二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ハリーポッターと無名の生き残り ( No.6 )
日時: 2013/08/04 09:06
名前: プリア@保留 (ID: 7EYM.IE5)

ロンと踊るver ドレスは決まっていません;


 どうせ相手がいないのに、と思いつつも、ミーシャはハーマイオニーとともに、ダンスのために美しくめかした。
 
「もっとドレスが似合えばなぁ」

 ハーマイオニーのように、お洒落なクセ毛だったら。
 ジニーのように、燃えるような赤毛だったなら。
 もやもやした気分が晴れないのは、相手がいないからだろうか。
 もっとドレスが似合えば、と思っているからだろうか。

 ため息をつきつつ扉を開けてハーマイオニーの方へ行くと、ミーシャは息を呑んだ。

「ハ、ハーマイオニー……?」
「ああ、ミーシャ。私の髪って、どうしてこうクルクルなのかしら……って!」

 ハーマイオニーが鏡から目を話し、ミーシャを振り返った。
 とたん、ハーマイオニーの目が丸くなり、ミーシャの手を握った。

「あなたミーシャよね! そうよね!」
「そ、そうだけど……」
「私、今日からあなたのファンになるわ!」
「はぁ?」

 ミーシャは思わず声をあげ、苦笑いをした。
 ハーマイオニーはじっとミーシャの目を見つめている。

「その髪と紫の目がとっても綺麗。いつも同じ髪型しかしないから、びっくりしたわ。黙っていれば、本当に清楚で綺麗……フレッドとジョージは早々見抜いてたのね」
「黙ってれば、って何よ、それ」
「いいのよいいのよ! しかもいい匂いもするわ。狐のミーシャの嗅覚に間違えはないわね」
「そりゃあ、私の鼻に間違えはないから! まあ、好みの問題だと思うけど」

 一気に今のミーシャの姿を、すべて解説された気分だ。
 ミーシャは自信ありげに胸を張ってみせ、それから肩を落とす。

「でも、肝心の相手がいないんじゃどうしようもないよ。マクゴナガル先生に、透明人間と踊りますって言ったら、どうなると思う?」
「宿題を白紙で出したロンと同じ目に遭うと思うわ」

 ハーマイオニーが言い、すぐにミーシャの肩に手を乗せた。

「そうよ! あなた、今すぐに会場へ向かって、相手を探すのよ!」
「今更? 直前に? そんなバナナ」
「ふざけてないで、大真面目によ! さあ!」

 ぐいっとミーシャの背を押しつつ、ハーマイオニーは扉を開けた。

「少なからず、日頃あなたのファンがいると思うわ。そういう人で、相手がいない人を探すのよ。こんこん言っていればイチコロよ」
「こんこんとは言わないけど……なんとかする。クラムと仲良くね!」





 恐る恐る階段を下りていくと、大広間の会場に見慣れた四人の姿があった。
 パチル姉妹の片割れのパーバティに、ロンとハリーだ。

「あの子、とっても綺麗ね……」

 ぽつり、とパーバティが呟き、ミーシャがにっこりして手を降った。

「パーバティも!」
「えっおい! その声、まさかこんこんミーシャか?」

 ロンがすっとんきょうな声をあげた。
 ミーシャは階段を下りるなり、ロンへ向き直った。

「いかにも私がミーシャ・ライリーですが、何か?」
「おったまげー。狐に鼻をつままれるってこういうことか」
「ロン、それ意味が違うと思うけど……」

 ハリーが呆れたように言う。
 ミーシャがふんっと鼻を鳴らし、そうしてロンのドレスローブを見やった。

「お、おお……その格好……立派、ね!」
「わざわざどーも」
「ところで、ハリーのお相手はどちら様?」
「私よ」

 パチル姉妹の片割れがにっこりと笑って返事をした。
 ミーシャもこくこくと頷きながら、首を傾げる。

「あれ? パドマは?」
「パドマは、レイブンクローの相手と広間に入っちゃったわ」
「えっ? じゃあ、ロンの相手は……不在?」
「その言い方やめてくれよ。そうだよ、僕には元々いないんだよ。残念でした!」

 悪いことを言ってしまったと思いつつ、ぷっと吹き出した。

「やだ、私、ロンと同類になっちゃったのね」
「同類?」

 ハリーの言葉に、ミーシャはこくりと頷いた。

「私も相手がいないの」
「えっ? それ本当? だってマクゴナガル先生が……」
「ああ、ライリー、ポッターやっと来ましたか!」

 マクゴナガル先生の声に振り返ってみれば、本人がこちらへやってくるところだった。
 ロンが「あー、噂をすれば」と顔をしかめる。

「ポッター、あなたの相手は?」
「あー、ミス・パチルです」
「よかった。ちゃんと相手を誘えたのですね」

 マクゴナガル先生はほっと表情を和らげ、バツの悪そうにしているミーシャを見やった。

「それで……ライリーの相手は?」
「えーっとですね。さまざまな事情によって私の相手はとうめ……」
「まさか、見つけていないのですか?」

 説明以前に問い詰められ、ミーシャは観念して頷いた。
 すると、マクゴナガル先生がうんざりしたように声をあげる。

「あーっれほど連れてきなさいと行ったのに!」
「あの、すみません。ごめんなさい」
「それで? そこに突っ立っているウィーズリーの相手は?」
「あ、僕は一人で踊れますから。相手なんて必要ありません」

 一か八かで言ってのけた発言に、マクゴナガル先生がキーッと顔を赤くした。

「つまり相手がいないということでしょう! まったく、あなたたちは!」

 早口に言い終えた後、マクゴナガル先生はミーシャを見た。

「どうしようもないですね。ライリー、ウィーズリーと組みなさい」
「はぁ?」
「えっ、そりゃないぜー!」
「問答無用です!」

 ミーシャとロンは顔を見合わせ、深々とため息をつく。
 満足げに鼻を鳴らした後、マクゴナガル先生は諭すように言った。

「ポッターもライリーも、準備は出来ていますね?」
「えっ、何の?」

 ハリーが言い、マクゴナガル先生が驚いたように言った。

「ダンスです。代表三人が最初の踊るのが伝統ですよ。今回は五人ですが。言ってあったでしょう?」
「い、いいえ」
「初耳です」

 ハリーとミーシャが口々に言ったが、マクゴナガル先生は即座に答える。

「で、では、今言いました」

 そうして、逃げるように他の生徒たちの方へ行ってしまった。 
 ミーシャとハリーは顔を見合わせ、肩をすくめる。

「なんなの、今の」
「さあ……とにかく、最初に踊らなきゃいけないみたいだ」
「ああ、今日はもうしょっぱなから最悪みたい」
「それを言うならこっちだってそうだよ。だいたい、ハーマイオニーはどうしたのさ?」

 ロンに言われ、ミーシャはにやりと笑った。

「さあね」

 と、何気なく振り返った先に、目に留まるものがあった。
 セドリックだ。結局、お相手は誰なのかと目を逸らしてみると……チョウ・チャン!
 
 私を誘っておいて、結局はあの美少女ちゃんと組んだのか。まったく!
 第一、チョウはハリーが気になっている人のはずだ。
 ハリーは自分が気になっている人といけず、それなのにセドリックは……。セドリックは、私が許可しなかったからチョウと組んだのだろうか。だとすれば、ハリーとセドリックは同じくらい気の毒だが……。

 それにしても腹が立つ。ロンと組んで正解だった!

「ふーっ!」
「な、なんだよミーシャ。動物もどきの練習か?」
「ちーがーいーまーす!!」
「なんでそんなに怒ってるんだよ。僕と組むのがそんなに嫌って?」
「ちーがーいーまーす!!」

 ミーシャの様子に、パーバティはやんわりと微笑んだ。

「女の子はいつだって複雑なのよ」
「……女子ってよくわかんないな、ハリー」
「女子はドラゴンと同じくらい難しいよ」



 パーパカッパー!! パッパカパー!!

 大勢の歓声とともに、代表者が順々に二列になって入場した。
 ダンブルドアから名前を挙げられた者の順なので、ミーシャはハリーの後ろに、ロンと腕を組んで歩いていた。

 歓声の中から、フレッドとジョージの声が聞こえてくる。

「おおっと、女性人は見事に美人揃い!」
「魅惑の妖精女王フラー・デラクール!」
「レイブンの人形姫様チョウ・チャン!」
「大穴ハーマイオニー・グレンジャー!」
「我らが紫の舞姫ミーシャ・ライリー!」
「おい野郎ども! 今夜は美人観戦だ!」
「そして、彼女らのお相手の男性人は!」
「地獄に落ちろ! 呪うぞ! キーッ!」

 ミーシャの隣を歩いているロンが、うんざりとため息をついた。

「なあ、ハーマイオニーの相手がクラムって、夢じゃないよな」
「残念ながら現実のことね。なんなら、ダンス中に足を踏んであげるけど」
「意図的にそうしなくても、君のダンスじゃそうなるだろ」
「おあいにく様! 私、ハーマイオニーと猛特訓したから!」

 そうこう言いあっているうちに、ステージについた。
 歓声がやみ、演奏者の方々と、フリットウィック先生が指揮棒を構える。

 こんなに大勢の人の中で踊るのか……!
 急に緊張してきた。頭の中が、真っ白になる。
 ロンがひそひそとささやいた。

「おい、どうするんだよ?」
「さ、最初は腰に手を……」
「こしぃ?」
「は、早く!」

 演奏が始まり、反射的に手を握って、ロンとミーシャはちょこまかと踊り出した。
 途中、無理にミーシャがロンの手を腰に当てたものの、急にくすぐったさが復活してしまった。

「くっ……ぷっ」
「お、おい、なんなんだよ」
「気にしないで……ひぃぃー、む、無理」
「っていうか、今のところターンだったのに」
「あっ、今のところ私が上がる予定だったみたい……」
「おいおい、なんなんだよ」

 くるくると回るのも、どこかしらふにゃふにゃした動きだ。
 ロンはもちろんダンスはまったくと言っていいほど練習しておらず、ミーシャも今のような状態なので、散々なダンスだ。

「おい、相棒。あれ見ろよ」
「なんだありゃ。ひどいな」
「あそこだけナメクジだな」

 フレッドとジョージが、ミーシャとロンの不自然な動きを見て笑った。そうして、ふんふんと鼻歌を歌うながら、踊るような素振りをする。

「ははっ! ロニー坊やはダメだなー!」
「まったく、ミーシャの扱いが下手だね」
「ああいうおてんばはもっとこう……!」






「どうして全部、ぶちこわしにするの!!」

 ハーマイオニーの怒鳴り声が聞こえたと思い、ミーシャが広間から出たとたん、ハーマイオニーが乱暴な足取りで階段を上っていくところだった。

 階段のそばに、ロンとハリーがぼさっと突っ立っている。
 ミーシャは、スカートのすそをめくりあげて駆け寄った。

「ハーマイオニー、どうしたの?」
「おい、ミーシャ、そうやって走るのやめろって」

 ロンが苦笑いして言い、ハリーが口元で微笑んでからかった。

「相変わらず行動で損しているよ、君は」
「私のことはどうでもいいの! ハーマイオニーは?」
「知らないね。おっかないくらい怒って帰っていったよ」

 やれやれというように首を振りながら、ロンはため息をつく。
 ミーシャがハリーに目を向けると、ハリーは声を潜めた。

「ロンとハーマイオニー、喧嘩したんだ」
「なんでまた?」
「今だから言うけど……多分、妬いてるんだと思うよ」
「やっぱり? もちのロンだけにやきもち? もちのヤキ?」
「ただの嫉妬だと思うよ、うん」

 ハリーとミーシャが声を潜めていると、その間にロンが手を割って入った。

「はいはい聞こえてますけど、お二人さん」
「……まったく、そんなことでハーマイオニーを傷つけるなんて! 私が許さないわよ!」
「許すも何も、君に許しなんかこうてないさ。ナメクジダンスの君にね」

 ミーシャは痺れを切らして、ハリーに向き直った。

「ハリー!!」
「なっ、何ごと?」

 急に太い声で言われ、ハリーはびくりと身を震わせた。
 ミーシャは、じりじりとハリーに詰め寄る。

「ハリーは普通にダンス踊っていたよね。練習したの?」
「いっ、いや……パーバティがリードしてくれたんだ」
「ほら見なさいロン! どっちかがリードすべきだったのに!」

 ミーシャに言われ、ロンはバツが悪そうな顔をした。

「何言ってるんだよ。どっちが女の子だよ。パーバティがリードしてくれたんだったら、ミーシャもリードすべきだろ。だいたい、練習してきたって言ってたのはどこのどいつだよ」
「そっ、それは知りませんよ!」
「なんなんだよ、君は……」
「しょうがないでしょ。全部頭から吹っ飛んじゃったんだから」
「どうせあがっちまって、頭の中でインセンディオでも起こしたんだろ」

 皮肉とからかい混じりにロンが言った時、こつこつと足音が響いた。
 三人でぱっと振り返ってみれば、ハリーもミーシャも会いたくない二人組み……セドリックとチョウだ。

 ハリーは二人の姿を見るなり、「あー……」と顔をしかめた。

「ごめん! 早く戻らないと、ヘドウィグが餌が欲しい欲しいってやかましいんだ。それじゃ!」
「ちょ、ハリーずるい!」

 ミーシャが追いかけようとすると、ロンにぐっと肩をつかまれた。

「一人にしたら僕が困るだろ!」
「あー、それもそうだけど……」

 ごちゃごちゃ言いあっているうちに、ミーシャはチラリとセドリックたちを見やる。

「チョウ、今日はありが………あっ」
「私こそありがとう、セドリック。あら!」

 チョウがミーシャたちに目をむけ、にっこりと手を降った。

「こんばんは! ミーシャ、ロン」
「あ……」

 セドリックがミーシャを見やる。
 チョウは相変わらず可愛いなぁと思いながら、ミーシャも自然と微笑んだ。

「こんにちは! じゃなくて、こんばんは!」
「あなたのその姿、とっても素敵。ふふっ、私、ファンになっちゃうかも」
「チョウもね!」
「でもちょっと動きにくいのよね、ドレスって。クディッチばっかりやってるからかしら……職業病? なーんてね」
「チョウはシーカーだもんね、レイブンクローの華!」

 ミーシャが言うと、チョウはきょとんとして首をかしげた。

「シーカーと言えば……ハリーはどうしたの?」
「ヘドウィグに餌をやらなきゃとか言って、談話室にすっ飛んで行ったよ」
「そうなの。ハリーには悪いことしちゃったけれど」

 チョウが俯き、ロンがへっと鼻で笑った。

「よく言うぜ」
「あ……ロン、その格好……とっても面白いわ」
「言われても嬉しくないけどなー」
「だって、あなたたちのダンス、とっても面白かったもの。ねえ、セドリック」

 急に話を振られ、セドリックはうろたえたように目を泳がせた。

「えっ? あ、あー……そうだね」

 恥ずかしいような腹立たしいような気持ちがわき、ミーシャは思わず俯いた。
 チョウが壁にかけてある時計を見やり、ミーシャたちに向き直る。

「もうこんな時間なのね。じゃあ、この辺で私は……」
「あっ、あー……ミーシャ。あの、話があるんだ。……課題についての」

 もごもごとセドリックが切り出し、チョウがぽんっとセドリックの肩を叩いた。

「そうよ。セドリックとミーシャは、ホグワーツの代表なのよね。二人とも頑張って!」
「ああ、頑張るよ。……ミーシャ、い、いいかな?」
「えー……えーっと、まあ……」

 この場でうまく断ることが出来ず、流れで返事をしてしまった。
 またやってしまった、と思いつつ、ミーシャはロンに向き直る。

「ロン、先に談話室に戻っていて。なんなら、わざとついてきてもらってもいいけどね」
「よく言うぜ。そんなことしたら、そこのセドリックにとっちめられるだろ」


☆   面と向かってセドリックと呼んだことない。


 ミーシャは俯き、ぎゅっと両手を握り締めた。

「それで……話ってなあに?」
「あー、えーっと……君……お風呂に入るのは好きか?」
「いっ……な、急に何?」

 ぎょっとしてミーシャが顔をほんのり染めると、同じだけセドリックもうろたえたようだった。

「あー……へ、変な意味じゃないんだ! とはいえ、女の子の君に聞くことじゃないか……ごめんよ」

 セドリックははにかみ、もごもごと切り出した。

「えーっと、それで……六階の『ボケのボリス』の像の左側、四つ目のドアに、監督生用の風呂場があるんだ。『パイン・フレッシュ、松の香爽やか』って合言葉なんだけど……」
「……それがどうかしたの?」
「あー……あそこはなかなか良い所だ。卵を持っていって、お湯に使って、じっくり考えるといいよ。えーっと……」

 ミーシャは、目を細めた。
 監督生用の風呂場に、私に入れと? そのために合言葉を?
 なんだかしっくりこない気がする。

「……話ってそれだけ?」
「それって、ダンスのこと? あー……」
「……もういいけどね。こうなったら、今回のトーナメント、意地でも頑張ってあんたに勝つから!」
「……あー、僕も去年みたいにマグレなんて思われないよう……頑張って勝つよ」

 セドリックの言葉に、ミーシャは小さく笑った。

「それはあんたの勝手だけど。あんたとチョウ、とっても綺麗だったもんね。ダンスに関しては、私、もう負けてるわ」
「君とロンも……あーいや、なんでもない」

 最後に話したときより、さらにつっかえながら話している気がする。

「あの……君、その格好……その……えーっと」

 そこまでセドリックが言った所で、しゃがれた声が割り込んできた。

「ほれほれ! 青春を楽しむ前に、さっさと帰れ! どこぞの教授たちに見つかるとやかましいぞ!」
「あっ、先生」
「むっ、ライリーか。ウィーズリーとお前のダンス、呪いのダンスかと思ったぞ!」
「あ、は……ある人にはナメクジだと言われました」

 苦笑いしてミーシャが言うと、ムーディ先生は盛大に笑った。

「はっはっはっ。面白い。今度授業で、ナメクジで相手を呪う呪文を練習しよう! ん? 人が作り出したナメクジより、野生のナメクジのほうが新鮮だけどな!」
「あー、そうなんですか。無駄知識ありがとうございます」
「わしに向かって無駄知識というとは、いい度胸だ! 獅子寮め。ほれほれ、帰れ! あまり残っていると、企みがあるんじゃかいかと思って呪うぞ! それともなんだ? わしと踊るか?」
「えーっと……遠慮しておきます」

 ミーシャは言い、とりあえずセドリックに断りを入れた。

「じゃあ、また今度……ね!」
「えっ、ああ、うん」

 ドレスのすそをめくりあげて歩いていく後姿を見やり、ムーディ先生がにやりと笑った。

「覚えとけディゴリー。ああいうのを無駄美人っていうんだぞ!」
「あー……そうかな」
「そう思うか? わしの経験上の話だ! なんだその疑う眼差しは? 呪うぞ!」





 ダンスパーティの翌日。
 ミーシャはネビルとともに、再び湖のそばで自習を行っていた。変身術をミーシャがネビルに教えた後、ネビルは湖の浅瀬に足まで浸かり、本を片手に植物を調べている。

 ミーシャもネビルと同じくらいに薬草学に興味があるので、ともに観察し、調べるのはとても楽しかった。

「どう? その本、ムーディがくれたんだけど、面白いでしょ?」
「うん、とっても! 特にこの……変身関係の植物・花が!」

 地面にあぐらをかいて座り、ミーシャはばらばらと本をめくる。

「やっぱり、同じ植物系でも伝説や言い伝えがあるものが面白いなー」
「わかるよ! 名づけられた経緯とか知ると、面白いよね!」

 ネビルがいい、急に「ああっ!」と叫んだ。

「何? どうしたの?」
「さっき見つけた植物……落としちゃった。どれだかわからない」
「あー……それなら」

 ミーシャは杖を出し、すっと湖に向けた。

「アクシオ!」

 言ってみたものの、ちっともこちらに向かってくる兆しが無い。

「……」
「……」
「……そりゃ練習してないし、ハリーみたいにうまくいくはずないか! あはは!」

 ミーシャはスカートをまとめて後ろで縛るなり、意気込んで湖の中へ足を踏み入れた。

「えっ、ちょっとミーシャ」
「いいのいいの!!」

 ぬかるんだ底に手を入れて探っていると……。
 ざっとミーシャは手を引き上げた。ばっと泥水が散る。

「とった! これでしょ?」
「あ、ありがとう。でもミーシャ、その服……」





 その日の深夜。
 監督生用のお風呂に入るには、人のいない時間帯に行くしかない。

 意識が消えるまで何とか持つはず……と、ミーシャは夜中に談話室を抜け出し、狐姿で六階へ向かった。ひたひたひた、と、リズミカルで小刻みな足音が響いている。

 『ボケのボリス』の像の左側、三つ目のドアまで狐姿でゆうゆうと進むと、四つ目のドアの前で人間の姿に戻った。
 だいぶ頭がぼんやりしているが、三年の時よりも、長く狐姿でいられていた気がした。

 誰もいない中、監督生だけの特権の風呂に入るのだと思うと、胸が高鳴る。

「……『パイン・フレッシュ、松の香爽やか』……」

 ギィーっと軋みながらドアが開き、ミーシャは恐る恐る足を踏み入れた。

「わぁ……まさに大浴場」

 白大理石で出来ており、まさにプールみたいに長い浴槽だった。
 そのまま飛び込みたい気持ちを抑え、ミーシャはひとまずバスローブに着替えた。

「そういや、ここに来るまで誰の足音もしなかったな。狐の私の耳で聞こえないんだから、本当に誰も見回りしてなかったのかも……」

 ぶつぶつと呟きながら、卵を片手に、ミーシャは大浴場へと足を踏み入れる。卵を脇に置くと、ひとまず蛇口の前にしゃがみこんだ。

「一、二、三、四……蛇口、これいくつあるの? 百個?」

 蛇口の取っ手にはそれぞ違う色が嵌められている。
 ミーシャはまず、自分の一番好きな色、赤い蛇口をひねってみることにした。

「赤赤……よいしょ」

 すると、赤いお湯とともに青とピンクの泡がもくもくと湧いてきた。

「すっごーい!! ということは、他の色は……」

 次に、目に留まった黄色の蛇口をひねってみる。雪のように柔らかな泡が、ふわふわと湧き出てきた。
 ミーシャは泡を取り、両手ですくって頬に当ててみる。

「んー、気持ちいい。こっちは……私の目の色!」

 紫色の蛇口をひねると、なんともいえない心地よい香りが漂うとともに、雲のように柔らかな泡が湧いてきた。

「ぜんぜん興味なかったけど、このために監督生になっても損はしないかも……!」

 言いながら、緑色の蛇口に目を留めた。

「あのフォイにはムカつくけど、緑色もやっぱり色合い的に必要よね」

 ギュッとひねると、グギィィィィと軋みながらかびたような小さな泡がポタポタと垂れてきた。
 ミーシャは反射的に、素早く蛇口を閉じる。

「何、今の……。……なかったことにしよう」

 言いながら、ミーシャは辺りを見回した。
 もうだいぶ浴槽が泡と水で満たされ、湯気がふわふわと漂っている。
 きちんと閂は閉めたはずだし、誰も入ってこれないはずだ。

「さて……監督生の風呂場、いざ!」

 バスローブを脱ぎ捨てるなり、ミーシャはざっとお風呂に使った。
 そうして、前のめりに泳いだり、バタ足をしてみたりする。もくもくと泡があわ立った。

「小学生のプール以来かも!」

 ハーマイオニーも一緒だったら、さぞ楽しかっただろう。

「ジャパニーズスタイル! って教えたかったなぁ」

 言いながら、持ってきたタオルを頭の上に乗せた。
 そうして、思いだしたように卵に目をむける。

「そうだ。今日の目的は卵のためだった」

 卵を手に持ち、撫でながらじっくりと見つめる。

「あの人、お風呂に入れとしか言ってくれなかったし……回りくどいし、もごもごしてるし……」

 ぶつぶつ言いながら、カチャリと卵をあけた。

 キエエェェギャエェェェェーーーーー!!

「うーひどい!」
 
 ガチャリと乱暴に卵を閉めると、ミーシャはため息をつく。
 お風呂でじっくり考えろなんて……。

「私ならそれを水……」
「よし、もう一度!!」

 キエェェェェェギェェェアエァァァーーーー!

「ちょっと!! 人の話を聞きなさいよ!!」
「えっ!?」

 ミーシャは卵を閉めると、きょろきょろと辺りを見回した。

「どこ見てるのよー! こっちよこっち!」
「……! マートル!」

 声に振り向いてみれば、天井辺りをあの嘆きのマートルがゆらゆらと飛んでいるところだった。にやりと笑い、するするとこちらへ飛んでくる。

「はぁい、ミーシャ。緑の蛇口を開けるのは誰かと思ったら、あんただったのね」
「……相変わらず神出鬼没なのねー」

 ミーシャが言うと、マートルは歌いながら宙を旋回した。

「この間トイレの配水管を散歩していたらポリジュース薬が詰まっているのをみたんだけど、あんたまたワルサしてるんじゃないでしょうねぇ?」
「ポリジュース? あれはもうやめたけど……本当?」
「ええ。あの薬は一度見たら忘れないもーん。またあのトイレに遊びにきてくれればいいのにー」

 ミーシャは思わず、ひひっと苦笑いした。
 マートルはふんふんと鼻歌を歌い、ミーシャの方を見る。
 
「それで? その卵は?」
「あー、これは……」
「この間のハンサムさんが持っていた物と同じかしら?」

 ミーシャは、反射的にマートルを見上げた。

「ハンサムさん?」
「ええ。——セドリックよ」
「……ああ、あの人……」

 ミーシャは、ため息をついて顔をしかめた。

「あんた、いつもそうやって覗き見してるの?」
「時々ねー。セドリックはいつも蛇口を黄色、紫、赤の順にひねるの。でも最近は紫、黄色、赤の順ねー」
「あっきれた! クセまで覚えてるくらい常習犯じゃない」

 ミーシャは言い、足をばたつかせた。

「なんだったのさ。おととし、一人で寂しいメソメソマートルとか言ってたのは」
「あなたたちに会ってから、自信がついたみたいなのよねー」
「自信って……そういうのを自信っていうの?」
「もちのロンよ! ……これ、あの赤毛の子のまね。似てた?」
「……あー、うん」

 マートルは、歯を見せていたづらっぽく笑った。

「最近の趣味はここに来ることと、水道管の散歩よ!」
「はぁ、それはそれはいい趣味でして」
「他の三人に言っといてちょうだい。嘆きのマートルは水道管点検のマートルに生まれ変わりましたってね」

 得意満面のマートルに、ミーシャはぷっと吹き出した。

「水道管点検のマートルって……自分で名付けたの? ネーミングセンスひどいよ、それ」
「うるさいわねー。ほーんと、あんたは二年前とちっとも変わってないじゃないの。私がこぉんなに変貌を遂げたっていうのに」

 その言葉に、ミーシャは少し肩をすくめた。

「みんな変わっていくのに、私だけおいてかれているみたい」

 返事を期待してマートルを見れば、マートルは鼻歌を歌いながら足をバタバタさせている。
 ため息をついたところで、ミーシャはようやく卵の存在を思い出した。

「そうだよ! 元々卵のためにここに来たのに。なんでこんな話になったんだろう?」
「セドリック・ディゴリーの話になって、覗き見っていう話をし出してからよ」
「あの人のことはもういいの! 私は卵の謎を解かないといけないのに……」

 マートルはふわりと飛び上がり、こちら側にやって来た。

「だから、私ならそれを水の中につけてみるけどって、最初に言ったじゃない」
「……水の中ぁ? なんでまた水の中で?」

 きょとんとしてミーシャが声をあげると、マートルはケラケラと笑った。

「あのハンサムさんはそうしてたわよー? 真似するかしないかは、あんたしだいだけどねー」
「真似って……嫌な言い方してくれるねー」

 あのセドリックのことだ。間違っているはずがない。水の中で卵を開ければ、何かヒントが得られるのだろう。
 それでも、「真似」といわれると癪に障る。ただでさえあの人に教えられてここに来たというのに、また方法を真似るなんて。

「何よ、珍しく黙っちゃって。つまんない意地でも張ってるのー?」
「……真似じゃない。真似するんじゃなくて、参考にするんだもんね」
「どっちでも同じことじゃないの。何を意地になっているのよ、あんた」
「やぁかましい……!」

 早口に言うと、ミーシャは吹っ切れたように水の中に潜った。そうして卵を手に取るなり、ガチャリと開けた。

「……!」

 開いた卵の隙間から光とともに、歌声が流れている。

 
 探せ 声を頼りに 地上では歌えない
 探せよ一時間 我らが捕らえられしもの

 

「いちじ……っ!」

 思わず口を開いた瞬間、泡が口に流れ込んできた。ぶくぶくと泡を吐き、ミーシャは水面に顔を出す。

「うえっ! 泡が口に入った! ゲホッゲホッ」
「水の中で口を開くからよ! まーぬーけーねー!」

 ゲラゲラと笑いながら、マートルはミーシャに寄り添った。

「あーら。水も滴るいい女かもしれないわねー。ウフフ」
「うー。そんなことより……今の歌って次の課題のヒントなの? わーけわかんない」
「冷静になりなさいよ。あんたってバカだけど、真面目になればまともじゃないの」

 頭を小突かれ、ミーシャは卵をじっと見つめた。

「……地上では歌えないってことは……マーピープル? マーピープルって、確か湖にいるよね。えっ、えっ! いや、そのまさか!?」

 まさかとは思うが……ミーシャはじたばたした。

「何よ? わかったの?」
「いや、まさか……湖の中で一時間……探し物をしろと?」
「だーいせいかーい! さすが、そっちの頭だけはまともなのねー!」

 湖の中で泳ぎながら宝探しをしろとでも言うのだろうか?
 ダンブルドアがこの競技を考えているのだとしたら……ああ、さすが頭のおかしい偉大な魔法使いだ。

「なんでわざわざ湖なんかで……」
「しかも、一時間ねぇ……?」
「そうだよ! 一番重要なのはそこ! 一時間も水の中で息を止めてろって? おかしいでしょ? えっえっ?」

 取り乱して足をばたつかせるミーシャに、マートルは優雅に跳びまわってみせた。

「相変わらずうるさいわねぇー。それを何とかするのが魔法でしょ?」
「そう言われましても……」
「それとも? ポリジュース薬で魚人にでもなるのかしら?」
「んなムチャクチャな……」

 猫の毛で猫人間に変身したハーマイオニーのように、魚の鱗で魚人になることが出来るのだろうか? そんな危険な真似、大事なトーナメントで出来るわけがない。

 放心したように、ミーシャはぼんやりと上空を舞う泡を見つめた。泡にまぎれて、マートルがゆらゆらと飛んでいる。

「でも、リアクションはともかく、あんたはセドリックよりは早かったわ。その歌の意味を理解する時間がね。セドリックの時は、もーっとかかったわ。お風呂の泡がすべてなくなってしまうくらい」
 
 それなら、少なくとも、その部分だけはあの人に勝ったということだ。
 一年生の時から魔法界の生き物に興味があり図書館でさんざん調べたけれど、まさかこんな所で役立つとは思わなかった。

 あの冷静なセドリックも、湖に一時間と聞いて、慌てただろうか……。





 次の日。湖に一時間いるためにどうしようかとミーシャが悩んでいる間、ハリーはまだ卵の謎で四苦八苦しているようだった。ミーシャは図書館で借りてきた本を読みつつ、ソファに寝転んでいるが、ハリーは卵を抱えて談話室をうろうろしている。

 その姿が面白くて、ミーシャはセドリックのようにハリーに助言しようと思った。

「ハリー・ポッターさーん。お取り込み中?」
「……あー、ミーシャ」

 ハリーはぐったりしたように立ち止まり、ミーシャのそばにやってきた。
 ミーシャはにんまりとすると、ハリーの持つ卵を見つめた。

「卵のこと、今どんな感じ?」
「わざわざきかないでくれよ。そういう君は?」
「私はねー、ひらめきがインセンディオして進むべき道がルーモスされてるよ」

 からかいながら言ったが、ハリーは真に受けてミーシャをまじまじと眺めた。

「君、いつもにも増しておかしいよ。大丈夫?」
「まぁ聞いてって。オッホン。六階の『ボケのボリス』の像の左側、四つ目のドアに、監督生用の風呂場があるんだって。『パイン・フレッシュ、松の香爽やか』って合言葉だそうで」
「あー、うん」
「あそこは、もう卵の謎もアロホモーラされるくらい気持ちのいい場所なの! 卵を持っていって、じーっくり考えてみるのがオススメ!」

 ふんふんと頷いていたが、突然ハリーは「えっ?」と眼鏡を上に上げた。

「何? つまり君、そこに行ったの?」
「どーでしょう?」
「その顔! 行ったんだろう! どこで合言葉をきいたの?」
「狐の私に出来ないことはないのでーす」
「……」
「ちょっと、反応してよ! わかったよ、真面目に話すから」
「そりゃありがたいね」

 いい加減呆れたハリーに、ミーシャは咳払いして仕切りなおした。

「セドリック・ディゴリーに聞いた話なの。本当に、卵を持って行ってみて。