二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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エンド オブ ザ ワールド
日時: 2010/10/04 13:13
名前: momo (ID: eEFm9oln)

短編マンガ原作の小説版です。

今回は、岡崎京子の「エンド オブ ザ ワールド」からです。


よろしくお願いします。

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エンド オブ ザ ワールド〔1〕 ( No.1 )
日時: 2010/10/04 13:07
名前: momo (ID: eEFm9oln)


 ねえねえねえ 世界の果てまでつれてって
 ねえねえねえ でも世界の果てってどこ?どこなのよ?



「神のご加護のあらんことを
 神のご加護のあらんことを」
 三つ折りソックスにガクブチ眼鏡、広いおでこを全開にして前髪は頭の後ろで束ねて。そこにでっかいリボンが揺れる。
 教会のミサの日。青い空、白い雲、いつものように晴れわたる午後、いつものように聖書とノートが几帳面に入れられた鞄を脇に、いつもの毎日いつもの景色、いつもの週末。扉を開ければいつものようにテレビの前には休日のパパ、台所にはショッピングを終えた母がパンケーキなんかを焼いているはずだった。
 でも廊下に転がった枕はなんなの?破れて羽根が散らばって…あの少しだけ開いたドアからやってきたのね、パパとママの寝室。
 ぎい、と、扉を開くと中は真っ暗で、廊下から差し込んだ光が浮かび上がらせたのは、パジャマのまま血まみれで横たわるパパとママと、ダブルベッドの枕に書かれた真っ赤な『HAPPY DAY』。
「きゃあああああああ」
 自分の叫び声が、遠くで聞こえた。



『…州のグリーンホームズでスミス夫妻が自宅寝室で射殺されているのを長女が発見し…』
「消して」
 車のラジオから途切れ途切れで流れる機械的なラジオの声。告げるニュースは遠い出来事のようで、今のあたしたちにはすごく無関係だ。
 助手席でそっくり返ってタバコをふかすあたしの言葉通り、イースはラジオの電源を切った。まるであたしが隣りにいないような顔をして運転している。
「何やってんの?」
 イースは片手にハンドルを握り、もう片方の手にあるピストルを自分のこめかみにあてがっていた。
「さあね」
「やめなさいよ」
 自分の頭にあてていた銃口をあたしの顔面にむける。弾はたしか…入ってたっけ。
「だまれ。よけいなこと言うな」
 バーカ何言ってんのさ。
 きっとだいぶ遠いところまで来た。もうおもちゃのようなカラフルな住宅はなくって、道路だってコンクリートじゃなくって、ずーっと続く幅広い一本道の左右には低い山々がどこまでも広がってる。走る車も長距離トラックと、あとは前後遥かに乗用車がぽつぽつと小さな点を描いてるだけだ。すれ違ったガソリンスタンドも、長い間誰も立ち寄ってないみたいな顔してる。
「…何かラジオつけてよ、ニュース以外の」
 あたしたちは両親を殺して車で逃げた。
 カチ、と、イースの押したボタンがメロディを紡ぎ出す。英語の言葉はのん気に歌いだした。
「この曲なんてえの?」
 ピストルをタバコに持ち替えたイースは興味なさそうに答える。
「 〝世界の果てまで〟 」
「ふーん。かったるいメロディ」
 夕焼けが絵の具をぶちまけたみたいに視界のすべてを俺ンジに染めている。
 走り続けて、イースがハンドルをきったのは公衆便所みたいな色気のないモーテルの前だった。
「ウッソー!!こんなとこ泊まんのぉ?」
 コンクリート壁の上、高く掲げられたアメリカの国旗が暗闇で旗向いてえげつない。看板が電球でチカチカ自己主張してないだけマシか。それでも車から降りたら辺りがおしっこ臭い気がする。
「やだぁ〜〜〜、もっといいとこ泊まろーよ。ジャグジーとかあんの、ここお?」
「だまれ」
 問答無用で銃口をあたしの顔面に突きつける。
 フン。なんなのさ、なにかってーと暴力に訴えやがって。
 とにかくまず汗を流した。カビのこびりついたくそ汚いシャワールームでもないよりマシだ。昼間の砂っぽさがとれてやっと一息つけるというカンジ。でもイースはジーンズに靴をはいたままベッドに寝転んで眉間に皺を寄せてばかりいる。
 部屋にはシングルベッドがふたつ。あとはスタンドライト、と、お情け程度に置かれた埃まみれのテレビ。それでも、こんなド田舎でも電波はしっかり入るらしい。厚化粧した深夜ニュースのお姉さんが無表情に原稿を読み上げる。
『…の事件で現在行方不明の長男と次女ふたりの』
「消せ」
 ピストルを向けられないだけいっか。あたしは素直にテレビを消した。どうせこんなニュース、なんの意味もない。
「あたしたちってば有名人ね、イース」
「だまれ、モリー」
「どうして名前と顔写真が出ないのかしら?」
「いちおう未成年だからだろ」
「未成年だと何してもいいの?じゃああたしたち、まだまだなんでもできるわね?銀行強盗にレイプにヤク売り」
 ベッドに飛び乗ると安モーテルらしく硬かったけど、でもそんなの関係ない。なんだか身軽な気分じゃん。
「ゆうかい、テロ、サギ、売春。まだまだしてないことがたくさんあるわ」
「うるせえ、だまりな。おまえのくだらないバカなおしゃべりきいてると頭痛がしてくる」
「あ、ずるい自分だけ!」
 そうやっていつも自分だけは賢いってふりするんだ。
 夜の音がする。まわりに建物がなんにもなくて閑散としてるせいか。壁紙の剥がれ落ちたコンクリートの壁のせいか。
 眠れなくて、あたしはベッドの上に座り込んでぼーっとしていた。スタンドライトの明かりのなか、マクラのしみが生きもののようにパチパチ分裂しはじめる。
 すぐそばで、イースのたてる寝息が耳をくすぐる。
 あたしはなんでこいつと一緒にいるんだろう?
 そもそもあたしたちは何をしでかしたんだろう?
 覚えてるのは、不協和音のメロディ。


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