二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.18 )
日時: 2012/04/16 22:41
名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

 とんでもないことを、聞いている方が胸裂かれるような言葉を。さも当然のように、笑顔さえ浮かべて目の前の少女は語る。
 何でもないことを言っているかのように。
 取るに足らないことを言っているかのように。
「っていうより、知らない。私っていうあの人たちの娘は、最初っから存在してないことになってるから」

「…………それって、どういう」

『やや、どこかで見た顔じゃ』

 俊敏に動いた白瀬の体が声の主へと向く。
 石段の外の木々が生い茂る虚空の闇に、ぽっかり浮かぶ一つ目がある。
 眼窩に鬼火を湛えたされこうべがある。
 赤い赤い天狗面がある。

『髪の長い方に覚えはないが、もう一人はどこかで……』
『……もしや、あれはレイコではないか?』
『レイコ、レイコ……。おお、夏目レイコか』
『セナギの名を奪ったレイコか』
『ツギノハの名を奪ったレイコか』
『タダラの名を奪ったレイコか』

「レイコ、って……」
 二人して立ち上がり、じりじりと後退する。緊張は解かないまま、次々と現れる妖を睨みつけながら背後の夏目に向けて白瀬は言う。
「夏目くんのおばあさんの名だよね」
「あ、ああ。おれと祖母はよく似ているらしくて、よく間違われるんだ」
「確かにね。夏目くん女顔だもんね」
 さらりと傷つく発言が白瀬の口から流れ出て軽くショックを受ける。本人が至極真面目に言っている分ダメージは大きかった。
 十前後集まった妖たちの声音には威圧するような質感があるものの、怨嗟の類の感情は感じなかった。ただ誰も彼もが、自分たちを見ることができる人の子二人に物珍しそうな視線を浴びせる。
「……敵意はないみたいだ」
「そのようだな」
 先生が同意を示すと、夏目は眉根を寄せて茂みを凝視する白瀬の前に出た。

「夏目レイコはおれの祖母だ。おれの名は夏目貴志。
ここに、レイコさんに名を奪われた者がいるなら申し出てくれ。その名を返そう。
 ただ、おれたちは今、ある妖を探しているんだ。もし心当たりがあるなら教えてくれ」