二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ハリーポッターと無名の生き残り ( No.5 )
日時: 2013/04/01 09:02
名前: プリア@保留 (ID: xYJBB/ey)

 大広間で食事中、ミーシャもハリーも腕を骨折しているので、何かと不便だった。とりわけミーシャは利き手を骨折しているので、ナイフを持つ左腕がぶるぶるしている。
 ハリーは何かとレイブンクローの席の方をよそ見し、こぼしてばかりだが、ミーシャも左腕で食事しているので、少なからずこぼしていた。

「……大変そうね、利き手が使えないのは」

 ハーマイオニーに言われ、ミーシャはふーっとため息をついた。
 ロンは第一の課題を思い出したのか、呆れたように言う。

「ハリーは箒でどっか行っちゃったと思えば、ミーシャときたらドラゴンの背中に乗るなんてさ。二人とも正気かよ」
「偉そうに言うなら、ロンもあの場に立ってみなよ。……いたっ」

 思わず右手を動かし、ぴきっと痛みが走る。
 ハリーが微笑し、ミーシャを見た。

「でも、ミーシャはぼくよりか考えてたと思うけど」
「結局、ドラゴンちゃんの目当ては私になっちゃったけどねー」
「……ところで、他の三人はどうやったんだ?」

 ハリーの言葉に、ミーシャも身を乗り出した。

「それ、知りたいかも!」

 すると、ハーマイオニーがはにかみながら言う。

「フラーは……ミーシャと同じ、女子の代表だけど……これ言ったら、落ち込みそうね」
「ああ。まあ一つ言っておくなら、ミーシャよりレディらしい戦い方だったよ」

 にやにやと笑うロンに、ミーシャはむくれた顔をした。

「わざわざどうも」

 ハリーが、話の流れを変えようとするように言う。

「あー、クラムは?」
「そう、すごかったよ! 〜〜〜〜で、力で押さえつけててさ!」

 ロンが、瞳を輝かせて興奮して言った。
 ミーシャは呆れ、頬杖をつく。

「そりゃ頼もしいねー。さすがー」
「おいおい、棒読みすぎだよ。なんだよ、クラムはすごいのにさ」

 ロンが唇をとがらせる。
 ミーシャが、あと一人の代表について聞かないので、ハリーが口ごもりながら聞いた。

「あーっと、セドリックは?」
「セドリックはミーシャと同じように、変身術を使って岩を犬に変えてたわ」
「結局ドラゴンに襲われちゃったけどな」

 ロンが言い、ミーシャがふんっとハッフルパフの席を振り返ったとき、急にどこからともなく名前を呼ばれた。

「ミーシャさん!!」
「はい?」

 声変わりしていない、男子の声だ。
 ぱっと見てみれば、一、二年生の男子たちが四・五人、ミーシャの周りにやってきているところだった。その中で、ひときわモジモジと俯いている子が、ミーシャの顔色を伺いながら言う。

「あ、あの、サインしてください」
「なっ、なんでまた?」

 紙を差し出され、ミーシャはきょとんとした。
 すかさずハーマイオニーが耳打ちする。

「ハリーやミーシャ以外の代表の人たち、今までに何度もサイン求められていたのよ」
「ぜんぜん知らなかった」

 ミーシャはうろたえて男子たちを見る。

「お願いします!」
「あー、の……でも、残念なことに今右腕を骨折中で……」
「左手でもいいです!」
「とっても、とぉーっても雑になると思うけど」

 大げさに言ったが、「でもサインはサインです!」と一行に引き下がりそうに無い。
 仕方がなしにペンを受け取り、名前を書こうとしたところで、ふと思いついた。

「ねえ、日本のひらがな文字で書いてあげようか?」
「外国語ですか? ぜひ!」
「了解。……みーしゃ・らいりー……っと」

 ひらがなとはいえ、なんだかふにゃふにゃした字になってしまった。
 紙を一人の男子に返すと、周りの子が覗き込む。

「なんかかっこ悪くないか?」
「うるさい!」

 サインを求めた男子がぴしゃりと言うと、他の男子がにやにやとこづいた。

「ほら、あとバツゲームは?」
「えー、あれもかよ」
「早くしろって!」

 きょとんとして紅茶を飲むミーシャを差し置き、男子が吹っ切れたように声を張り上げた。

「おおお、踊ってください!!」
「ブッ!」

 ミーシャが紅茶を吹きそうになると、周りの男子たちがヒューと騒ぎ立てた。

「こいつ、まじで言ったー!!」
「ごめんなさい! 今のはジョークです!」

 真っ赤になって頭を下げるなり、そのまま他の男子たちとともに駆けていってしまった。
 なんだか白々しい空気だけが残り、ロンもハリーもきょとんとしてミーシャを見ている。

「えーと、コホン……」

 わざとらしく咳をしてみせた。

「……口から火が出そうなほどびっくりした」
「紅茶が出そうだったじゃないか」

 ロンに言われ、ミーシャはぎろりとロンを睨んだ。
 そうして、ハーマイオニーを見やる。

「踊るなんて、どっからそんな言葉が出てきたのやら」
「それは多分……」
「小包が届いてます!!」





「さあ、皆さんも一緒に!」

 音楽がかかる中、先生の言葉に女子はばっと立ち上がった。
 ハーマイオニーが、ミーシャに向かって言った。
 
「あなたは右手は使えないから……私、とりあえず男役するわ」
「あー、うん」

 ミーシャが答えると、ハーマイオニーがそっとミーシャの腰に手を置いた。
 そのとたん、ミーシャが体をよじらせて笑い出した。

「ちょ、ハーマイオニー! ストップストップ!!」
「な、なによ!?」
 
 ぱっとハーマイオニーが手を離し、ミーシャはふーっと息をはく。

「ごめんなさい。私、くすぐったがりやで……」
「そんなこと言ったってどうするのよ。腰に手を置くのは、基本中の、当たり前のことよ」
「と言われましても……」

 もごもごするミーシャに、ハーマイオニーは吹っ切れたように言った。

「どうしようもないわ。もう一回!」
「ちょ、やめっ!」




 ようやく授業が終わり、次々と生徒たちが広間から出ていって行く。

「あー、さんざんだった……」

 どんよりとミーシャが言うと、ロンがニヤニヤと笑った。

「見たぜ! 君のありえないダンス!」
「あれ、わざと?」

 ハリーの言葉に、ミーシャは空笑いした。

「わざとってもんじゃないよ……大真面目。死にそう」

 すると、背後からマクゴナガル先生の声が響いた。

「ポッター! ライリー!」

 ひとまずロンとハーマイオニーは先に談話室に戻り、ミーシャとハリーはその場に残った。いそいそとこちらへやってくるなり、マクゴナガル先生はハキハキと言う。

「よろしいですか。あなたたちは代表なのですから、パーティに一人でくるなんて、みっともないことはしないこと。必ず相手をつれてきてください」

 〝必ず〟という言葉に、マクゴナガル先生は気合を込める。
 ミーシャは、思わず顔をしかめた。

「そんなぁー」
「そうそう、ライリー。あなたはその腕の怪我が治るまで、動物もどきの練習をしてはいけませんよ」
「えっ……私、平気です」
「ダンスまでには怪我を治さなくてはいけませんし、何よりもまだ第二の課題も控えているのですから。よろしいですね」





 談話室に戻るなり、ミーシャはどさっとソファに倒れこんだ。
 ミーシャの言葉に、ハーマイオニーは腕を組んで言う。

「必ず相手をつれてこいって……それじゃあ、男子に誰も声をかけてもらえなかったら、ミーシャが自分で申し込まなきゃいけないじゃない」
「女子の方から誘うなんて、絶対嫌だわー。あー」

 ソファの上で、ミーシャはゴロゴロと体を動かす。
 そんなミーシャたちをよそに、他のグリフィンドールの女子生徒は、キャーキャーと騒いでいた。

「最近、セドリック・ディゴリーがグリフィンドールの塔のそばに、よく来てるんですって!」
「それ、ホント?」
「早く申し込まないと、ああいうハンサムは売れちゃうわ」
 


 ふいに何か思い至ったように、談話室を出て、ミーシャは保健室を訪れた。ハリーたち三人も、付いてきている。
 ミーシャは、包帯を巻いて、首からつるして固定した右手を、早く治したいと思ったのだ。第一、利き腕を骨折してしまっていては、ろくに生活も出来ない。

「マダムポンフリー、これ、早く治りませんか?」
「今日一日医務室ですごせば、治りは早くなるとは思いますが……。とにかく、あなたがはしゃぎまわらないことが大事ですよ!」

 マダムポンフリーに言われ、ミーシャは苦笑した。

「じゃあ、今夜はここで寝ます。泊りがけなら、きっと治りますよね!」
「そんな、今夜だけで治るわけないでしょう! 部屋で暴れない分、今夜ここで過ごしたら、治りが早くなるかもしれない、と言ったんですよ」

 マダムポンフリーは呆れたように言い、ミーシャが寝る用のベッドの準備に取り掛かり出す。
 ふいに、ぶっとロンが吹きだした。

「人の話を聞かないんだなぁ、相変わらず!」
「うるさいな。怪我人なんですよ、こっちは!」

 ミーシャは言い、ハリーに向き直った。

「ハリーはどうするの?」
「あー、ぼくはいいや。左腕だし」
「そういえば一度、ハリーは医務室で寝たことがあったよね」
「あれは、確か二年生の時だわ」

 ハーマイオニーが言い、ミーシャはあの勘違いナルシストの顔を思い出し、ぷっと笑った。

「そうだそうだ! 骨が紛失した時だよね!」
「笑わないでくれよ。あれは痛かったよ」

 ミーシャは微笑み、思い出したように言った。

「ハーマイオニー、花瓶を持ってきてくれる?」
「なぜ?」
「医務室で過ごすのに何かなきゃ退屈でしょ。変身術でもやってようと思って」

 当たり前のように言ってのけたミーシャに、ロンは呆れたように首を振った。

「こんな時でも変身術かよ。まったく、よくやるぜ」





 セドリックが授業を終え廊下を歩いていると、友人の一人が、ふいにニヤニヤと話しかけてきた。

「おい、セドリックー」
「ああ、探してたんだ。どこ行ってたんだよ」
「医務室だよ、医務室」

 セドリックは、いぶかしげに眉をひそめた。

「なんでまた医務室なんだ?」
「お前はもうちょっと俺に感謝してもいいと思うけどなぁ」
「だからなんなんだよ。早く言ってくれよ」

 ヒューと口笛を吹き、友人は笑った。

「さっき、呪文失敗した同僚を見に、医務室に行ったんだけどな……いたんだよ」
「誰が?」
「ミーシャ・ライリーだよ」

 その言葉を聞き、セドリックはぴたりと足を止めた。
 声をたてて笑いながら、友人はセドリックの肩を叩く。

「こんな機会めったにないよなぁ。女子の中に飛び込めない不器用なお前にとって、絶好のチャンスだぞ! しかも、俺が聞いたところによると、ライリーは、授業が終わったら今日一日医務室にいるらしいからな」

 何も言わないセドリックを差し置き、友人はぽんっとセドリックの背中を叩くと、そのまま走っていってしまった。





 左手で杖を持つのは、予想以上に違和感があった。
 花瓶の中の花をさまざまな種類に変えつつ、ミーシャはため息をつく。

 こうして話し相手がいなくなると、思いだされるのは思い出ばかりだ。
 今のように花瓶の花を変えるのは、一年生の頃、よくやったものだ。あの頃はただただ、魔法が面白くて仕方がなかった。今思えば、随分と簡単な魔法で、おおはしゃぎしていたものだ。

 バタン、と扉が開き、ミーシャははっと振り向いた。
 ……ここ最近、会いたくない人にばかり会う。——セドリックだ。

 セドリックはミーシャの姿を見とめると、はにかむように微笑んだ。

「や、やあ」
「……どうも」

 ミーシャは、顔をそむけ、不機嫌に答えた。

 これくらいの怪我で医務室にお世話になるなんて、情けない。
 セドリック・ディゴリーは、少なくとも、ライバルの一人なのだ。

「……それ、ちょっと貸してもらっていい?」
 
 セドリックは、ミーシャが手にしている花瓶を指差した。

「……どうして?」
「君が変身術を使っていたから、あー……僕もやりたくなって」
「じゃ、なんかすごいのをどーうぞ」

 ミーシャがぶっきらぼうに差し出した花瓶を、セドリックは丁重に受け取った。
 しばらく考え込んだ後、杖を出し、花瓶に向ける。

 すると、ふっと花瓶が白鳥の形のガラス瓶に変わり、やんわりと歌い出した。

「……無言呪文で……」

 ミーシャが目を丸くすると、再びセドリックが杖を振り、花瓶は元通りに戻った。
 そういえば、ムーディが、セドリックは四年の時、笛を歌う時計に変えてみせたと言っていた。

「あー、君もなにか魔法をかけてみてよ」

 もごもごとセドリックに言われ、ミーシャはぶんぶんと首を振った。
 不意に自分がこうしているのが恥ずかしくなり、早口に言う。

「わっ、私もあんたみたいに変身術がうまければ、岩を犬に変えられたのになぁ!」
「でも、あー、君の成績ならもう、出来るだろう?」
「出来ないよ! だってほら!」

 やけくそで杖を振ってみれば、花瓶は、口に花をくわえたヒヨコのような陶器になってしまった。嘴の部分がひょこひょこと動き、鳴き声が聞こえる。
 また恥ずかしいことを! と、慌てて杖を振り、元の花瓶に戻した。

「ほ、ほら! 思いどうりの物に出来ないもの!」
「今の、逆にすごいと思うけど……」
「そうやって、自分が、優秀だからって」

 低い声で唸ると、セドリックは苦笑いした。

「あの、そういうわけじゃなくて」
「だって私が一年の時、〝一年生の変身術の過去最高得点は、セドリック・ディゴリーですよ〟って、マクゴナガル先生が言っていたもの」

 驚いたように目を丸くしたセドリックを見やり、ミーシャは再び目を逸らす。

「で、その点数を抜かしたのも、君……と」

 からかうように言い、セドリックはため息をつく。

「あー、思えば、ぼくも含めてハッフルパフはグリフィンドールにやられてるなぁ。君たちが一年生の時も……あー、君たちの十点ずつで、ハッフルパフがビリの得点になっちゃったし」
「それは……」

 ふいに、何もかも嫌になってきた。
 爆発するような勢いで、ミーシャは声を張り上げる。

「あ、私の友達!! というか、寮の子に、あんたとダンスに行きたい!! って言ってるみたいな人、いたんだけど!!」

 はちゃめちゃなミーシャに、セドリックは弾かれたように目を大きく見開いた。

「何?」
「だから!」
「あー、あの……困ったなぁ……」
「何が!?」

 セドリックは、俯いて、頭に手をやった。

「その……ぼくは、君と……あー、行きたいんだけど」

 ミーシャは、顔をゆがめて俯いた。
 言われるような気はしていた。いつからだろう。わからないけれど、いつか、言われるような気はしていた。
 そういう状況にならないように、していたのに。

 口の中が干上がり、ミーシャは何度も瞬きをした。

「……」
「……?」
「だって、私たち、代表なのに」

 不意に思いがけず、そんな言葉が出てきた。
 なんでもいいが、よし。これでごまかそう。

「あー、代表同士じゃ組んじゃいけないって言われたのかい?」
「そ、そういうわけじゃないけど……代表が一緒になったら、代表ペアが四組になっちゃうでしょ」

 ミーシャの態度に、セドリックは顔をしかめた。

「もしかして、あー……もう他の人に誘われちゃった?」
「ないない」

 あっさりと否定したミーシャにきょとんとしつつ、セドリックは言う。

「でもさ、君とハリーが組んでも、その、四組になると思うけど」
「あっ、あの噂のこと、まだ気にしてるの? 違うって!」

 ミーシャが第一の課題を終えてからというもの、噂はめっきり少なくなった。それなのに、今だセドリックがハリーとミーシャのことを気にしていることに、ミーシャは不安になった。
 ……この間、素っ気無く返事をしたからだろうか。

「とーにーかーく! あの噂のことは忘れて!」
「じゃあ、あの……ダンスは……」

 頭の中が真っ白になった。

「わ、私は只今現在申し込み受付中じゃないから!」
「あー、じゃあ、いつ受付中になるの?」

 すぐに諦めてくれると思ったが、予想以上にしつこい。
 ミーシャは杖を置き、布団の中に潜り込んだ。

「私、怪我人ですから!」
「あー……のさ……」

 布団の中からいっこうに出てこないミーシャに、セドリックは大きくため息をついた。
 しばらく間が開いた後、布団の向こうから、セドリックが言った。

「えーと、それじゃ……お大事に」

 布団の向こうからの声は、どことなくこもって聞こえた。
 バタン、と扉が閉まる音がしたので、ミーシャは布団からこそっと外の様子をのぞく。

 セドリックがいないことを確認すると、布団から出て、ふーっとため息をついた。
 正直なところ、誰ともダンスパーティは行きたくなかった。
 相手がいれば、相手のために綺麗になりたい、と思ってしまう。特にセドリックのような相手なら、余計に。
 人のために何かするのは好きだが、わざわざ自分を醜く見せる相手と一緒にいる必要はない……。

 何気なくそばに置かれた花瓶を見ると、最後に見た花と、その種類が変わっていた。

「この花は……」

 ——リナリア。
 見た瞬間、ふいに喉の奥がはれぼったくなってきて、ミーシャは再び布団に潜り込んだ。

「一生知りたくありませんよーだ!」





 数日後。大広間で勉強中、ロンがハーマイオニーを怒らせた。
 ミーシャも課題を終わらせ、談話室へ向かう。
 グリフィンドールの談話室へ戻ると、不機嫌な様子のハーマイオニーが、暖炉の前のソファに座り込んでいた。

「……ああ、ミーシャね。ロン、どうしてた?」
「もんのすごく! 驚いてたよ。ハリーと、今夜談話室に戻るまでにパートナーを決めるって約束してたみたい」
「そう。驚くなんて、いい気味だわ」

 ハーマイオニーの隣に座ると、ミーシャはにやっと笑った。

「ハーマイオニーのパートナーって、どちら様?」
「……知らないわ」

 ハーマイオニーの素っ気無い態度に、ミーシャはにっこりした。

「さあさあ誰なのか、教えてくださいなー」
「……知らないって」
「ハーミィちゃん、教えましょうねー」
「なんなのよ、急に!」
「ねー?」

 にこにこしたミーシャに、ハーマイオニーは吹っ切れたように笑った。

「教えてもいいけど、お姉さんきどりのミーシャが先よ」
「えっ、あ……その」

 しどろもどろになり、ミーシャはもごもごと俯いた。

「その……私、まだ相手がいないの」
「嘘でしょ!?」

 予想以上のハーマイオニーの驚きぶりに、ミーシャも目を丸くした。

「本当だってば。セドリック・ディゴリーに誘われたけど、はぐらかしちゃったし」
「なんではぐらかしちゃうのよ! 今すぐ謝りなさい!」

 ハーマイオニーの言葉に、ミーシャはきっと言った。

「嫌だ!」
「いやだぁ? ミーシャはバカなの!?」
「バカでもアホでもクズでもゴキブリでもなんでも嫌だ!」

 ミーシャの頑なな態度に、ハーマイオニーはため息をついた。

「なんでもいいけど、なんなのよ。せっかくの誘いを……」
「は、腹立つのよ。きょ、去年クディッチで負けたし、わざわざ医務室まで押しかけてくるなんて……」
「押しかけてきたんじゃなくて、誘いにきたんでしょ、それ」
「そんなの知らないけど……〝喜んで! 一緒にダンス行きましょう!〟なんて言ったら、私の負けでしょ」
「なんの勝負をしてるのよ、あなたは……」

 ハーマイオニーは腕を組み、じっとミーシャを見やった。

「どうするのよ。そんなこと言って、つまらない意地張って」
「意地なんて張ってませーんよ」

 ミーシャの態度に、ハーマイオニーは深々とため息をつく。

「じゃ、他の相手を探すわけなの?」
「……」

 他の相手など、考えてもみなかった。
 むー、と唸り、ミーシャはハーマイオニーを見る。

「一人で踊ったら、怒られると思う?」
「……なんなのよ、あなた」
「どのみち、くすぐったくて踊れないし……」

 ミーシャのその言葉を聞いた瞬間、ハーマイオニーの瞳が光った。

「そ、そうよ! ダンスの練習しておきましょう!」
「いいけど……って、ええ!?」





 同じ頃、セドリックはハッフルパフの談話室でもくもくと読書をしていた。とはいえ、本の内容はなかなか頭に入らず、あのミーシャ・ライリーの姿ばかり浮かんでくる。

 廊下を歩いているたび、男子生徒が女子に申し込んでいるのを見るけれど、みんなすんなり了承を得ている。けれど、あのミーシャ・ライリーは別だ。

「おい、セドリックー」
「ああ……」

 医務室のことを教えてくれた友人が、にこにこしてやってきた。
 セドリックは唸るように返事をする。

「なんだよその顔。どうだ? 成功したのか?」
「しょっぱな断られそうだったよ」
「断られそうになった!? 結局どうだったんだよ」
「はぐらかされた」

 友人は驚くどころか、感心したようだった。

「お前の誘いをないがしろにするなんて、どんな勇敢な女子だよ」

 すると、盗み聞きしていた男子たちが、セドリックの周囲にやってきた。

「なんだよ、振られた話か?」
「違うよ。ダンスの誘いをはぐらかされたって話」

 無言のセドリックをさしおき、友人が言う。

「誰に?」
「ミーシャ・ライリー」

 すると、男子たちが口々に話し出した。

「ライリーって、ドラゴンの背に飛び乗った女子だろ。そりゃ勇ましいわな」
「グリフィンドールの獅子寮女子って、皆そうなのか?」
「そんなわけないだろ。ジニー・ウィーズリーとか美人じゃねえか」
「それだったら、ライリーのこともウィーズリーの双子がヒューヒュー騒いでるじゃないか」
「こんこん言ってるよな。狐みたいに」
「紫の目だもんな! 俺も隠れファンだし」

 友人が、呆れたように話を制した。

「おいおい、こっちは困ってるんだぞ」
「でもさ、ライリーとセドリックって、ライバルの関係だよな。代表のことも、クディッチのことも。あと、ライリーって変身術もやばいんだろ」
「やばいってどっちの意味だよ」
「出来るってことだよ。セドリックも変身術得意だしな」

 その言葉を聞き、セドリックが低く唸った。
 友人がため息をつき、セドリックに言う。

「んでセドリック、諦めたのか?」
「いや……」





 廊下を歩いていても、最近は申し込みの様子ばかり見る。特にダームストラングの連中は、申し込みを了承された後は、女子の手にキスまでしていた。

 あんなのは絶対に嫌だ!

 ミーシャは早足に廊下を歩いていく。

「あー……ちょっと」
「はーい? なにか……」

 歩きながら振り返ってみれば、またしてもセドリック・ディゴリーだ。
 とたん、ミーシャはむっと顔をしかめ、足を速めた。

「何か用でもあるの?」
「あー、いや……その……」

 ミーシャに歩調を合わせつつセドリックは口ごもる。
 ミーシャは仕方がなしに足を止めると、俯いた。

「……何?」
「あー……」

 セドリックが周りを気にしているのに気づき、ミーシャも顔をあげて辺りを見る。予想以上に、周りの生徒にちらちらと盗み見されていた。

「あ、あんた目当ての人でしょ」
「き、君を追いかけている人もいると思うけど……えーと、あとでいいや。あの、後でフクロウ小屋に来れる?」
「……月が昼間に見えるようになったらね」

 そういい残し、歩き出したミーシャだが、歩きながらまたバカなことを言ってしまったと後悔した。
 月なんて、いつでも昼間に見えるじゃないか。薄く。
 まあいい。どのみち、後でリーマスからの手紙を受け取りに、フクロウ小屋へ行くところだった。



 ピィーピィーと、フクロウたちの鳴き声が響いている。
 ミーシャがそろそろとフクロウ小屋へつくと、じっと空を眺めているセドリックの後姿があった。

「あー、月が見えているから……その、来てくれると思った」

 言いながら、はにかむような笑顔を向け、セドリックが振り向いた。
 ミーシャはふーっとため息をつき、素っ気無く言う。

「わ、私は、手紙のために来たんだから。ちょっとでも〝僕のために〟なんて思ったら、あんたの髪を蛇に……」
「何?」
「あー、今のは取り消し」

 また余計なことを言うところだった。
 小さく深呼吸をし、低い声で尋ねた。

「なぜ呼び出したの?」

 理由はなんとなく察しているが、聞きたかった。
 セドリックは俯き、口ごもりながら言う。

「あー、その……君もお察しのとおりだよ。ダンスパーティのこと」
「だから、私もあんたも代表……」
「そのことなんだけど、あー……聞いたんだ。先生に」

 どきりとして、ミーシャはバツが悪そうに顔を背けた。
 セドリックはミーシャの顔色をちらちら伺いながら言う。

「だ、代表同士だから組めないってことはないらしい。それにさ、あー……言われなかった? 先生に、必ずパートナーを連れてこいって」
「言われたけど、それは先生が思っていることで、私はそう思ってないから……いいの!」

 やけくそでミーシャが言ったところで、足音がした。
 振り返ってみれば、ビクトール・クラムが無表情でフクロウに手紙を預けている所だった。

「あー……こんにちは、クラム」
「……」

 なんともいえない空気に嫌気が差し、挨拶をしてみたものの、クラムがじっと黙りっぱなした。
 ミーシャはセドリックに向き直ると、早口に言った。

「じゃ、じゃあ、この辺で! さよなら!」
「あ、ちょっと……」

 逃げるように去っていくミーシャの後姿を見やり、セドリックはクラムの方を振り返った。

「……」
「……」
「……やあ」

 はにかみながら話しかけてみたものの、クラムはじっとセドリックを見つめるばかり。

「……」

 深々とため息をつき、セドリックフクロウ小屋を後にした。