二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 私はただの平凡主義者です。 【REBORN】 ( No.4 )
日時: 2012/06/07 21:28
名前: なゆ汰 ◆TJ9qoWuqvA (ID: 6vo2Rhi6)

 同じクラスのムードメーカーである野球部エース、山本武。彼はいつもにこにこと笑っていた。その彼が自殺を図ろうとしたらしい。まだ中学生だというのに忙しい奴だなあとぼんやり考えながら、お弁当の残りを水で流し込む。ここは裏庭にある花壇の側。さんさんと日が照るこの場所は、暖かくて居心地のいい隠れスポットだ。裏庭といえばなんとなく暗くて、「ちょっとアンタ調子のってんじゃないわよ!」とかなんとか女たちが醜い争いを始める場所というイメージが浮かぶ。少女マンガよろしくな展開だ。しかし並中の裏庭は、日向ぼっこにはちょうどよく、そんな醜い争いなど見られない。それにこんな場所に人が来るはずもなく、一人になれて落ち着けるすばらしい場所だった。


「……んー、ねむ…」


ふああ、とひとつ欠伸をして、お弁当を巾着袋のなかにいれた。5時間目が始まるまであと20分ある。20分だけ寝てしまおうかと芝生に寝転ぶ。制服が汚れるのがいただけないが、もうそんなこと気にしない。もうひとつ欠伸をして、20分だけだから…と自分に言い聞かせながら、目を瞑る。そして、ブラックアウト。



 ***



「…起きなよ」


低めのテノールが、耳を支配した。何の変哲もない、普通の男子の声。なのに何だか背筋が凍った。一気に血の気が引くのを感じて、すぐさま瞼を開ける。そこには、黒、黒、黒。黒い髪と瞳、カッコイイというより美人といった方がしっくり来る整った顔、学ラン。雲雀、恭弥。ああ、私の人生終わったな、と本気で思った。入学したての私でも、雲雀恭弥の名前と顔くらいわかる。風紀委員長でありながら不良の頂点に君臨し、恐怖政治といっても過言ではないくらいの凄まじい支配で並盛を統べる男。


あーあ、こういう男子に関わらないように、平凡に生きてきたのに。無遅刻無欠席無早退。私は平凡に、生きてきた。すべては面倒事に巻き込まれないため。その面倒事には、もちろん雲雀恭弥も入っている。


「もう、授業始まってるんだけど。」
「…すみま、せん」


声が上ずって、途切れて、震える。弱い、私。雲雀恭弥が懐からトンファーと呼ばれる武器を取り出したのが見えた。涙腺が緩み始めたけど、私はぎゅっと唇を噛んで堪えた。泣きたい。泣けない。気持ちの狭間で葛藤。


「風紀を乱した奴は、女だろうと咬み殺す。」


あれだけ恐れていた、あれだけ避けていた、あれだけ聞きたくなかった言葉が、耳に、脳に、滑り込む。殺気がぶわりと私の肌を撫でる。全身の毛が逆立つ。銀色のトンファーが振り下ろされたと思えば、眼前に迫る。早いな、と頭の隅で悠長に考えながら、私の身体は宙に舞った。地面に背中から落ちる。「ぐ、はっ」と悲痛に染まった声が喉から絞り出されて、それと同時に血が口の中から勢いよく噴射された。鉄の味がする。ぐわんぐわんと痛む殴られた頭。痛みで霞む視界の中、雲雀恭弥はつまらなそうに私を見下ろしていた。


視界が霞んで、ぼやけて、滲んで、目の前が、見えなくなって。



そして、暗 転 。



@暗転した世界の果て(標的04)