二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第零章/The Strongest Fighter? ( No.1 )
日時: 2012/08/24 20:07
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: x40/.lqv)
参照: 第一篇/Command Miss (ミスから始まる物語)


 『大乱闘スマッシュブラザーズ』
 ……なんてゲーム、皆知ってるだろうか。

 知ってるなら幸いだけれど、知らない人の為に一言。
 某ピンクの悪魔を生み出したゲーム会社が作った、某世界一有名な配管工を生み出したゲーム会社のキャラクターやら、某世界的に有名なハリネズミを生み出したゲーム会社のキャラクターやらが出てきて乱闘しまくる、要は対戦ゲーって奴だ。
 断じて格ゲーとは言わない。断じて。

 さて、そんな『大乱闘スマッシュブラザーズ』——略して『スマブラ』を、今日の私はかれこれ五時間ほどやりまくっている。ちなみに、ただ『スマブラ』と言ってるけど、やってるのは無印じゃない。Xだ。
 大乱闘の名の下に、誘った三人の友人はCPUにフルボッコ。その挙句数時間前に力尽きて寝てしまい、やっているのは私一人。深夜三時の一人部屋で、光源はテレビと上の豆電球だけ。動いているのは画面の中のマリオとリンクとピカチューとキャプテン・ファルコン、そしてコントローラを握る私の指。
 うるさい静寂の漂う画面の中、飛び掛ってきたリンクにスーパージャンプパンチをお見舞いしてやろうと身構えた私は、必殺Bボタンを押した……はずだったのに。緊張と力の篭った右手の親指は、何か変なボタンを押してしまっていた。少なくともBじゃない。
 「あ゛っ、しまっ」
 画面の中で、何か良く分からないモノを繰り出したヒゲに、リンクのマスターソードが突き刺さる!
 やばい、と私が復帰の手続きを考えはじめたそのとき、画面が不意に切り替わった。

 “力を貸してくれないか”

 真っ黒に塗り潰された画面。
 そのど真ん中に映った、真っ白な文字。

 「!? なっ、なんじゃこりゃッ」
 とりあえずレバガチャしてみたけれど、反応しない。カチカチカチカチ、と3Dスティックを弾く音だけが、自分以外に誰も居ない部屋に虚しくこだまする。画面は相変わらず黒のバックに白い文字のまま。ええいままよとリセットボタンを押してみたけれど、画面は一向に変わる気配はない。
 ならばとディスクを出してみたけれど、浮かんだ白い文字はそのままだ。本格的にヤバいじゃないか!
 「な、ちょ、ちょっとちょっとちょっと!」
 ……バグか、それとも何か変なプログラムが入り込んでしまっているのか。
 ともかく焦りがつのる。

 “このままでは そうしてゲームをすることも儘(まま)ならなくなるぞ”

 何もしてない、というか何やっても反応しなかったのに、いきなり白い文字が別のに変わった。
 「えっ、ちょっ。あたしに言ってるのかそれ」
 だめだ、困惑するっきゃない。

 最終手段、Wiiから伸びる電源コードに手を伸ばしたとき、画面が三度切り替わった。

 “やめてくれ 頼むから話を聞いてくれ”

 流石のバグも力の源を絶たれてはどうしようもないと言うことか。とりあえず電源コードからは手を離して、私は引き続きレバガチャでカチカチやってみた。
 勿論、さっきやって無駄だということは知っている。現状を回復しようとしてこんなことをやるなら私はただの馬鹿だ。これすなわち、こんな気まずい中で何もせずにいられるか、と言うこと。静謐をカチカチカチカチと言う単調な音が埋め尽くしていく。うるさいくらいがちょうどいいだろう。
 三十回ほどレバガチャしまくったところで、画面が切り替わった。今度は白い文字が多い。

 “力を貸してくれ こちらの世界が終わろうとしている”
 “嘘や与太(よた)ではない そしてそちらの世界とも関係のあることだ”
 “もしもこちらの世界が滅び去ってしまったならば、”
 “そちらの世界も ただでは済まされまい”
 “力を貸してくれ 私達の為に 貴方達の為に”

 手書きの文字が並んだ文章から、ウソらしい臭いはしない。
 ただし、疑問は山盛りだ。

 この文章を書いてるのはそもそも誰だ?
 ただのゲームなハズなのに、なんでこんな文章が出てきたんだ?
 そしてこれが嘘でないなら、どうしてただの高校生に、そんな大事な用を任せるのか?
 って言うか。『こちら』の世界と『そちら』の世界って何?
 画面の向こうの『こちら』が滅びて、どうして『そちら』まで「ただでは済まされ」ない?

 頭を埋め尽くす疑問は些細な苛立ちと化して、結果レバガチャのスピードがどんどん速くなる。今部屋を飛び回るこの音を可視化したら、きっと「カチカチ」と言うベタ文字が部屋中を埋め尽くすことだろう。それでも私の指は、まるでケーレンしているようにガチャガチャするのを止めない。
 ……そろそろ「カチカチ」が部屋を埋めてきて、息苦しくなってきた。
 そこでタイミングよく画面の白文字が次なる言葉を差し出した。

 “疑問はあるだろう だがここで問答している暇はない”
 “即決してくれ 力を貸してくれるか それとも否か”
 “良いかね?”

 私が文字を追い終えた途端、画面は問答無用で切り替わる。
 黒く塗り潰された画面はさっきと変わらないが、白文字は、恐らくさっきの質問の答えであろう「Please Serect Yes/No」の文字だけが提示されていた。レバーの上下で選べるようになっている。決定はAか。

 ……なんとでかい釣り針だ。アホな小魚だってまず掛かるまい。

 でも、私は釣られてみることにした。
 前代未聞のバグに。喰えばまず怪我をするであろう、この巨大な釣り針に。

 少なくとも私の眼には、私の感覚には——。
 震えた白い手書き文字が、嘘のように思えなかった。

 レバーを上に倒し、「Yes」を選択。
 ゆっくりと、力を込めて、確実に、Aを押す。

 刹那、私は眩暈とも浮遊感ともつかぬ感覚に襲われた。

 ゲーム画面が、いや私の視界全体が、どんどん真っ白に染まっていく。まだ継続中のレバガチャ音も聞こえない。しっかり握り締めているはずのコントローラーの感覚もない。しじまに聞こえるはずの耳鳴りも聞こえない。心の寒くなりそうな静寂と純白が、私の全てを支配した。
 「寒っ……」
 思わず声を上げたものの、体感温度はさっきまでの蒸し暑さと変わらない。それなのに、心底寒いときの震えがひしひしと身に襲う。一面の銀世界、そう形容するに相応しい光景が、真夏の私に雪を思い出させるのか。それともこの静けさが、あらゆる生物に共通する根源的な恐怖を、私に教えているのか。
 恐怖と同時に、ひどい不安を覚えた。


To be continued......