二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: コル・レオニスと劣等感 【HUNTER×HUNTER】 ( No.1 )
日時: 2012/06/11 01:49
名前: 帚木ちづる ◆iYEpEVPG4g (ID: EbMOb6mj)

   
             
シュガーレイニー


— 1 —


              
 それは夏の日の思い出。
      
 ひかる宝石はあまいあまい砂糖菓子のようで、それをみる彼女の目も真ん丸でぴかぴかと光っている。いや、表現を訂正しよう。それはゴミ溜めの中に落ちていたオレンジ色のもので、おそらく硝子がらすの破片か何か。まさか口に入れるなどというバカなことは彼女でもしない、と嘲っていた矢先。あんぐりあけっぴろげにされたその口に、ひょいとそれを持ち上げて、こともあろうにドロップでも投げ込むように、微塵の遠慮もなしに放り込んだ!

不味まずい!」 
「当たり前だ!」

 ごほっ! おうう! ごほげほお! どうにも器官をダメにするのは彼女の特技らしい。ぺっと彼女がオレンジ色の塊をその辺に吐き出して転がっていくと同時に、俺は喉につっかえたわけのわからぬものを吐き出そうとしゃがみ込んで咳き込んだ。きょとんとした表情の彼女の紫色の目が合う。呆れ半分、いや失望全部。

「だんちょー、大丈夫?」
「その呼び方はいつから定着したんだ」

「だんちょーはだんちょーでしょう、もう! あともう少し大人になって、いっぱい強くなったら、流星街の皆で≪りょだん≫をつくるの! りょだんはねえ、かっこよくてすっごく素敵な正義の味方! クロロはそのだんちょーに任命してあげるんだよ! 」
「正義の味方かあ、五月さつきはそんなものになりたいの」

「うん!」
 
 誰にも負けない、無敵のヒーローになるの! 握りしめて掲げた片手が太陽の中で黒い影をつくる。彼女があんまり幸せそうでつい、言いたかったことはくちの中に仕舞い込んでしまって、思わずそうだねと言葉を零した。
 ヒーローってなに? 正義ってなに? ささやかな疑問は、まだ年端も行かぬ彼女に訊くのもとはばかられた。ちいとばかしプライドというものが引っ掛かったのだ。その日は前を駆ける彼女の後姿を眺めながら、夕日の中を歩いたことを鮮明に覚えている。



 誰にも負けない、無敵のヒーローに。片足の彼女が、笑う。
オレンジ色の宝石は、まだそのあたりに陽の小さな影をつくってころんと転がっていた。