二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ハリーポッターと無名の生き残り ( No.4 )
日時: 2013/03/26 20:13
名前: プリア ◆P2rg3ouW6M (ID: 3TVgjhWp)

この話はすでに皆がミーシャの動物もどきは狐だと知っているパターンですが、完全に動物もどきとして完成するまで皆が狐だと知らないパターンもいいかも。炎のゴブレットでセドリックの守護霊が狐ということにして、不死鳥でミーシャが狐だったと伏線回収するのもいい。



 ロンでさえすでにはっきりとした足取りで歩いているというのに、ミーシャは今だよたよたと歩いている。
 ハーマイオニーがみかねたように声をかけた。

「もう、ミーシャ! あなた大丈夫?」
「あー、眠い……私、今何してる?」
「歩いてるのよ! ほんとにもう……」

 ハーマイオニーの声をきき、景色を眺めるうちに徐々に頭がはっきりしてきた。と同時に、ロンの余計な声が聞こえる。

「見ろよハリー。ミーシャの寝起きは最悪だな。あれで女の子なんて」
「はいはいどうも。寝言ボーイさん」

 ミーシャの声に、「ゲッ」とロンが声をあげた。

「起きてたのかよ」
「起きてますよ! 歩いてるもの!」

 ふんっとミーシャが鼻を鳴らしたところで、アーサーが手を挙げた。どうやら、誰かと合流するらしい。

「アーサー!」
「エイモス!」

 エイモス……アーサーの知り合いだろうか。
 と、ふいに木の上からざっと人影が降りてきた。

「おや、このたくましい若者はセドリックかな?」
「あー、そうです」

 ああ、セドリックか。ハッフルパフのシーカーだ。
 去年、ハリーが箒から落ち、おまけにミーシャたちチェイサーの点数稼ぎもままならず、敗退したハッフルパフのシーカーだ。

 苦い気持ちでセドリックを見ていると、セドリックがふいにこちらを振り向いた。ミーシャは慌てて目を逸らす。

「おっとどっこい! 君はハリー・ポッターか?」

 エイモスに聞かれ、ハリーがとまどったように答えた。
 こうして有名人扱いされるのは、いつまでたっても慣れないようだ。

「あ、そうです」
「会えて嬉しいよ!」
「ボクもです」

 そのままミーシャはスルーするかと思いきや、目ざとくエイモスはミーシャの方を見た。

「君は……ああ、例の有名じゃない方だね! 知る人のみ知るミーシャ・ライリーか!」
「あ、は……どうも」

 有名じゃない方と言われると、なんだかしっくりこない。
 はにかみながら返事をすると、ハハッとエイモスが笑い出した。

「今日は実にいい日だ! 君たちに会えるなんてな!」
「私も嬉しいです」
「君たちはグルフィンドールだったな? そうかぁ、セドリックはこの二人がいるチームに勝ったんだったな! それはすごい!」

 ロンがチッと顔をしかめ、ミーシャも顔を曇らせた。
 去年のクディッチの試合のことを言っているのだろう。

 セドリックがうんざりしたようにため息をついた。

「だから父さん、何度も言ったじゃないか。あれはハリーがディメンターに襲われて箒から落ちたんだ。グリフィンドールが弱かったわけじゃない」
「でもお前のチームが勝ったことにかわりはないだろう!」
「だから……」

 有頂天のエイモスをさしおき、セドリックはハリーたちに向き直った。

「あー、ごめんよ。父さんいつもこうなんだ」
「気にしないで」

 ハリーの言葉に、ロンがへっと息をついた。

「おいミーシャ。噛み付いてやれよ」
「あのネズミはおいしそうじゃない……って、あのね。私、まだ動物もどきは取得中なんですけど」
「悔しくないのかよ、君は」
「くやっしいに決まってるでしょ。でも仕方がないよ。ハリーが気にしていないのに、私たちがいつまでも言っていてもしょうがないじゃない」

 ごちゃごちゃ言っているうちに、見晴らしのいい高台についた。
 風がそよぎ、草花が揺れる中に、古びたブーツが置いてある。

「さあみんな! この周りに立って!」

 アーサーによって、ミーシャたちは円を書くようにブーツの周りに並んだ。

「これ、なんのためにこんなことをしてるの?」

 ミーシャの言葉に、アーサーがおどけたように言った。

「もうじきわかるさ! さあ、みんな! ブーツをつかんで! 一、二の三で出発だ!」
「出発!?」

 声をあげたミーシャに、双子たちがからかった。

「なんでもいいからブーツをつかみな!」
「こんこんミーシャ!」
「こんこーん! こーん!」

 むーっと顔をしかめ、ミーシャもブーツをつかんだ。

「さあ行くぞ! 一、二の……」
「ハリー!!」

 アーサーが直前にハリーに声をかけ、ハリーが慌てて手を出した。

「三!!」

 とたん、ブーツを中心に全員がぐるぐると空へ浮かび上がった。
 雷が鳴っているような感覚とともに、景色が見えなくなる。
 
「どうなってるのー!」
「ハハッー!! ヤフーッ!!」

 おじさんたちは騒いでいるが、ミーシャは何がなんだかわからず、足元すら見ることができなかった。
 下は……下は……何も無い!

「手を離せ!」
「はっ?」
「聞こえたろう、ほら!」

 ぱっとミーシャたちが手を離したとたん、そのまま真下へ急降下していった。

「キャァァァ!!」
「ウワァァァァ!!」

 もみくちゃにされて落ちた後、ドサッと地面に打ち付けられた。

「うっ、痛ぁ……」

 仰向けに空を見ると、おじさんたち二人、セドリックが面白そうに空を歩いて下りてきているところだった。
 
「どうだ、頭がすっきりしたろう!」

 眠気の代わりに痛みに襲われたけど、とミーシャは苦笑いし、起き上がろうとした。と、ふいに手を差し出され、見上げてみれば、セドリックだった。

「あー、ごめんなさい」

 差し出された手をつかまないのも悪い気がしたので、つかむだけつかみ、すぐに手を離してハリーたちの後に続いた。





 薄暗い部屋の中、ゴブレットの青白い辺りだけが辺りを照らしている。
 多くの七年生がゴブレットに名前を入れていく中、ミーシャたちはただ回りに群がって眺めているだけだ。
 こんな時でさえ、ハーマイオニーは読書をしている。

 にわか雨に降られたのか、名前を差し入れる生徒たちはみなずぶぬれだ。誰かが名前を入れるたび、ミーシャたちは必然的に拍手をする。

「おい、行けよセドリック!」

 雨に打たれたびしょぬれの姿のまま、友人たちに背を押され、あのセドリックがやってきた。緊張した面持ちで、ゴブレットに名前を差し入れる。

 ああ、そうか……。成績優秀なんだった、セドリック・ディゴリーは。なにより、ミーシャが一年の時、一年生の変身術の過去最高得点は現在三年生のセドリック・ディゴリーだとマクゴナガル先生が言っていたじゃないか。あの言葉は、ミーシャが四年生になった今も、忘れたことがない。

 セドリックは年齢線の外へ出るなり笑顔になって、再び友人たちにこづかれはじめる。戻って行く刹那、ロンが気を惹こうと、さりげなく手を降った。
 セドリックがふと一瞬こちらを振り返り、ロンがふんっとため息をつく。

「永久の栄光かー。いいよな、ああいう奴は」
「何? ロン、クラムLOVEじゃなかったの?」

 ミーシャがからかうと、ロンがふーっと息を吐いた。

「違うよ。ああいう学業優秀、友達も多い、容姿端麗って、ずるいって思っただけさ。どうしてこう、世の中は不公平なんだろうな」
「そうだけど……でも元々のレベルの高い人が強いモンスターに勝つより、元々レベルの低い人が強いモンスターに勝つほうが嬉しいと思うけど」
「なんだそりゃ?」
「たとえ話だってば!」

 ミーシャは制服の腕をまくり、「ねぇ?」とハリーに話を降った。

「えっ? ああ、そうだね」
「まあ、レベルが高かろうが、私たちはそもそも年齢制限に引っかかっているから。ねえ、ハリー?」
「ぼくよりロンだろう。代表の素質は」





 なぜ、ハリーが呼ばれたのだろう?
 ハリーが規則を破り、ゴブレットに名前を入れたとは思えない。ハリーに対する批判が、あちこちで上がっている。
 先生たちもうろたえている中、またしてもゴブレットの炎が燃え上がった。

「何? また何か出るの?」

 と、ミーシャが呟いたとたん、ボッと炎が広がるとともに、紙切れがヒラヒラと舞い出てきた。
 腹立たしそうに紙切れをつかむなり、ダンブルドアは顔をあげた。

「ミーシャ・ライリー……」

 今、自分の名前が聞こえたような……。
 ひやりと汗がつたい、ミーシャは身を縮めた。

「ミーシャ・ライリー……!!」

 ダンブルドアの怒鳴り声に、ハーマイオニーが早口に言った。

「ミーシャ……行かなくちゃ……」
「……そ、そんな」
「行くのよ……!」

 震える足で立ち上がり、ハーマイオニーに背を押され、歩いた。





 代表の部屋へつくと、ハリーが真っ先にこちらを振り向いた。

「ミーシャ……?」
「ハ、ハリー……」

 ハリーの名前を呼ぶ声が、震えた。
 再び口を開こうとすると、ガヤガヤ話しながら大勢の先生方がやってきた。
 真っ先にダンブルドアがやってきて、ミーシャとハリーの肩をつかんだ。

「ハリー! ミーシャ!」

 有無を言わせぬ声で、早口に言う。

「炎のゴブレットに名前を入れたのか!? 上級生に頼んで入れてもらったのか!? 二人で協力して入れたのか!?」
「いいえ!」
「違います!」

 ハリーとミーシャが口々に言うと、吊るされたランプを放り、ボーバトンの校長が言った。

「ウソをついてまース!」
「それはない!」

 マッドアイが割り込んだ。

「炎のゴブレットの魔力は強大なものだ。欺くには強力な錯乱の呪文しかない。四年生に操れる魔法ではない!」
「この件に関しては随分詳しいようですな、マッドアイ!」

 カルカロフが憎憎しげに言うと、ギッとマッドアイがカルカロフを睨んだ。

「闇の魔法使いの考えを見抜くのがわしの務めだった。忘れたか?」
「それでは解決にならん!」

 ダンブルドアがさえぎった。

「十七歳に満たぬ魔法使い、魔女が代表に選ばれてしまうなど、言語道断じゃ」

 カルカロフがチッと舌打ちをした。

「四人目とまで行かず、五人目の代表など聞いていない! ホグワーツから三人も代表が出るなど! しかも、前もって引いておいた年齢線の効果も、これではないに等しいではないですか!」
「ダンブルドアの年齢線に効力がなかったと言うのか?」

 マッドアイが言うと、すかさずマクゴナガル先生が言った。

「彼はアルバス・ダンブルドアですよ! 彼の魔法の腕に間違いがあるはずがありません」
「まったくそのとおりですな。第一、ポッターとライリーは今までにさんざん規則を破っている。今回はそれが年齢制限だっただけのこと」

 スネイプの相変わらずの皮肉げな言い回しにひるむこともせず、マクゴナガル先生はくってかかる。

「セブルス……あなたはこの二人が自ら進んでゴブレットに名前を入れたと?」
「少なからずその可能性はあるということですな」
「私はこの二人が自らそんな行為をしたとは思っていません。いいえ、するはずがないという確信があります! そうでしょう、アルバス」

 マクゴナガル先生の剣幕に、ダンブルドアはため息をついた。

「そうじゃのう。じゃが問題はハリーとミーシャを競技に参加させるか否かじゃ!」

 そうして、バーティに振り返った。

「君の意見を仰ごう」
「……炎のゴブレットは魔法契約ですから……ミスターポッターとミスライリーは引き下がれない。二人もたった今から……代表の一員だ」

 




 それから先は、もうミーシャ自身何がなんだかわからなかった。
 グリフィンドールの中にはハリーやミーシャを讃えてくれる人もいたが、どこか様子がしらじらしい。

「やったな! ハリー、ミーシャ!」
「お前らワンセットでグリフィンドールの代表だ!」

 双子二人のつっかかりに、ミーシャは微笑んだ。

「……今日はこんこん言わないの?」
「そうだった! こんこんミーシャ!」
「おいハリー、もっと喜べよ!」

 ジョージの言葉に、ハリーはただ無表情で答えた。

「嬉しいよりも前に、ミーシャだって困ってるじゃないか」
「こんなに笑ってるのにな!」
「だってこんこんうるさいもの!」







 部屋に入るなり、ミーシャはぼんやりとベッドの上に倒れこんだ。
 なぜ私が選ばれたのだろう? なぜ?
 ……フレッドとジョージはともかく、みんな応援の言葉がうさんくさい。きっと内心はずるをしたと思っているのだろう。

「……どうしてこうなったのかしら」

 ハーマイオニーが、ぽつりと言った。
 ミーシャもベッドから起き上がり、顔をゆがめた。

「私、本当にゴブレットに名前を入れてない! 本当だよ」

 必死の形相に、ハーマイオニーは腕を組んだ。

「私、あまり探りたくないから聞かないけど……あなたとハリーが代表の部屋へ行った後は、ひどい有様だったわ」
「聞かなくてもわかる気がする……」

 おおかた、ハリーやミーシャに対する中傷でいっぱいだったに違いない。グリフィンドールの人たちはともかく、スリザリンの連中は、特に。

「私、あなたのことを信じているけれど、もし本当に不正を行ったんだとしたら……」
「やってないって言ってるのに!」

 思わず声を荒らげてしまい、はっと口をつぐんだ。

「ごめん、そんなつもりじゃ……」
「……無理してるのはわかるわ。さっきだって、笑っていたけど本当はそんな気分じゃなかったんでしょ?」
「だって、せっかく応援してもらっていたのに、まさか愚痴を言うことなんて出来るわけないでしょー。別に大丈夫だって」

 ハーマイオニーの心配そうな言葉に、ミーシャはおどけてみせる。
 長々とため息をつき、ハーマイオニーが諭すように言った。

「今みたいに空気が読めないミーシャでいいのよ。ミーシャは相手のことを考えすぎだわ。フレッドたちだって、別にあそこでミーシャが調子を合わせなくても怒ったりしないわ」

 ミーシャは、目をふせて俯いた。
 
「そうかなぁ。だって、マクゴナガル先生とダンブルドアが楽しそうに話している中、スネイプが〝我輩はそうは思いませんがね〟とかなんとか嫌味言いながら割り込んできたら嫌じゃない?」
「そういうことじゃなくて……」

 話を逸らそうとしているのか、ただ抜けているだけなのか、ハーマイオニーは判断しそこねてはにかんだ。
 すかさず、ミーシャはバッと立ち上がる。

「寝巻きに着替えて、動物もどきの練習する!」
「……それはあなたの勝手だけど」

 ぽつりと付け加えた。

「きっと……グリフィンドールはあなたの味方よ」







 グリフィンドールの一部の人たちはミーシャやハリーを応援してくれたが、そのほかの人たちと他の寮の方々は、ミーシャたちをとことん目の敵にした。
 ミーシャとハリーが付き合っていて互いにずるして代表になった、だとか、ハリーとミーシャで生き残った子同士で選ばれた、だとか、さまざまな噂が飛び交い、ミーシャ自身、単独で行動することも多くなった。

 付き合っているという噂はまだしも、ミーシャ自身も本当に生き残った子だというのは、どこから流れた噂なのだろう。一部の人間しか、知っていなかったはずだ。
 ハリーとロンは喧嘩中のようだし、ハリーもなるべく一人でいるようにしている。ミーシャ自身、廊下を歩いている時でさえ、あちこちから中傷が飛んでくるので、ハーマイオニーを巻き込まないためにも、一人で行動するようにしていた。

「おーいライリー! ポッターとはうまく言ってるのか?」
「代表になって、さぞかしいい気分でしょう?」

 怒りを抑えて無言で廊下を進むミーシャだからこそ、さらに声をかける生徒も減っていく。
 みんなしてなんなんだ。信用性の無い噂に惑わされて。ハリーも私も、好きで代表になったわけじゃない。ああもう、早く動物もどきを習得して、化かしてやりたいくらいだ。

 大丈夫なんて言っておいて、ぜんぜん大丈夫なんかじゃない。ハーマイオニーは気づいてくれたみたいだけど、ああ、自分が情けない。
 中傷するのは勝手だけど、言われているこっちの寂しさがわからないのだろうか。ハリーも私も、どれほど不安か……泣きたいか……。

「やあミーシャ!」

 ぱっと振り返ってみれば、はにかみながら突っ立っているネビルだった。

「どうしたの?」
「あっ、ただの挨拶なんだけど……」

 そうだ。今までは普通に廊下でさまざまな生徒と挨拶を交わしていたじゃないか。ここ最近なかったことだから、思わず用事があるのかと思って立ち止まってしまった。

「あー、挨拶ね……こんにちは! やだ、こっちが恥ずかしい」
「そうだ! よかったら、変身術教えてくれないかな?」

 用事がないと言ったはずなのに、気を使ってくれたのだろう。
 ミーシャは顔をほころばせつつ、声をひそめた。

「いいけど、人のいないところがいいと思う」
「それ、ハリーにも同じこと言われたよ」
「ハリーと話したの?」
「昨日ね。……ぼくら、同じグリフィンドールだろう。力になりたくて」

 いくら避難されても、慰めてくれる人がいる。
 もしかしたら避難されていることに気をつかうより、慰めてくれる人に感謝する方が、もっと大切なことなのかもしれない……。

 ミーシャが返事をしようとすると、ネビルが「あれ?」と声をあげた。

「あれ、ハリーとマルフォイじゃない?」
「なんだかもめてそう」

 ミーシャとネビルは、小走りで中庭の大樹のそばにかけよった。
 辺りを見回したところ、中庭にはセドリックをはじめとするハッフルパフ生、大樹のそばにはいつものスリザリン集団がいる。

「ハリー!」

 ミーシャとネビルが駆け寄ると、マルフォイが眉をあげた。

「おや、ポッターのガールフレンドのライリーじゃないか」
「どうもね、フォイベロス」
「その呼び方はやめろって言ってるだろう! 少なくとも、ポッターよりは長い間、お前が試合で戦ってられるだろうと言ってやっていたのに!」

 ミーシャはふんっと鼻を鳴らした。

「だいたい何? そのバッジ!」
「セドリック・ディゴリーを応援するためのバッジさ。正式な代表の、セドリックをね!」
「……〝汚いぞポッター〟……〝汚いぞライリー〟……。汚いのはいつもゴキブリ回収してるフォイフォイ集団でしょ、マルフォイ!」

 なんだと! とマルフォイが怒鳴った時、ハリーがミーシャの腕をつかみ、廊下のほうへ引っ張った。

「こんな卑劣な奴らを相手にしているのは時間の無駄だ。行こう」
「卑劣……!?」

 ミーシャたちがマルフォイに背を向けた瞬間、マルフォイが杖を構える。とたん、ムーディが割り込んできた。

「そうはさせんぞ!」

 ぱっと振り返ると、ゴイルたちの中に白イタチが転がっていた。
 どしどしと近づくなり、ムーディはイタチを杖で持ち上げ、上下に動かす。

「後ろから襲うやつはけしからん! この、腹持ちならない! 臆病で! 卑劣な! 好悪で!」

 キーキーイタチが鳴く中、あちこちの生徒たちが集まってきた。
 騒ぎをききつけ、マクゴナガル先生が走ってくる。

「ムーディ先生! 何をなさっているのですか?」
「教育だ!」
「そ、それは生徒なのですか?」
「ええい、今は白イタチだ!」

 適当に答えるなり、そばにいたクラップのズボンの中にイタチを突っ込んだ。

「わーっ! とってとってよ!!」

 ゴイルがむちゃくちゃに手を動かす中、ドッと笑いが起こる。
 ミーシャもケラケラ笑いつつ、ハリーに笑いかける。

「ざまあみろね!」
「ああ!」
「でもちょっと可哀そうかも……」

 ネビルの言葉に、マクゴナガル先生がしかめっ面で聞いた。

「ロングボトム、あれは誰なのです?」
「あー、ドラコ・マルフォイです」
「後ろから襲おうとしたので、只今ムーディ先生の教育中です」

 ミーシャが得意げに答えたのと、イタチがクラップの足から出てきたのが同時だった。
 マクゴナガル先生はイタチに杖を向けるなり、授業中のように言う。

「よろしいですか、ミスターマルフォイ。後ろから襲うのは魔法使いとして由々しき行為です。決闘を申し出るなら、正々堂々と申し出ること。大体、あなたはクディッチの時もポッターやライリーに後ろから……」
「先生、強制的に動物にされた人間に自我意識はないとこの間授業で……」

 ハリーが言うと、マクゴナガル先生は「それとこれとは話が別です!」と一括した。そうしてイタチに向き直り、杖で諭すように言う。

「わかりましたか、ミスターマルフォイ。わかりましたね? では」








「ミーシャって、怒ると本当に無言になっちゃうから、話しかけずらかったよ」
「でも、わざわざ挨拶してくれたんだ」

 湖の近くで、ミーシャは根気強くネビルに変身術を教えた。

「……そこはもっと感覚を大事にしないと。いきなり変身させようとするから、変な形になるんだって」
「イメージイメージ……」
「絵を描くときと同じ。変身させたいものの特徴や姿をよく思い浮かべて、感覚を掴んで! そうして……〝パンジーナ〟!」

 ミーシャが杖を振ると、ひゅっと本が木箱に変わった。
 
「ほら、ネビルも!」
「……〝パンジーナ〟!」
 





 ミーシャが一人でグリフンンドールの談話室へ戻ろうとすると、グリフィンドールの塔のそばで、ウロウロしているセドリックを見とめた。
 この状況の中、ハリー以外の代表選手には会いたくない。

 どうしたものか、とミーシャがセドリックの顔色を伺っていると、ぱっとセドリックがこちらを振り向いた。
 目が合っては、今更逃げることなんて不審すぎる。こうなったら、と俯いてそばを通ろうとすると、とうとう声をかけられた。

「ミーシャ……ちょっといいかな」

 ひぃーと俯きながら、低い声でミーシャは答えた。

「……何か用でもあるの?」
「あー、ドラゴンのこと聞いた? ハリーから」
「ドラッ、えっ?」

 きょとんとして、弾かれたように顔をあげた。
 セドリックは、若干はにかみ気味に言う。

「第一の課題。一人に一体だ」
「きっ、きいてない……初耳……」

 混乱しておどおどと言うと、セドリックはわざとらしく笑った。

「はは、それならよかった」

 何がよかったのだろうと思いつつ、ミーシャは汗ばむ手を握り締めた。

「このこと、他のみんなは?」
「あー……知ってるって、ハリーが言ってたよ」
「そう……」

 ふいに体の力が抜け、セドリックを通り越して歩き始める。
 後ろからセドリックの呼び止める声が聞こえた。

「あっ、ねえ! ハリーとゴブレットに名前を入れたのって……」

 むっとして、ミーシャは足を止めてセドリックを振り返った。

「私はハリーともつるんでないし、ゴブレットに名前だって入れてない。みんなはちっとも信じてないみたいだけどね。セドリックが信じるか信じないかは、そりゃあセドリックの勝手だけど」

 じっとミーシャがセドリックを睨むと、セドリックは決まりが悪そうに俯いた。

「いや、その……ごめんよ。でも、バッジの悪口は消してあるから……」

 言われてセドリックの胸元のバッジを見てみれば、マルフォイがつけていたものと違い、ミーシャたちの中傷の言葉には切り替わらなかった。

 ミーシャは「そう」とだけ返事をし、そのままセドリックに背を向け、立ち去ろうとした。
 しかし、またしてもセドリックが声を張り上げた。

「待って! じゃあ、もう一人の生き残った子っていうのは……」

 セドリックの方を振り返らず、ミーシャは足を止める。
 お父さんのエイモスはミーシャのことを知っていたみたいだが、セドリックは詳しくは知らないのだろうか。

「いや、父さんが言っていたんだけど、本当か気になって……みんなも噂しているから……」

 本当だ、と答えてしまえば、またしてもハリーと同じ境遇にあるということで、変に勘違いをされるだろう。
 口を開こうとしたが、言葉が出てこなかった。

 これ以上、噂だとかそういうものに縛られたくは無い。
 ミーシャは、そのまま無言で吹っ切るように立ち去った。