二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 名探偵コナン —最後の銀弾(シルバーブレッド)— ( No.70 )
日時: 2012/09/05 17:37
名前: 未熟な探偵シャーリー ◆CwIDAY6e/I (ID: ZnME3JLW)

File13 手掛かり


「そっか、哀ちゃん……」

愛莉は大きくため息をついた。

「よーし、哀ちゃんの為にもアルのためにも組織を根絶やしにしてやる!そして三人で一緒におっきくなって……」

コナンはハッとした。
コナンは自分を元の姿に戻るために組織を追っている。
じゃあもし、組織の秘密を次々に暴き、そして解毒薬を飲んで自分が元に戻ったらあいつ等はどう思うんだろう?
元太、歩美、光彦、自分を慕ってくれた事件で会った子供達とか、クラスメイト。
元々江戸川コナンなんていう小学一年生は存在しない。中身は工藤新一なのだ。
自分が工藤新一で高校二年生だ、と打ち明けたらあの三人はどう思うだろう。
想像したら、心が締め付けられた。
そしてどこか、新一の中にコナンのままでいてもいいかな、という薄っすらとあった。

「新一君?」
「え」

目の前にドアップで愛莉がいた。
薄茶色のクリクリした目が真っ直ぐ新一を見つめ、何かが心の中に入ってくるような気がした。

「ち、ちけーよ」
「だって何か考え込んでる……」
「何でも無いって」

とりあえず笑って促した。
すると、哀が濡れた髪の毛をタオルで乾かしながら出てきた。

「お早いおつきですこと」
「ま、まあな」

苦笑いをして、哀は目の前を通り過ぎた。
シャンプーの香りが微かに匂う。

「さ、早く見よう!」
「あのメモリカードを?」

哀は阿笠博士がいれといたコーヒーを一口飲んだ。
もちろん!と愛莉が張り切っているのをよそに、哀は冷めた態度で椅子に座り頬杖をかいた。

「やめといたほうがいいわ」
「な、どうして!」

愛莉は哀に詰め寄ると、哀はキッと睨みつけた。

「安藤さんはまだ組織の事何も知らないじゃない。知ってるの?どれだけ奴らが恐ろしい組織かということを」
「知ってる!さっき新一君に聞いた!!」
「聞くのと見るのでは大違いよ。用意周到且つ、組織の情報漏れに繋がるようなものは全て拭き取る。そして、まだ私達が生きている事に奴らは気が付いていない。ここは気づかれないように、今までどおり暮らしていくのが無難よ」
「なっ……」

冷静に言い返されたのが、ムカついたのか愛莉は更に哀に詰め寄ろうとしたが阿笠博士にとめられた。

「とか言ってもね」

突然哀の雰囲気が柔らかくなった。
フッと笑みをこぼして、愛莉を見つめた。

「そこの頑固でお小さい探偵さんは全く聞こうともしないから、仕方ないわね」
「え……」

哀はコーヒーを飲み干して、ついてきてという表情を浮かべ地下室に向かった。
コナンも愛莉も急いで哀に続く。
薄暗い階段を注意深く降りていくと、突き当たりにドアがあった。
ドアノブをまわすと、既に電源がついているパソコンが暗闇の中を照らしていた。
事務的に光っている青白い光は不気味だった。

「先に昨日見てたのよ。何か危険な装置とかついてないかどうかとかね」
「で、どうだった?」

コナンが緊張気味に尋ねると、哀は安心したように首を振った。

「何もなかったから、多分大丈夫ね」
「そっか、良かった!で、何がかいてあるの……?」
「そう、そこが問題」

哀は椅子に座り、画面に向かって顎でしゃくった。
コナンと愛莉が見ると、そこには真っ白のページにパスワードの入力欄があるだけで、他には何も無かった。

「……なあ、安藤。このメモリカードを見つけたとき、周りに何も無かったか?」
「残念だけど、そんなものは無かった。無造作に置かれていたから……」
「諦めたら?」

哀はせせ笑うかのように呟いた。
愛莉は愕然として、そしてうな垂れた。唯一の手掛かりだと思ったからだ。
コナンも必死に手掛かりになりそうなものを画面の中から、記憶の中から探り出そうとするが何がいいかさっぱりわからなかった。

「……諦めるしか、ないのかな」

愛莉はポツンと呟いた。
パスワードという壁を越えた向こうに組織のアジトがあるのに、指をくわえてただ何もしないなんて、コナンにとっては無念そのものだった。