PR
二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 薄桜鬼 浅葱色の風と放浪鬼 ( No.3 )
- 日時: 2012/11/08 20:50
- 名前: 流夢 (ID: O72/xQMk)
0話「孤独ノ唄」
「月光花火、雲ひとつ無く…その光を誰に届けようか…♪」
三味線の音と共に、細く男の歌声が響く。
木々しか聞こえない、歌。
雲の隙間から月明かりがその男の姿を優しく照らしていた。
男はゆっくり歩きつつ、三味線を弾きながら歌っていた。
もう一歩、といったところで、風が強く木々を鳴らす。
その音は、男の歌を囃し立てている様だ。
男は、髪を結っている結紐辺りに手をやり、風が吹いて来る方向に振り返った。
途端、月に掛かっていた雲がさぁっと遠退く。
「雲ひとつ無い月夜に…そう、願わくば…♪」
温かく微笑む男の顔が、露になる。
紫紺色の瞳が、妖しく月の光と共に揺れていた。
浅葱色の髪が、風と共に靡いている。
今日の月色を表すかのような月白色の着流しには、雲に似た模様が描かれている。
腰に弐本、刀を差し、手には三味線を持っていた。
「…そろそろ、京の都に着きそうだな」
歌っている時よりはっきりと聞こえる声でそれだけ呟く。
その声は、歌っている時の声より低く、しっかりとしたものだった。
と、元々向いていた方向に向き直った。
そして、三味線をひとかきすると、また細い声で歌いだす。
「君の事を想い…また会える、確かな日まで…♪」
月はまた風に飛ばされてきた雲に隠される。
段々と、月明かりが照らす場所が少なくなってくる。
そして完全に雲に隠れてしまった。
男の姿も、影に隠れる。
細い歌声だけを残し、男の姿は完全に見えなくなってしまった。
—京の都までは、あと少しだった。
PR