二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.25 )
日時: 2012/05/03 18:42
名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)

「おー。幟ってこれのことかな?……うえっ。この布のとこ、鉄の臭いがする」
「低級の妖除けだろうな。魔を退ける生き物の血で染めておるのだろう」
「げー。趣味悪いなーもう」
 二人の会話に割り込む体力もなく、ぐったりと倒れ込んだ。このあとのことも考えて、彼らに名を返すのは後に回した方がよかったかもしれない。
「さあ行くぜ! こっからが正念場だ!
 ……ってなところでダウンしてる人がいるんだけど。どーしちゃったのさタカちゃん」
「……変な、……呼び方はするな……」
 隣に膝を抱えて腰を下ろした白瀬にツッコむ声も、弱々しすぎて迫力のはの字もない。
「名を返す行為はひどく疲れるのだ。全く、今から面倒な作業が待っておるというのに、ほいほい返していきおって!」
「とか言いつつ、本当は友人帳が薄くなるのがヤなだけでしょ」
「もちろん」
 ブッと吹き出したもののすぐに真顔に戻り、片膝をついて疲労が色濃く表れている夏目の顔をじっとのぞく。恥ずかしいが、今は首をよじることさえ億劫だ。
「……夏目くん。ちょっとでいいから首上げて」
 言葉とは裏腹に、有無を言わせない響きがあった。何かに導かれるように、無意識に言われたとおりにした夏目の額に、白瀬の掌が宛がわれる。親がよく子にする、熱を測る仕草とは、どこか違った。
「目、閉じて。ゆっくりね」
 言われるがままに目蓋を下ろすと、周りが薄暗い闇だけの世界になる。ニャンコ先生の騒ぐ声が遠い。
 目蓋越しに、蒼い蒼い光が見えた。空よりも、海よりも深い色。
 小さな点だったそれは、網のようにゆっくりと広がっていき、……やがて視界を覆い尽くした。
 どこかより湧き起こる安息感が胸を満たし始めた頃、
「……ほいよ」
 柔らかい声が、まどろみから優しく意識を呼び覚ました。手が額から離れ、微笑む白瀬がまず目に入る。
「立ち上がってみ。楽になったでしょ」
「……あ。確かに」
 肩を回し、屈伸を数回。楽どころか、体が軽くなったようにさえ感じる。ついさっきまで感じていたくたびれは溶けて消えたかのようだ。困惑が混ざった笑顔。
「な、なんだかよくわからないけど、ありがとう。これなら動けそうだ」
「あはは、よかったー。だけどさっきまでの疲れは後日ぶり返してくるから気をつけてねー」
 ちょっと待て。
 固まった夏目を尻目に立ちあがった白瀬は、下の視線を感じ取る。そこには、神妙な面持ちをつくる招き猫がいた。
「貴様。今のは一体……?」
「別に何も。ちょこ〜っとだけね、リフレッシュさせてあげたのさ」
 くすりと笑った白瀬の表情は悪女のそれに近かった。まだぼんやりとしている夏目はその会話に興味を感じず、右から左へと流していく。
「さ。夏目くんも復活した所だし、そろそろ行きましょうや」
 何事もなかったかのように、白瀬は屈託のない笑顔を夏目に向けた。




次回からは第四話です。……が!
何だか夏目〜の世界観らしからぬ展開になりそうです。んじゃ今まで書いてきた奴はどうなんだよと言われたらやっぱり世界観崩崩壊してんですけど、次回は本当にヤバいです。どう見てもノリがラノベです。