二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.7 )
日時: 2012/04/07 11:37
名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)

「私ね。ある妖の依頼を受けて、ずっと東から君に会いに来たの」
「妖に?」
「うん」
 その妖は夏目たちの住む街より少し離れた、麓に小さな村がある山のどこかに封じられているのだという。
「それ、五ヶ峰山《いつがみねやま》のことか?」
「うん。場所を特定するのに随分かかったよ。その妖が教えてくれる山の特徴が抽象的すぎてね。しかも山探しに時間を割きすぎたせいで、タイムリミットが今日を入れてもあと二日しかないんだ」
 妖の依頼内容は、自分の名が書かれている友人帳の頁を封印の場まで持ってくること。しかし当の妖自身も、自分がどの辺りで封じられているかを知らないため、これから一人で骨の折れる捜索活動をしなければならないのだそうだ。
「どの山に封じられているかを調べるのに思ったより時間をかけちゃったから、焦っていたのかもね。それに、あんな形で夏目くんに遇えるとは思ってなかったから、つい興奮してあんな……」
 きまり悪そうに笑いながら頬を掻いた。
「君の名と友人帳のことも少し調べたんだけど、他言するつもりも利用するつもりもないから安心して。……って言っても無理かな。私、大分怪しいもんね」
「大分どころではないわ。お前、すこぶる如何わしいぞ」
「……。調べてわかるものなのか? そういうの」
「わかるよ。その手の情報網を持ってればね」
 突風に髪が巻き上げられて少女の面がすっぽり隠れる。蒼穹をたゆたう雲が、目に見える速さで遠くへと流れていく。

「…………わかった」

 手の内の友人帳を握りしめて、夏目は言う。
「やっぱり、君に名は売れない。そもそも、売り買いできるほどこれは安っぽいものじゃないんだ」
 大切な、名前という名の命。それは人でも妖でも尊いもののはずだ。安易に自分が金銭取引の品物にしていいはずがない。
 少女の目が伏せられ、表情が曇る。
 きっと、何日もかけ場所を割り出したのだろう。そして偶然名の持ち主である夏目に出会い、あと一息だと自分を鼓舞したに違いない。
 その努力が無に帰したと思っているのだ。心中はさぞ暗いものだろう。
 唇を軽く噛み、覚悟を決める。




「だから、おれもその妖探しに付き合わせてくれないか」