二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 東方書古録
- 日時: 2011/01/18 22:17
- 名前: 変態と狼と猫と騎士 (ID: DTrz5f5c)
どうも皆様、クリックありがとうございます。
この小説は【東方Project】の二次創作作品【幻想入り】です。
その為以下の要素が含まれます。
・キャラ崩壊
・オリキャラ要素
・原作独自解釈
・ネタ成分
これらに耐性が無かったり、抵抗がある場合は【気をつけて】この作品をお読みください。
尚この作品はリレー小説の為、作者・主人公が複数人います。
以下が作者一覧となります
・トレモロ
・agu
・Nekopanchi
・とある騎士
それでは以上を以て作品紹介を終わりにさせて頂きます。
できれば楽しんで読んで頂けると幸いです。
- Re: 東方書古録 ( No.32 )
- 日時: 2011/07/12 18:11
- 名前: Nekopanchi (ID: B6N9vk9k)
…………えー…と…………
……俺の眼前では『基本は』さっきと変わらず大妖精が青いバカを固めている。でも…………………………
……何で固め方が羽交い締めから腕ひしぎに変わってんだよ!? 関節技とかもう容赦ねぇじゃねぇか!!!!
そして、大妖精はバカの腕を徐々に締め上げながら若干額に汗を滲ませつつも語気も乱暴な、それに何故かトーンもいつもより数段低い声を辺りに響かせる。
「折るぞ!」
折るの!?
「へし折るぞ! いいのか!」
どこまで容赦無いんだお前! んで俺どうしたらいいんだよ!!!! こんな生々しい惨劇を目の当たりにして俺に何をしろってんだよ!!!!
それに、『いいのか!』って訊かれてもこんなん固められてるあの青いバカもどう答えりゃいいかわかる訳ねぇじゃねえか! 困った顔して押し黙るしか……
だが青いバカは恐らく苦痛で顔を歪めながらも、首の動く範囲で大妖精をいやに目力の隠った瞳で見詰めて……
「もういいよへし折って!」
い、いいんだ!?
「腕の一本や二本くれてやる!」
なんなんだよその覚悟!?
しかも何であのバカは折られる事を嫌がらないんだよ! 多分大妖精は本当に折るつもりは微塵も無くて、あのバカをおとなしくさせる為にあんな事を言ったんだ。でもそれでまさか『へし折っていい』なんて答えが返って来るなんて想定外だろうから……………
「え……ええー…………」
ほら大妖精困っちゃった!
だが大妖精の、最早悲痛な程に困った声を聞いても青いバカの目力は全く衰えを見せず、締め上げられながらも大妖精の瞳を捉え続ける。
「それで気が済むんでしょ!? 安いものよ! さぁ折って大ちゃん!」
だからお前はどんだけ寛大なんだよ!? つーか大妖精が『え……ええー……』って言った時点で折る気無い事に気付けや! わざとやってんのか!?
「べ、別にそんな変な気は持ってないよ! ……た、ただ私はチルノちゃんに落ち着いて貰いたかっただけで……」
大妖精も、あんないやに真っ直ぐな視線を向けられて困っているんだろう。台詞の調子が竜頭蛇尾どころか……えーと……うん、全身蛇尾だ。
…………ごめん、うまい事言おうとしたら変な日本語になった。それは本当にごめん。
「なら早く放してよ大ちゃん……もう落ち着いてるから……」
あ、なんか俺がバカな事考えてる内に進展があったみたいだ。青いバカが落ち着いてる様に見える。いや、口で言ってるからそう見えるだけかも知れんけど、少なくともジタバタはしてない。
「そ、そう……? 本当に落ち着いた……?」
一応口では訊いてらいるが、大妖精から見ても俺と同じ様に見えたらしく、既に締めるのをやめている上に掴んでいた青いバカの手も完全に放している。
すると青いバカは『やれやれ』と言わんばかりの表情で立ち上がり、青と白のワンピースに付いた砂埃をパンパンと払い落とす。
「大丈夫、つけものが落ちたみたいに落ち着いた………………」
……うん、漬け物じゃなくて憑き物な。別に漬け物が落ちて落ち着くなんて奇特な人多分居ないからな?
「……よっ!!」
ついさっきまで馬鹿な事を言ってたと思ったら、強めた語尾が掛け声かのように、何故か体勢を低くしてこっちに突っ込んできやがった。
「なっ、何ィィィイィ!?」
「あーっはっはっ! ゆだんしたわねヒゲオッサン!」
そして青いバカは体勢低く走ったまま、落ちている大剣(スイカバー味)に手を伸ばし、その数秒後………………
「痛ああああああああ!!」
かなり大きい悲鳴が響いた。
つづく
- Re: 東方書古録 ( No.33 )
- 日時: 2011/07/28 18:18
- 名前: あぐ (ID: Sieha6Mw)
「ねぇ、智。外に出たくない?」
グータラ金髪美少女——八雲 紫がそんな言葉を掛けてきたのは、俺と彼女がXBOX360(通称箱○)において画面分割対戦をしていた時の事だった。
丁度、37インチの液晶テレビで俺が操っていたキャラクターが紫のキャラクターに汎用機関銃で穴だらけにされておっ死んだ所だったので、コントローラーの手を止めて、紫を見る。
少し前までは「マミられるわ! やめなさい!」とか意味不明なことを叫んで、あれほど外行きを反対していたというのに。どういう風の吹き回しだろうか。
「やあねぇ。あの時とは事情が違うのよ」
俺の心を読んだかの様なタイミングで——いや、実際読んだのだろう——そう答えた紫。穏やかな微笑を浮かべている。
「今は事情がどうなったかは知らないですがね、ミス。とりあえず人の心を読むのは止めてもらえませんかね?」
「……あらあら、ごめんなさい。じゃあ“出来る限り”控えるとするわぁ」
思いっきり皮肉げな言葉で返した俺に対して、全く悪びれていない口調で返答する紫。俺は頭が痛くなるのを感じたが、彼女のこの性格は今に始まったことでもない。
「で、外行きの話だけど……人里限定なら貴方をうろつかせても良いかなって思ってね。藍にも相談したんだけど、賛成してくれたわ」
「なるほど……」
ふーむ。紫個人はともかくとして藍さんにも話を通したというのなら、まぁ、無茶なことは無いと思うが……
「で、どうする?」
テレビから目を離して、俺に真っ直ぐな視線を向けてくる。ふざけている、というわけでは無い様だ。
俺はその視線に目を合わせながらも、頷く。答えはすでに決まっていた。
「行くよ。行かせてくれ」
紫は俺の答えを聞くと、穏やかに微笑み、そして——言った。
「オーケー、分かったわ。でね、智。画面を見なさい」
「うん?」
俺がその言葉に訝しみながらも、テレビに目線を向けた瞬間。
「えい♪」
俺のキャラクターはナイフでグサリとやられた。
*
「じゃ、行って来るわね♪」
そんな楽しげな声が俺の鼓膜を震わせる。声を出したのは紫。そして声を掛けられたのは……。
「行ってらっしゃい」
「おみやげお願いしますね〜」
狐と猫——藍さんと橙だった。二人は門から出て行こうとする俺達に、穏やかな顔で手を振っている。
無論、それに俺も手を振り返した。例え相手が紫だろうと何だろうと礼は忘れない様にしないとな。
「今、失礼なことを考えなかった?」
ニョッと視界内に出てきた紫。何処となく不機嫌そうなのは俺の思考を読んだからだろう。きっと。
「いんや。“母親に”そんな無礼なことは言わない男だってのは分かってるだろ?」
「……まぁ、いいわ。ふん」
母親の所を強調してそう返したやったのが功を制したのか、紫にそれ以上追及されずに済んだ。
門を出る。日傘を差しながら、晴天の小道を歩く紫。俺もそれに付いていく。
「で、どうするんだ? ここからその人里は遠いのかね?」
紫を宥める意味も込めて、前方を歩く紫にそう問いを投げかけてみる。彼女は質問に答える様にくるりと振り返った。
「……そうね、遠いと言えば遠いわ。まずこの妖怪の山を下山して大蝦蟇の池の近くを通って、それから川を下る道を……まぁ、二日あれば——」
「おい、スタップでやがりますよ。ミス・ユカリン」
俺は野宿の装備なんて持ってきない。今の俺の姿を見れば良い。
古めかしい三つ揃えのスーツに黒のタイ。頭にはシルクハット、手にはステッキ。
何処の紳士だよ、クソッタレ。要するに装備を詰める背嚢なんて背負ってきてないのだ。
「ふふ。懸念は分かるわ。でも大丈夫よ」
何が大丈夫よ、なんでしょうか。ユカリン。小生は非常に心配です。
「だって……普通に歩くなら私の言った通りだけどね。ここからスキマを利用すれば……ね?」
何だ。あのメン玉ギョロギョロで移動するなら先に言ってくれればいいのに。騒いで損をした。
「ごめんなさいね。だけれどこんな良い天気なのだし、少しぐらいは景色を楽しんでもって——あの、ちょっと良い?」
何かな? また突拍子も無いことをいうのは止めてくれよ?
「ええ。でも今はそうじゃなくてね。その……口に出して話しましょうよ」
……便利だと思ったんだ。それに好きな時に覗けるんだろ?
「……分かった分かったわ。これからはプライバシーにも気を付けるからいじけないで」
「んん。その言葉を待っていたんですよ。お母さん」
喉を慣らしながらケロッとした顔でそう笑いかける俺に、紫は溜息を付いた。
「……はぁ……じゃあ行くわよ」
「何が?」
首を傾げて答えを求めた俺に、紫は素敵な笑顔を見せた。
「人里」
俺が彼女に軽い報復をされたと理解したのは、足元の感触がフッと消えて無くなってからだった。
*
衝撃音が俺の鼓膜に響き渡り、瞬時に尻に鈍い痛みを感じる。自身がケツから落ちたということはすぐに理解できた。
「畜生め……」
母親を称するあのグータラ少女——紫に毒付きながら、俺は痛みに顔を顰める。鈍いのは長く響くのだ。
一通り痛みを満喫すると、俺は辺りに視線を巡らす。整備された道の脇に畑と野原が続いている。
道の少し先には塀と地続きで門が建っており、門の奥には日本風の家屋が広がっていた。おそらくここが人里だろう。
荷物を背負った人が何人か、こちらの方向へと道を歩いてきていた。別に足取りから見て、俺に用があるというわけでもない様だが。
「痛ッッ……」
顔を歪めて、尻を撫でながら立ち上がる。そのまま汚れを払うと、人里の方向へと身体を向けた。
こちらに歩いてきている幾人かが俺の存在に気づき、怪訝そうな瞳で見つめてくるが、気にしないことにした。それよりも俺が興味を引かれたのは彼らの服装だ。
余程古臭いかと思えばそうではなく、けれどまた近代的かと言ったらそうではない。袴と上羽織は江戸時代を彷彿とさせるが、頭に被っている西洋風の帽子はそれよりも新しく。
正直な感想を述べるに……教科書で見た明治時代の服装そのまんまだった。門や塀、それに街並みをもう一度良く観察してみれば、なるほどそんな感じもしてくる。
となると、俺の服装もそれほどおかしいものではないのかも知れない。いやむしろ、先取りの流行服とでも言った所か。
紫もまぁ、少しは考えてくれたのだなとほんの少しだけ評価を改めていると、隣を先程の人間が通り過ぎていく。最後まで俺をジロジロと見つめていた。気持ちは分かるが、失礼な態度には違いない。
……そういえば俺をここに送り込んだ当の本人は何処にいるのだろうか? 今更ながら気づくというのも間抜けな話だけども。
「……おっ?」
視線を移動させていると、門の近くでこちらに手を振っているドレスの少女が見えた。紫だ。
文句の一つも言ってやろうかなと思いながら、俺は門へと脚を進める。近くへ寄ると人里の内部がはっきりと見えてきた。
紫が俺の近くへと寄ってくる。その様子を少しばかり機嫌の悪そうな表情で眺めてやったが、彼女はそれを気にもせずに微笑んだ。
「ふふ、どうだった?」
「尻を打ったよ、ババ——」
言い終える前に凄まじい殺気を紫から感じる。相変わらずニコニコ笑顔だが、俺にはそれが何よりも恐ろしく思えた。
咄嗟に頭を下げて謝罪すると、殺気が収まる。恐らく二度は無いからにして気を付けよう。
彼女の後を追って門の中へと入る。長い棒を持った見張りが門の角にいたが、こちらを一瞥しただけで興味を無くした。
眼前には想像した通りの明治時代の街並みが続いている。活気で満ち溢れているというわけでもないが、寂れているというわけでもない。
人はそこそこ商店らしき家屋の前にいるし、整えられた通りを歩いているのも少々。
と、人里を観察していた所で前にいる紫から声を掛けられた。
「私はあのお店に用があるから……あまり遠くにはいかない様にね」
指差した先には、紫に染められた大きな布を軒先に垂らした家屋。何の店かは見当も付かないが、別に何だっていいだろう。
それよりも重要なのは、あまり遠くに行かなければ自由に行動して宜しいのかということだ。
「遠くに行かなければ好きに観光しても?」
「そうね……それと裏道には近づかないことと、後は勝手に変な人にホイホイ付いて行かない事」
「アイサー、キャプテン。細心の注意を払いますよ」
「ちゃんと守るのよ? じゃあまたこのお店で」
店に入っていく紫に軽く手を振って別れると、早速俺の目は何か面白いものが無いかとそこら中に視線を遣り始める。
特に無いと言っちゃ無い。だがそれは俺がただ見出してないだけで、その気になれば面白いものばかりなんだろう……たぶん。
ひとまず、何処かの店にでも入ろうかと辺りを探ると、通りの先で妙に気に掛かる女性がいた。
腰まで届こうかというまで長い、青のメッシュが入った銀髪。 頭には頂に赤いリボンをつけ、赤い文字のような模様が描かれた青い帽子を乗せている。
胸元が大きく開き、上下が一体になっている青い服を着た彼女は個人的に見て、とても美しく……そして目立つ。
その銀髪の女性は辺りに視線を巡らして、何かを探している様だ。少しすると彼女は困った様な表情で横道へと入っていき、姿が見えなくなった。
「……」
さて、見失ったとなると特に興味を惹く様なものはない。よってそこら辺を適当にうろつくことにした。
先程の女性がいた通りの先までゆっくりと歩きながら、周囲を観察する。ここの人間は見慣れない格好の俺に幾らか奇異の瞳を向けてくるが、それも数秒のことで、その後はすぐに興味を無くして、瞳を逸らした。
西洋紳士ルックというのも珍しいことには珍しいのだろうが、やはり彼らの間では流行りの範疇なのだろう。それよりもあの銀髪の女性の方が一般的に言って注目度は高くなると思うのだが……別にそういうことは無かったことから見ると、やはりあの女性の姿は見慣れていて、俺はそうではないからか。
と、考えている間に通りの半分は歩いていた。深く思案すると、時間が経つのが早く感じる。
それは恐ろしくもあるし、元世界では顔の所為で結構ぼっちな俺からしたら嬉しくもある。苦痛な現実を認識するのはいつだって辛いものだから。
ふと、俺の視界内にとある光景が入ってきた。銀髪女性が入った横道とは別の道。そこに如何にもうさんくさい男が二人と、そしてここからが重要なのだが——まだ十歳にも満たないであろう幼くいたいけな少女がいた。
どう考えても怪しい組み合わせに、俺の脚が思わず立ち止まる。そうしている間にも男二人は、幼女に鳥肌が立つ様な邪悪な笑みを浮かべて、何かを話している。
幼女は邪悪な笑みに全く対照的な綺麗な微笑みを返すと、男二人に連れて行かれるようにして暗い裏道に入っていく。さて、何かは不味くは無いかね?
右手に持ったステッキに力が入るのと同時に、俺は紫の言葉を思い出す。『裏道には近づかないこと』だったか。
確かに俺はSAS隊員でも無ければプロボクサーでもない。それに危ない連中には近づかないことが一番賢いのは知っている。
だが——この状況で出て行かないのは男として、人間として、いくら何でも駄目すぎるだろう。何も無ければよし、だが何かあれば俺は一生悔やむ気がしないでもないのだ。
「ふう……」
一旦、その場で大きく深呼吸をする。息を吐き、吸う。そうしたらあの少女がこの後どうなってしまうかという想像を巡らせる。
強姦されるかも知れないし、もしかしたら誘拐されるかも知れない。いずれにせよ末路は悲惨なものに違いないのだ。
冷たい怒りを体中に浸透させる。熱くならず、それでいて攻撃性を保てる怒りを。
「よし」
一度決めれば躊躇はいらない。右手にステッキをしっかりと持ち、堂々とした態度で暗い裏道へと脚を進めていった。
両隣にある、妙に高い建物の所為で道全体に影が覆っている。嫌な道だ。俺は顔を思わず顔を顰めた。
道なりに少し歩くと、か細い怯えた様な声と下品な笑い声が自身の鼓膜を響かせるのを感じ取る。角からそれは聞こえてきた。
俺は黙ってその角を曲がる。ずばりだ。壁に押し付けられた幼女と彼女を押し付けている悪人面の男が二人。
そこで俺はわざと大きく咳払いをする。連中は振り返った。
「何をしてらっしゃるんでしょうか?」
俺の言葉に奴らの内の片方が顔を歪める。もう片方は苦々しい表情で俺に近寄ってきた。
「何をしてるか、気になるのか。 ああ?」
ドスの効いた声でそう言い放つ大柄な男。俺も身長はかなりあるが、こいつも大きいもんだった。
「いえね。そちらのお嬢さんが怯えてらっしゃる様なので……お嬢ちゃん、大丈夫かな?」
あくまで穏やかな声と表情を崩さずに、逆にそう問いかける。男が一歩近寄るのと同時に俺も一歩離れた。
幼女は追い詰められた兎かチワワの様な、そんな怯えた表情で返答する。
「……あ……の……この人達に……ついていったら……無理矢理……」
「黙ってろ」
咄嗟に口を塞ごうとする小柄な方の男。俺はそれを制した。
「待ってください。彼女、怖がってるじゃありませんか。事情を良く聞かせてくださいよ」
「……骨を折られたい様だな。おしゃべり野郎」
大柄な男が業を煮やして、俺に早い足取りで近づいてくる。明らかな攻撃意思がそこにはあった。
すぐに俺は左手を立てると、鋭い声で警告する。
「ストップだ。近づくな。いいか、それ以上近づくなよ」
向かってきた男は一瞬立ち止まったが、その次には怒りで顔を真っ赤にさせた。
「俺を犬扱いしたのか、坊主!」
大きく右腕を振り上げて、大きく脚を鳴らしながら接近してくる男。俺の額には冷や汗が流れ、内心は緊張と恐怖で酷いことになっている。
がしかし、充分とは言えないが勝機は確実に見えているつもりだった。俺は右手のステッキを、間隔に余裕がある様にして両手で保持する。
「警告したぞ、畜生め」
そう吐き捨てると、威嚇する様に右手を振り上げている男目掛けてステッキを突き出す。
「っお!?」
まさか抵抗されるという考えが無かったのかどうなのか。俺が首目掛けて突いたステッキは奴の喉頭に勢い良く命中する。
喉を押さえて、狼狽する男。俺はこの機を逃さずに、一歩ステップインすると右足から男の睾丸に爪先蹴りを叩き込んだ。
男は声の無い悲鳴を挙げながらもんどり打って崩れ落ちる。俺はその様子を見て最後の一発を叩き込むべく、ステッキを構えると、大きく振り落とした。
ステッキの先が顔面——左耳にクリーンヒット。これでこいつは戦闘不能だ。さてもう一人。アドレナリンが俺の身体を駆け巡っている。
最後の小男は信じられないとばかりに瞳をパチクリとさせると、俺と視線が丁度合い、半ばヤケクソになった様な叫び声を挙げて突撃してきた。
ステッキを再度構えて、突きの体勢を取る。射程圏内に入るのを確認すると、ステッキを飛び出させた。
見事眉間に命中し、硬い感触が俺の手元に響く。油断せずにみぞおちにもう一発命中させると、その場で倒れてうずくまった。
そいつの頭をサッカーボールの様に蹴飛ばして、止めを刺すと。ドッと今まで抑えていた恐怖が響いてくる。
実際淡々とこなしていたわけだが、その反動で今手元がガタガタと震えていた。全く持って慣れないことをしたもんだ。
相手が馬鹿だったのも幸いした。慣れている相手となると、こうはいかなかったはずだ。神様に感謝。後はステッキを持たせてくれた紫にも感謝。
倒れている不届き者を尻目に、俺は身体をまだ震えている幼女の方向へと向けた。彼女は顔を下に俯かせている。
「大丈夫かい? 何もされなかった?」
極力刺激しない、温厚な猫なで声を掛けながら少しづつ幼女に近づいていく。もう少しで手が触れられるという所で、彼女がいきなり俺の身体に飛び込んできた。
今まで必死に泣くのを我慢していたのだろう。顔をぐしゃぐしゃにしながら俺の服を涙と鼻水で汚している。
優しく頭にポンと手を置いてやると、一瞬その小さな身体をビクリと震わせたものの、すぐに受け入れてくれた。そのままゆっくりと泣き止むのを待ってやる。
数分経っただろうか。倒れている男達に視線をやりながら、これからどうしようかと考えているところ……。
「おい。その子を離せ」
底冷えのする様な、それでいて透き通った声が場に響いた。すぐに俺はその方向へと顔を向ける。
メラメラと怒りを宿した瞳にキツく締めた唇。表情全体こそ怒りを湛えていないものの、研ぎ澄まされた刀の様な真剣な顔立ちを浮かべていた。
それはあの通りで見た銀髪の女性。今はその美しい容貌に氷の様な冷たさが浮かんでいる。
何か、誤解されている様だ。こいつは非常に不味い……。
「いや、待ってください! あなたは何か誤解していらっしゃいますよ」
「誤解? とぼけるな。私の教え子に何をした!」
肩をいからせ、目尻を吊り上げながら早足で接近してくる銀髪の女性。抵抗する訳にもいかないし、どうすればいいのか。
とりあえず数歩下がろうとした所で、俺は身体にまだ幼女がくっ付いているのに気づく。このまま逃げたら、もっと疑われるではないか。
そんな懸念から『俺は話せば分かるはず』という全く持って愚かな希望的観測でこう言い放った。
「……あー……ミス。この子に良く話を聞いて頂ければ……」
そうして優しく、幼女を女性に振り向けたのだがしかし。幼女はまだ咽び泣いている途中であったので。
「貴様ッ!」
更に誤解を呼んでしまった結果。俺の胸倉は彼女の両手に引き寄せられて、ガツンと、凄まじい頭突きを喰らった。
*
「本当に申し訳ない!」
銀髪の女性——名乗ってもらった所によると上白沢慧音さんはそう言って頭を勢い良く下げた。どうやら彼女はこの子の担当教諭(学校での)らしい。
「いやいや。気にしないで。むしろ、教育に携わる方として賞賛されるべき熱心さじゃございませんか。これからもその情熱を大切になさってください」
「しかし……私の教え子を助けてくださり、この悪党どもを制裁を頂いたのに……恩人に何という無礼を」
「若造の先走りです。一つ間違えばこの子はもっと危険な目に遭っていたかも知れない。無鉄砲さと言いましょうか。成功したから良かったものを……」
謙りながらも、もう謝罪は受け取らない、充分だと目線で示す。些か冷たく見えるかも知れないが、幼女を預けられる人が見つかった以上、さっさとこの場から離れたい。
「それとこいつらですが……どうします?」
今だうーあーと悲痛な呻き声をあげている男二人を俺は指し示す。上白沢さんはそれをチラリと見ると忌々しげに言い放った。
「里のしかるべき所に私が突き出しておきます」
「分かりました。では私はこれで失礼させて頂きますね。またご縁がありましたら……」
上白沢さんの脚に抱きついている幼女と本人に別れの挨拶として微笑む。上白沢さんは家に招いてお礼がしたいと言ったが——。
「人を待たせておりますので」
と言うと些か残念そうに引き下がってくれた。一度頭を下げると、裏路地を早足で出る。
太陽が燦々と照りついているのに妙な安心感を覚えていると、不意に少し遠くから声が掛けられた。女性の声だ。聞き覚えがある。
「紫」
「……智。裏道には入るなって私言わなかったかしら?」
日傘をクルクルと回しながら、機嫌の悪そうな声でそう言う紫。俺は事情を話すことにしたが、彼女はそれを途中で制した。
「大体は分かりそうものだけど……それは後で聞きましょうか」
俺が出てきた裏路地を一瞥すると、振り返って溜息を吐く彼女。俺は近づいていって小声で囁いた。
「約束を破った。それだけはどんな事情があろうと申し訳ないと思ってる」
「貴方の安全の為よ。今後は理解してくれると助かるわ」
うんと頷き、紫のことだから全て御見通しだったりするんだろうなと考える。例の店からここまで来たのだって不思議じゃない。
「じゃあ帰りましょうか。勇者様?」
くるりと振り返ってそう微笑する紫に、俺はやっぱり見てたんだな、分かってたんだなと内心お手上げだった。海千山千。
俺はいつになったらこの自称母親を出し抜けるのだろうかと思うと気が遠くなった。
「……後五千年は早いわよ」
〔了〕
- Re: 東方書古録 ( No.34 )
- 日時: 2011/09/18 13:29
- 名前: トレモロ (ID: 66wanHrV)
『漆話・狂気去った後の閻魔と死の進行形の形』
【三途の川近辺の会話より抜粋】
「良かったんですか大将? あんな化物に頼って」
「構いませんよ、いえ、頼るしか道がなかったと言えますが……」
「はァ……。でも、あれは危険すぎます。風見幽香。あれに頼るという事は、こちらに牙が剥く可能性を考えなければならないかも」
「大丈夫ですよ。その時はその時で何とかなります」
「なんとかって……。ちょいと楽天的すぎやしませんかね? らしくもない」
「ふふっ、いえいえ。【信頼】しているだけですよ」
「風見幽香をですか?」
「あれは信頼とかそういう所にはいないでしょう。愛を以て接したら、血を以て答えられる。そういう【モノ】です」
「なら誰を?」
「あなたですよ小町」
「……へ?」
「サボり癖が一向に治らず、私がいなければ仕事をしているのかもわからない。けれども、私が最も信頼する部下。そして、命を預けるに値する存在。それがあなたです小町」
「……へ?」
「き、聞いていなかったんですか! 二度は言いませんよ!?」
「い、いえ、聞いていたんですが。その、そんな風に思われていたなんて、照れるというか、なんというか……」
「あら、可愛い所もあるじゃあないですか」
「からかわないでくださいよ……」
「はいはい、解りましたよ。でも本当の所、危険なのは風見幽香本人なのですがね」
「ん? そこまで危険ですかね? 一応白玉楼にも連絡はやったんでしょう?」
「ええ、ですが恐らくそちらは【後始末】だけになると思います。風見幽香に望んでいるのは、【彼】を極限まで消滅させる事ですから」
「消滅……。でも、もし彼が【段階】を踏み抜いてしまったら?」
「……その時は、きっと、私たちも出払わなくてはいけないでしょうね。いえ、幻想郷に住む者たちの力も借りねばならないかも……」
「そこまで……ですか? そこまで彼は強大なのですか? 私にはどうみても、どんなに理解をしても。彼が危険には見えませんが」
「私だって見えませんよ。だけれでも、見かけにだまされ、放置しておいては、そのまま何事もないようにと祈っているだけだったら——」
「——滅びるのは私たちの方かもしれません」
【とある森の奥地】
異様な臭気や、気配が漂う場所。
木々が生い茂り、動物たちの泣く声が、不気味にこだまする。
【魔女の住む森】と言われる、とある場所。
そこに三人の人影があった。
尤も、正確には【人間】と言えるモノは一人しかいないのだが……。
「ねぇ少年。人の顔を見て逃げ出すのは悪い事よね? そうは思わない?」
「え、えええ、ええ! 思いますとも! とっても悪い事ですね!!」
どこか危険な香りを孕んだ、猫なで声を出しながら。
女は男の頬に手をやりながら、邪悪で妖艶な笑みを浮かべる。
美しくは有るのだが、何故だかその笑みは酷く暴力的な結末を連想させる。
「ちょ、ちょちょちょ! か、風見幽香! なんであんたがこんなところへ——」
「あら、呼び捨て? 小鳥風情が、私の名前を呼び捨て? いい度胸ね?」
男に向けていた首を、グリンっ、という音と共に、隣にへたり込んでいたもう一人の人影。
ミスティア・ローレライに向ける。
その笑っているのに笑っていないという表情を見て、小鳥妖怪はびくりと怯えた後、歯をカチカチ鳴らしながら、同じ質問をする。
「ほ、本日はお日柄もよよよよ、良く。そんな日に、か、風見幽香様は、一体なぜこんな所にいて、しかも執拗にワレワレ如きを追いかけ、そして、こんな人間がいたら狂ってしまいそうな程の【瘴気】と【臭気】が満ちる森まで、いらっしゃったのでしょうかかかっかか?」
最早見るに堪えないほど怯えたミスティアを見て、風見は満足げにうなずくと。
一つの言葉を発した。
「えーと、趣味?」
「……」
沈黙。
怯えきった二匹の哀れな子羊は、涙を流しながらこの世の理不尽を嘆く。
なにその理由? と。
「まあ、本当を言うと、ただ単に探し物の途中で、見慣れない屋台が合ったから何か食べようと思ってきただけなんだけど?」
「な、なんだぁー!! そうだったんですかぁ! なら、そうとおっしゃって下さればいいのにぃ! ささっ、どうぞ幽香様! こちらにいらっしゃって当店自慢のうなぎを食べてやってください!」
幽香の言葉を聞いた瞬間、へたり込んだ格好から急いで立ち上がり、傍にあった屋台に駆け寄り準備し始めるミスティア。
その余りの変わり身の早さに、青年はボーっとそれを眺めていたのだが。
「ねえ」
幽香の言葉にはっ、と我に帰り、居住まい正す。
「な、なんでしょうか?」
「あなた。外来人でしょう? 外来人とお食事をしながらお話を聞くのはここの【楽しみの一つ】だわ。一緒に如何?」
「え? ええ、まあいいですけど?」
幽香の笑顔からの言葉に、若干身を引きながら、青年は返事をする。
そして、二人して屋台の席に座り、談笑が始まった。
尤も、笑っているのは一人で。
他は引きつった笑顔を浮かべる遅めの昼食だったのだが……。
一つ言っておこう。
この二人の、風見幽香と青年の関係は、酷く歪だ。
風見幽香はとある【記憶】がある。
青年にはとある【過去】がある。
くるくる狂って、くるくる回って。
酷く歪な運命路がある。
だからこそ、この【幻想郷】はそれを受け入れる。
一つ言っておこう。
これが謎の一部分であり、矛盾の一部分だ。
その一。
風見幽香は、青年に『外の世界で既に出会っている』。
そして『彼は彼女を既に【殺した】』
- Re: 東方書古録 ( No.35 )
- 日時: 2011/09/24 16:01
- 名前: Nekopanchi (ID: ozdpvABs)
- 参照: 介護実習を経たらスランプが悪化した……
六話のあらすじ
①今日は結構暑い。
②大妖精のキャラって一体……。
③あぁん? 最近容赦ねぇな?
④折るの!?
⑤バカのあの覚悟はなんなのさ!?。
⑥叫び声が響いた。
東方髭青年 第七話
『魁! 東方クロ幕伝!?』
「痛あああああああ!!」
うん、陽がさんさんと辺りを照らす中で叫び声が響いたよ……
……ただし俺みたいな男の声ではなく甲高い少女のな。まあそれもその筈だ。何故ならば…………
実はさっきの叫び声は俺のものではなく、青いバカのものだったんだよ!!
……さあ皆さんご一緒に。
ΩΩΩ<な、なんだってーー!?!?
………………………………………………………………
う、嘘だろ……?
『な、なんだってー!?』と言って……『なんだってー!?』と言ってよバーニィ……。……いや正直別に言わなくていいけど。
……とりあえず、何が起きたかわからないだろうから俺なりに説明する。
まず青いバカはこっちに走りながら前傾姿勢になって落ちてた大剣(スイカバー味)に手を伸ばした。ここまではわかってると思う。問題はこの後だ。
この後あのバカは信じられない事に自分で拾おうとした大剣(スイカバー味)に躓いて盛大にすっころび、顔面を地面に強打しやがった。で、あの叫び声が辺りに響いた訳。
……何つーか……『な、何イィィィ!?』って言っちまった俺の身にもなって欲しい。だってあんな典型的な逆転されるリアクションしちまったにも関わらず目の前で自滅されたんだよ? 恥ずかしいを通り越してやるせねぇよ。
と、直立したままどうしたらいいか戸惑っている俺を尻目に、顔をおさえながらバカがゆっくりと起き上がる。本当に痛いのか俺の方は全く見ていない。
「こ、このあたいがあんなオッサンにふかくをするなんて……」
……残念ながらさっきのはあなたの自爆です。俺なんもやっとりません。それに『不覚をする』って日本語的に間違ってない?
……ま、口に出すとこのバカが反応して面倒な事になりそうだから言わねぇんだけど。
バカにジト目を送りながらそんな事を考えていると、流石に気付いたようでバカが顔から手を離し、打ち付けたせいで赤くなってる顔を俺に向け、キッと睨み付け、『ビシッ』という架空の音が聞こえて来そうな勢いで俺を指差してきた。
「このオッサン! あたいを怒らせてただで済むと思わないでよ! あんたなんか直ぐに八分咲きにしてやるんだから!」
残念ながら俺は咲かねぇよ。一体俺に何を咲かせっつーんだよ。つーか何? 『八つ裂き』って言いたいのコイツは?
「……ま、また無視……」
わなわなと拳震わせてるとこ悪いけど無視じゃねぇよ。お前にツッコむのが忙しいんだよ。
と、そこで大妖精が後ろから青いバカに駆け寄り、落ち着かせるつもりなのか、柔らかく肩を叩いた。
「お、落ち着いてよチルノちゃん! 本当にマナブさんは悪い人じゃないんだって!」
「まだそんな事言ってるの!? あんなヒゲオッサンが悪くない訳無いっていってるじゃん! 大体、何者かすらもわからないんだよ!?」
……駄目だ。説得出来る気配が微塵もねぇ。何だか腹立ってきたよこんちくしょう。て言うか悪いけど多分大妖精じゃ永遠に説得できなさそうだ。さっきからずっとそうだし……。ここはひとつ、ズバッと『俺は男子高校生だ』って言ってやるか。もしかしたらそれでどうにかなるかもしれねぇし、少なくとも現状維持よりはマシだろ。
「あ、あのな。俺は……」
そのまま『普通の男子高校生だ』と続けようとしたのだが、たまたまタイミングが被ってしまったらしく、俺の声をかき消して大妖精の高い声が湖に響いた。
「あ、あのねチルノちゃん! このマナブさんは幻想郷を裏で牛耳る影の黒幕なんだよ!」
………………………………………………………………
ふおぉぉおぉぉぉおおおぉぉぉおおおぉおぉ!?
「チ、チルノちゃん。これでこの人が何者かわかったでしょ?」
……待て、ちょっと待て大妖精。意図はわからなくもない。『とりあえず嘘でもいいから何者か説明して、警戒心を解く』のが目的なのは一応わかる。でもお前黒幕って言ったら完璧に……
「だからこの人は悪者なんかじゃな……」
……いや、だからお前今黒幕って……
言い終わらないうちに大妖精は突然硬直し、それから沈黙が数秒間支配した後、急にハッとした様子で目を見開いて……
「いや悪者だよ!」
いやだからそうなっちゃうんだけど!?
「よ、よくわからないけど、結局悪者なんじゃない! やっぱりここで倒さなきゃ!」
まさかのノリツッコミを発動した大妖精を見て、青いバカは明らかにキョトンとしていたが『黒幕=悪者』という事はわかったらしく、地面に転がっていた大剣(スイカバー味)をヒョイと拾い上げるとづかづかと俺の方に向かって来やがった。……これ殺る気だ。誰かタスケテ!
- Re: 東方書古録 ( No.36 )
- 日時: 2011/09/24 16:03
- 名前: Nekopanchi (ID: 7foclzLM)
- 参照: 介護実習を経たらスランプが悪化した……
「ち、違うのチルノちゃん!」
何が違うんだよ!? 確かに強いて言うなら誤魔化し言葉のチョイス間違ってるけど! て言うか全てにおいて違ってるけど!?
「えっとえっと……黒幕はマナブさんじゃなくて…………そう! マナブさんのお父さんが黒幕なの!」
勝手に親父を黒幕にしてんじゃねえ!
て言うかそんな出任せ、いくらこのバカでも信じる訳……
「え! それ本当なの!? すごいよ!」
信じやがったよ! とんでもねぇバカだコイツ!
「ねぇ本当!? ねえ!」
殺気はもうどこへやら。バカは持っていた大剣をポイっと投げ捨て、目をキラキラと輝かせながら駆け寄ってきた。……どうしろってんだ。肯定した方がいいのか?
困り果てた俺は助け船を求めてバカの背後に居る大妖精に視線を送るが……
「………………………」
そこで目ェ逸らす!?
変な設定のまま丸投げする気かお前!?
「ねぇ聞いてる!?」
と、そこでバカが目を輝かせたまま背伸びをして俺の顔をのぞきこむようにしてきやがった。……バカの吐息が顔に掛かるくらいに近い。
……駄目だ。もう後には引けない。いや、そうなったのも大妖精のせいなんだけど。
まぁ……上等だ。なりきってやろうじゃねぇか! 『黒幕の息子』に!
「ああ、本当だぜ」
「やっぱりそうなんだ!」
そう聞くなり、バカは輝いている目をより一層輝かせてまたさらに近づいてきやがった。
ち、近い。近すぎる……! もう唇が当たりそうな距離じゃねぇか! このバカは距離感までバカなのか!? 俺はロリコンじゃないけど色んな意味で目に毒だ……! と言うか寒っ!
「ねえねえ! そのごしそくさまが何の用でここに来たの?」
「ご、ご子息様って……俺の事か!? あ、えーとそれはだな…………」
駄目だ。距離が近すぎて頭が働きゃしねぇ……! でも何か言わないと怪しまれるから何でもいいから何か言え俺!
「あ、悪の黒幕を倒すために決まってるだろ!」
俺がそう言うとバカは途端に小首を傾げ、歩みも止まった。
「え、でもその黒幕ってあんたのお父さんなんでしょ?」
「あ、そうか! それはそれで、えーと……!」
あ、ヤベ、やっぱ頭が回ってねぇ……! 修正だ、修正しろ俺!
「ち、父とは言え、倒さなきゃならない時もあるんだ。辛いけど、な」
……うん、何だろ。何だ俺……タヒにたくなってきた。
「……ねぇ」
そんな鬱真っ盛りの中、バカが一歩後ろに下がり、神妙な面持ちで口を開いた。
ヤベ……! 流石にバレたか……!?
バカとの距離が開いた事に少し安心したけど、今はそんな場合じゃない。……バカの雰囲気からして、多分バレてる。
「な、何だよ」
これからどう誤魔化すかという事に全神経を注ぎながら、半ば絞り出すように言葉を発すると、バカは大きく息を吸い……
「あたいも手伝う。」
……………………え!?
「い、いや待て! 待ってくれ!」
あまりに予想外な事に完全に混乱しちまってるよ俺。もう常套句しか言えねぇ。
「あ、あの、チルノちゃんちょっと落ち着こう?」
バカのあまりの暴走に、さっきから俺に丸投げだった大妖精も事態を収拾しようとバカへ駆け寄るが……
「大丈夫! 大ちゃんも仲間だよ!」
……暴走し始めたバカを止めるのは無理みたいだ……。
「さあ、みんなで黒幕を頑張って倒そう! おーっ!」
異常にテンションの高いバカを目の前にして、俺と大妖精は盛大に溜め息をつくしかなかった。
きっと大妖精は俺と同じことを考えているだろう。
えらいことになった……
と……。
つづく
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