなびかせるそよ風に猫のように目を細める。
無言の時が流れたが、なぜかそれは気まずい沈黙ではなく、むしろどこかのんびりとした時間だった。木の葉が揺れる音は風鈴の音色のように涼やかであるし、木漏れ日は穏やかであたたかい。このままであればいいのにと心の端で思うが、話し出さなければ終わりも来ない。
「……悪かった。勝手に逃げようとして」
少女に向き直り、気の強そうなイメージを与えるややつり上がった両の目を正視する。
「だが、友人帳に書かれている名はそう易々と渡せるものじゃない。ちゃんと説明してくれないか」
短い間があく。その間、少女も夏目の双眸をじっと見返した。
首を縦に振る。
「そうだね。……私こそごめん。ちゃんと順序立てて説明すればよかったね」
垢抜けた態度の一切は消え、代わりに真摯な眼差しが夏目を射る。吸い込まれそうな錯覚を覚える黒い瞳に自分の姿が鮮明に映る。
話が終わるまでこの目はそらせないだろうと、直感的に理解した。