二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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21エモン〜夢の旅路〜①
日時: 2011/02/26 14:03
名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)

第1話 旅立ち前夜
もう、2064年になろうとしている。あっという間の四年だ。もう、24歳になるんだな・・・。エモンは、そう思いながら、夜の銀座の街を一人歩いている。エモンは、国家宇宙探検家になっていた。あの、スカンレーと同じ職業だった。エモンは、最近テレビに出演する回数が多くなってきた。だから、彼はつづれ屋に帰ることも少なくなった。その、つづれ屋では、3人がこんな話をしていた。「坊っちゃん。病気治りませんでしたね」オナベが、困った顔をして言う。「でも、まあ、仕方なかったんじゃないか。わしも、こんな感じがしてたんだ。昔から。あいつは、わしに似て頑固だからな」苦笑いをしながら、20エモンが言う。「あいつは、あいつの人生があるんだ。それを見守るのが、わしら、家族の仕事さ。だが、460年続いたこのつづれ屋を、わしの代で終わらせるのがこころおしいな。寂しくなるな」20エモンの目には、涙がたまっていた。もう、あいつは戻ることはないんだ。わしは、このまま死ぬんだ・・・。
もう、3人はあきらめていた。このまま、死に逝くことを。息子に会えない寂しさを持ちながら。
そんな時、ドアの所に人影があった。20エモンは、笑顔で挨拶をする。「つづれ屋・・・。懐かしいな」そう言いながら、彼は言う。
「スカンレーさん。お久しぶりです。前は、私達の21エモンがお世話になりまして」ママが、スカンレーの前に立ち言う。「いえいえ。あれは、エモンくんの為を思ってしただけですから」スカンレーが、照れながら笑う。だが、その顔も真剣な顔になり、「それはそうと、僕がここに来たのは用があるのです」3人は、真剣な顔になってスカンレーに向く。「エモンくんは、ここにいらっしゃいますか?もう、24歳になるんですね。ぼくは、12歳の時しか彼を見ていないんだ。あれから、大きくなった姿を見たいなと思いまして、お伺いしました」20エモンは、冷や汗をかいた。そして、迷った。どうすればいいんだ。スカンレーさんに本当のことを言うべきか、言わないべきか・・・。「今、エモンは、店を開けておりましてですね。それで・・・」3人は、冷や汗をかきながら苦笑いをしている。「どうかしたのですか?お悩みなら、私のようなもので結構ならお受けしますが」「いえ、結構です。悩みなんて、そんな事」「いえ、ありますね。私には、あなたの気持ちが分かる」「仕方ないですな」20エモンは、スカンレーの要求に答えた。「実は、エモンは、あなたと同じ道を歩んでいるのです」「宇宙探検家ですか?私は、息子さんに説得したはずなんですが・・・」「それが、その説得がまた、夢に走り出したそうなのです」「20エモンさん。あなたは、もう、このつづれ屋が滅ぶことを覚悟しておいでですね?」スカンレーは顔を近づけて言う。「もちろんです。覚悟しておりました。あいつは、私に似た江戸っ子風の頑固野郎ですので、20歳の時に怒った時以来、私は、思いました。あいつにはあいつの人生があるんだと。昔の私が馬鹿だったのです」「いえいえ。そうではないですよ」スカンレーが励ます。「エモンくんは、たぶん、つづれ屋の為に何かをしてくれると思うのです。いえ、絶対」「そうでしょうか。私にはそうとは思いませぬが・・・」「ご迷惑をかけ申し訳ありませんでした。では、ここで、失礼させていただきます」スカンレーは、自宅の六本木に帰る時泣いた。もう、会えないのだということを噛みしめながら。
一方、エモンは、マネージャーと2人、赤坂にあるTPPの楽屋で、話しあっていた。「エモンさん。明日地球を離れる心構えがあるというのは、本気ですか?」「もちろんですよ。僕は宇宙探検家ですからね」エモンが、パイプを加えながら答える。「ですが、エモンさんは、つづれ屋の跡取りでしょう。本当は」「つづれ屋?それってどこですか?ぼくは、知らないですよ。そんなお店」「とぼけないで下さいよ」マネージャーが立ち上がり、エモンの面前を見つめ、言う。「親の方が悲しまれますよ。モンガ—さんもスカンレーさんも同じだと思いますよ。そして、明日のテレビの予定も入っていますしね」エモンがパイプを加え、それの灰を落として言う。「君は、いつもいつもテレビと言ってはうるさいね。それは、キャンセルしてしまえばいい話じゃないの」「それは、しますよ。出来ますよ。だけど、親の方や、お友達が」「うるさい。うるさい」エモンが、烈火のごとく怒る。「これは、自分で決めたことなんだ。君や、僕の親が言う筋合いはないんだ」「そして、今日、生放送のバラエティーで、言うのですか?そのことを」「もちろんだよ。言うにきまっているじゃないか。僕が思っている世界、僕が愛している世界に自由に行けるんだ。微笑ましいことではないかね」エモンは、笑っていた。「確かにそうですね」マネージャーは苦笑いをした。「じゃあ。トイレに行ってくるからな」マネージャーは、その後ろ姿を見て思った。
この人とももう会えないのか。悲しくなってくるよ・・・。そして、一人で泣いた。エモンも、トイレで泣きそうになりながら、用を足していた。「さらば。地球よ。僕は、国の為に貢献するだけなんだ。ちょっとの期間だけど、頼むよ。地球」「本番10分前です」ディレクターが言う。エモンは、生放送されるスタジオに向かう。ぼくは、言わなければならない。あのことを・・・。彼は、言うことを決意した。本番が始まり、エモンは司会者としゃべりに喋り、笑いに笑い、番組を盛り上げていった。そして、最期に言った。「ぼく、視聴者の皆さんに言いたいことがあるんです。よろしいですか?」司会者は、了解した。エモンは、テレビカメラに顔を向け話す。「僕は、明日か明後日に、宇宙に向かうつもりでいます。沢山の星に行き、学びたいと思っております。国には、もう申し出ました。視聴者の皆さんとは会えないのが寂しいですが、あなた達が頑張って仕事などをしている時、僕は、秘境で頑張っていると思ってください。では皆さん、お元気で。さようなら」これには、皆驚いたであろう。司会者は泣き出し、テレビ関係者も泣いていた。この放送を見ていたつづれ屋一家も泣いた。エモンも故郷の星地球を離れると思うと、涙がこぼれた。もう、この星には帰れないんだ・・・。彼は、またそう思い、号泣してしまった。バラエティー番組は、収録が終了した。まだ、誰かの涙声が聞こえているようだ。
そして、エモンは、マネージャーに感謝の意を伝え、エアカ—に乗った。街は、皆が、ワンセグを見ながら、泣いてしまっている。号泣してしまっている。まさに、北朝鮮の主導者 金日成が死んだ時の人民によく似ていたであろう。彼は、密かにつづれ屋に帰り、宇宙探検の用意をし始めた。星の輝きが、彼を誘う。彼は、目に涙を溜めながら寝た。
明日か明後日の出発の為に・・・。〔第2話へ続く〕

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Re: 21エモン〜夢の旅路〜①第10話の語句・登場人物 ( No.19 )
日時: 2011/02/27 10:04
名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)

第10話にも、新しい登場人物2人でてきます。そして、地名紹介も合わせご紹介します。

〜登場人物紹介〜

山田先生・国立横浜中学校の地球史教諭。本名 山田政隆。10年ほど前、州立千代田小学校の時、21エモンや、ルナ達の担任だったらしい。

立石先生・国立横浜中学校の数学教諭。本名 立石勇介。

つづれ屋希美・エモンの母。ママと出てきていたが、筆者が名前も公表すべきだと思い、つけた名前。

〜地名紹介〜

桜木町・神奈川県横浜市中区・西区に属する地名。みなとみらい21の近く。近くには、ランドマークタワーなどがそびえ建つ。桜木町の時計付きの観覧車は有名。JR根岸線・地下鉄ブルーラインに駅がある。

〜語句紹介〜

国立横浜中学校・筆者が作った学校。地球連邦共和国が統轄している。この学校に入るには、入学国家試験が必要である。

煙管・キセル。日本の昔からの煙草。火打石などで火をつけ、その煙を吸う。江戸時代からあったもので、落語の「長短」などで出てくる。今は使う人は見られなくなった。

煙草盆・キセルなどを吸う時に出た灰を捨てる入れ物。このキセルと煙草盆と火打石を合わせ、煙草セットと呼ばれた。今、持っている人は少なくなった。

チリ・南アフリカ大陸にある細長い国。スペイン語が使われる。鉱山や、ウユニ塩田などで有名。

以上です。11話もお楽しみに。

Re: 21エモン〜夢の旅路〜①第11話 死の世界 ( No.20 )
日時: 2011/03/02 22:40
名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)

第11話 死の世界

地球では準備が着々と進んでいた。国立横浜中学校3年1組の教室では、みち子が、尖浩二・木手英一・須和みつ夫を集めた。「さっきの山田先生に至急来てくれと言われていたけど、何のことなんだい」みち子は、笑って「大号外よ。知り合いが許可してくれたのよ」「あの事について?」トンガリがよくわからない顔で言う。たぶん、信じていなかったのであろう。「やった。僕も宇宙に行けるんだね」みつ夫が飛び上がって喜んでいた。みち子はそれを笑って見るばかりであった。

関内のみき宅にも情報が届いた。「みき。ルナちゃんから電話があって、君を一緒に連れて行ってもいい事になったって」みきは先程の暗い顔がなくなり、明るい顔になった。希望が沸き始めた。「本当?本当に本当にだね?」「ええ。本当よ」暗かった家庭に陽が差し込んだ。

リゲルは、東京地球国際交流宇宙港に電話をしていた。「なるほど。エモンさんを助けたいと」電話口から低い声が聞こえている。「はい。あいつは小学生時代の友なんです。金は沢山あります。どうか許可を。そして、10人乗りの宇宙船を貸してほしいのですが・・・」「人感知器も載せた宇宙船もですか?金はあると申しましたが、本当なんでしょうね?」「もちろんです。ウォンや円、ドン・元・ペソまでございますからね」「金が古すぎますよ。今から50年ほど前の金の単位出さないでくれません?」「申し訳ありません。で、何$なんですか?」この頃の地球連邦共和国の首都は、旧アメリカのニューヨークであった。そして、このニューヨークのミッドタウンで、2017年〔地球年号 平成29年〕地球連邦共和国議会下院で、金の単位は首都のあるアメリカの昔の金の単位 
$と決まられたのである。「そうですな。100万$は頂かなければいけませんな」「それを払えば貸してくれるのですね?」「もちろんですよ」「今から払いに行かせてもらいます」リゲルは電話を切った。「で、いくら掛かるんだ」マサカズが陰から声を出す。「100万$必要なんだってよ。用意できるのか。親父」「100万$?」マサカズはしばらく考え「いいだろう。ウォンや元などは換金出来るからな」「ありがとう。親父」リゲルはマサカズから金を受け取り、エアカーで宇宙港に向かう。旧羽田国際空港である。彼は空港の中に入り、金を渡した。「確かに頂戴した。10人乗り貸し切り宇宙船については、Sky・travel社〔スカイ・トラベル社〕に連絡いたします。そして、東京地球国際交流宇宙港から出発が可能となります」明日は日曜日〔Sunday〕であり、学校も休みであった。「明日なんだな」マサカズが陰から言う。「ああ、宇宙港でその許可をしてもらった」「頑張れよ。エモンくんを助けるために」「もちろんよ」リゲルは笑った。「明日はお前の代わりに、俺が社長になるからな。心配しなくていい。お前は任務を遂行するだけを考えるだけでいいんだ。今は。後は明日話す」リゲルはいつもの仕事に戻った。

ギャラクシーの社長室に電報が届いていた。ルナはボタンを押す。押したら、リゲルからの連絡であった。リゲルの顔が映っている。「ルナちゃん。エモンを助けに行く日と集合場所が決まったぜ」リゲルは咳払いをし、紙を持った。「出発するのは明日、地球時間5時30分。集合場所は東京地球国際交流宇宙港。時間厳守でお願いします。では、Мy friend.See you 」「分かったわ。だけど、やはりリゲル君ね」ルナはクスクス笑った。この通達は、各家々にも届いた。明日行く者は用意し始めた。

そして、来た。行く日が。「皆さん揃いましたね。私たちが乗るのはこの船です」「豪華だね」などと口々に話す。「さあ、乗ってください」人々は乗り込む。「今から出発します。気をつけてください。揺れますので」リゲルが操縦する。そういえばリゲルは、宇宙航空士の免許を持っていたのであった。隣の席にはルナが座る。「出発!」リゲルは管制塔にそれを伝える。船は空に旅たった。「うわー。地球が小さくなって行く」中学生男子が後のガラスから見とれていた。「ねえ、このモニターはなに?」ルナが聞く。「これは、人感知器。近くに来ればベルが鳴る仕組みになっているよ。そして、音声も発し、速度も速くなる」「すごいわね。この仕組み」ルナは感嘆していた。暗い空間からは火星が見えていた。ベルは鳴らない。火星を過ぎた時、ベルが鳴った。リゲルがマイクで部屋の中にいる者たちに声をかける。「ベルが鳴り始めました。エモンくん達がいる証拠でありましょう。みなさんは宇宙服の用意をお願いします。火星を出てから鳴り始めましたので、小惑星帯にいると思われます」「超高速!」2人が力を合わせアクセルを動かす。「エモン。待ってろよ。今から助けてやる」20エモンがそういう意気込みを思った。これは、乗っている者々も一緒であった。小惑星帯に近づくとベルの音が強くなる。「やはり、小惑星帯にいたか。エモン」彼はそう思った。

小惑星帯のヘレナ付近では、小さな灯りが見え始めた。だが、彼等は気づかない。

小惑星帯に入るともっとベルの勢いが強くなった。リゲルとルナが周辺を見る。すると、人影が見えたのである。浮かんでいる。2人。「エモン。エモンか?今、救出するからな」2人は、隣の星 ヘカテの方向に浮かんで来ていた。2人とも意識がなさそうである。リゲルは船をディケに置き、乗っている人々を配備させた。皆、宇宙服を着ていた。「この辺りに、エモンと空夫くんが浮かんでいます。皆さんには彼らを助け、この船内に入れてください。」分かったと皆が頷く。「では、開始して下さい」リゲルは食品などを用意した。みなは、浮かんで隣の星 ヘカテに待機した。一人はヘレナにいた。トンガリであった。トンガリは、空夫の足を引っ張った。そして、トランシーバーで連絡する。「こちら、トンガリ。リゲルさん、ヘレナ付近で子供を救出しました。この子が空夫くんと見られます」空夫は意識がなかった。心臓が動いているだけであった。後はエモンだけだ。彼は、ヘカテの星で浮いていた。「みつ夫です。エモンさんを救出。ククク」トランシーバーに話しかけるみつ夫は泣いていた。思った通り意識がなかったのである。みつ夫がエモンを抱きかかえながらディケに到着した。「この通り、意識がありません」乗ってきた人々は泣いた。「かわいそうに。2人とも宇宙服も着せられずに捨てられていたなんて」ルナが涙を流しながら言った。リゲルは涙をぬぐい、2人を宇宙船に入れた。リゲル・ルナ・20エモン・希美・オナベ・みつ夫・トンガリ・英一・みきは涙を流しながら宇宙船に乗りこんだ。2人の目の瞑った顔は笑顔であった。彼等の宇宙船は、地球に向け出発した。〔第12話へ続く〕

Re: 21エモン〜夢の旅路〜①第11話の語句紹介 ( No.21 )
日時: 2011/02/27 15:42
名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)

第11話も難しい語句などが出てきましたので、ご紹介します。

〜語句紹介〜

ドル〔$〕・アメリカや香港・シンガポールなどで使われている金の単位。世界共通単位。ちなみに、100万$というのは、円に換算すると一億円〜一億3000万円前後の事をさす。

ウォン・韓国や北朝鮮で使われている金の通貨。

元・中華人民共和国や中華民国〔台湾〕などで使われている金の単位。中国では人民元・台湾では台湾元として使われる。

ドン・ベトナム社会主義共和国で使われている金の単位。

ペソ・旧スペイン植民地の国々で使われている金の単位。アルゼンチンなどの南米諸国で使われている国が多い。

スカイトラベル社・地球連邦共和国にある旅行会社。宇宙船の貸なども行っている。筆者が作ったもの。

東京地球国際交流宇宙港・宇宙港の別名。宇宙港の本当の名称。

へカテ・ヘレナの隣にある小惑星。1868年 アメリカの天文学者によって発見された。

ディケ・ヘカテの隣にある小惑星。1868年 フランスの天文学者によって発見された。

宇宙航空士・ロケットなどを運転できる職業の事。筆者が作ったもの。

〜地名紹介〜

ミッドタウン・アメリカのニューヨークのマンハッタン区にある地区。商業施設や高層建造物などがある。

以上です。12話もお楽しみに。

Re: 21エモン〜夢の旅路〜①第12話 意識不明のまま生還 ( No.22 )
日時: 2011/03/07 00:28
名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)

第12話・意識不明のまま生還

宇宙船は火星を通り過ぎた・・・。

リゲル達の船は東京地球国際交流宇宙港に到着した。2人はそれを気付かない。目を瞑ったままであった。「宇宙船番号221号。只今地球到着。応答求む」リゲルが暗い表情のままで言う。彼らの顔には生きる気力がないように見えた。無事に生還したのだが、2人の意識がないのは同じであった。「こちら東京地球国際交流宇宙センター管制室。221号。9番に停めることを許可す」彼等の船は9番エアーポートに到着する。降りてきた乗組員の顔には疲れの顔が浮き出ていた。担架もやってくる。2台。2人はそれに乗り救急車に乗るのであった。20エモン・希美は救急車に乗る。あとの者は、リゲルのエアカー・ルナのエアカ—で救急車にくっつく。誰も喋らない。聞こえるのは静寂だけであった。救急車は原宿の街を過ぎたろう。代々木も過ぎた。旧新宿駅前の辺りを曲がり、西新宿のトウキョウ国立総合医大病院に到着した。病院にはリゲルとエモンの友・柏木正波がいた。柏木は近衛文麿によく風貌が似ていた。「よお、久しぶり」「そんなことをしている暇はないんだ。これを見ろ」リゲルが焦りながらエモンの方向に指をさした。「エモンじゃないか。アンタレスで行方不明になってた筈なのに?」「俺らが助けたのさ。あいつとは親友だったんだからな」「そんな感じはしなかったがな。日比谷の時も」「うるさい。早く診断しろ」
柏木はエモンに布のようなものを体に当てた。コンピューターにエモンの体の様子が出される。この頃の診断は、医者は飾り物のようなものであった。病気は全てコンピューターが診断する。それが、コンピューターの画面に出る仕組みなのである。「ここに出ているには酸素不足だと出ている。この地球には酸素は約20%あると言われている。だが、これに酸素不足と出ているのだったら、エモンは地球以外の星にいた事になる」「ああ、そのとおりよ。あいつは小惑星帯のヘレナ付近に浮かんでいたんだぜ。それにまた、宇宙服も着ずに浮かんでいたんだ。この2人はな」「うそだろ。あいつは無重力空間にいたのかよ」柏木は信じられなさそうな顔でリゲルを見た。「ああ、本当だ」リゲルは腕を組みながら答えた。そして「エモンは助かるのか?空夫くんは助かるのか?」と言い出した。リゲルは慌てていた。この2人が目を開ける瞬間を見たかった。ただ、それだけの思いであった。「それは今のところは何も言えない。彼らにはまだ、検査が残っているからな。結果が出るのは2日後ぐらいになるだろう」彼の顔は暗くなった。「分かった。2日後にまたここに来る。来てもいいだろう?柏木」「もちろん。来ればいい。2日後にはきちんと結果も報告する」「約束だぞ」リゲルは椅子に座っている20エモン・希美・ルナに伝えた。「明後日に結果が出るのね。私も一緒に行ってもいいかしら」「もちろん。良いに決まってるじゃないか。ルナちゃんの願い事なら何でも叶えてあげるよ」「まあ、リゲル君たら」2人は笑った。そして、この西新宿を離れた。

溜池山王のつづれ屋では、エモンの命の結果が知りたかった。それのせいで、仕事の楽しみを忘れるほどであった。

その日がやってきた。今日はつづれ屋一家は来ないことになっていた。霞が関のオリオンでは、リゲルが身支度を急がせていた。「今から行くんだな。西新宿のトウキョウ国立総合医大病院に」リゲルはネクタイを締めながら「ああ。行くさ。竹馬の友の為に」と答えた。そして「親父も一緒に行くのか?」と聞いた。「いや、いい。帰ってきてから聞くとする」「そうか」リゲルは出発した。彼はルナと市ヶ谷で待ち合わせの約束していた。ルナは旧皇居の外堀の景色を見ながら待っていた。「やあ、待たせたかい」「別にそうではないわよ」ルナが笑いながら応答した。「行こうよ。エモンに会いに」彼等はエアカ—に乗り、市ヶ谷を出発した。旧伊勢丹前の新宿3丁目も通過し、旧都庁前も通過し、西新宿のトウキョウ国立総合医大病院に到着した。白衣を着ている柏木が、エントランスで待っていた。柏木は、エモンがいる部屋へと案内した。エモンは、人工呼吸器をつけ、衰弱しきった顔で眠っていた。心電図まで測っていた。「この通り、エモンはまだ重体のままだ。心臓が動いているくらいだ」柏木は暗い顔で話した。そして「天野空夫くんも見るかい?」と聞いた。冷や汗をかいていた。リゲルがつばを飲み込んだ。彼等は1245号室の空夫が入院している部屋へ行き、彼を見た。彼も人工呼吸器をつけ、心電図も測っていた。2人は驚いた。エモンより空夫のほうが衰弱していた為である。「これで分かったろう。さあ、話をしようか」彼は、個別の医師室に2人を連れて行った。

個別の医師室は2階にあった。手術室の近くに係員以外立ち入り禁止という部屋があった。そこに3人は入った。「さあ、座ってくれ」2人はベッドの上に座った。「あいつらの事を言う」柏木は急に暗い顔になった。2人は熱心に聞いている。「この話は、断腸の思いで言わなければいけない」「どうしたんだよ。エモンと空夫君はどういう結果が出たんだよ」リゲルは少し怒っているようだった。「じゃあ、言うぜ・・・」柏木は少し時間をおき深呼吸をし、話し始めた。「2人とも、違う星の空気に慣れてしまっている。そして、無重力空間に1ヶ月もいたんだ。そりゃ痩せるのもわかるわな」「早くしろ。早く結果を教えろ。近衛文麿」「分かっているさ。だが、そのあだ名はどうかと思うが・・・。じゃあ、言うぞ。心の準備は出来ているのか?」「出来ているに決まっているでしょ。柏木君。早く教えてよ」

「あいつらは・・・、死ぬ可能性が高い」「は?どういうことだよ」リゲルが聞き返した。「先程も言った通りだ。だが、空夫君のほうが死ぬ可能性が高い。エモンは50%、空夫君は80%だからな。余命は、エモンは長くて1ヶ月。空夫君は長くて2週間だ」リゲルとルナは泣き始めた。竹馬の友のために。そして、「これからはいつもこの病院に来てやるよ。あいつを見舞いに」それを言い、彼らは部屋を出て行った。

その事を、ルナとリゲルはつづれ屋一家に伝えた。「エモンは好きなことをして死ぬんだ。それだけでもあいつは幸せだと思う。幸せな死にかただ。あいつを死なさせてくれ。これがあいつの本望だと思うんだ。だから、死なさせてくれ」「20エモンさん・・・」20エモンは泣きながら言った。2人は言葉がでなかった。ー同級生が24という短命で死んでいく。確かに、山田かまちという人より長生きかも知れない。だけど、空夫くんはもっと短命。11歳。したい事が沢山あったろう。そうだ。俺ら、私たちがあいつらより生きなければならないんだ。あいつらの為に・・・。
リゲルとルナはそれを思いながら、自分のホテルに帰って行った。〔第13話へ続く〕

Re: 21エモン〜夢の旅路〜①第12話の人物・語句紹介 ( No.23 )
日時: 2011/03/07 00:36
名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)

第12話には、新しい登場人物・地名・難しい語句が出てきます。それを紹介します。 

           〜登場人物紹介〜

柏木正波・21エモン、リゲル、ルナと同級生。市立千代田小学校・千代田中学校・州立東京高等学校・トウキョウ総合国立医科大学出身。24歳。トウキョウ総合国立医大病院の医師。少し言葉が悪いが、友達思い。近衛文麿によく似ている。

           〜地名紹介〜


西新宿・東京都新宿区にある地名。オフィス街。都庁などがある地域。超高層ビル街が建ち並ぶ。ここでは、東京医科大学病院付近〔丸ノ内線の西新宿駅付近〕を表している。

市ヶ谷・東京都新宿区や、千代田区にある地名。皇居外濠付近にある地域。JR中央線・東京メトロ南北線・有楽町線・都営新宿線に駅がある。

原宿・東京都渋谷区にある地名。明治神宮の近くにある門前町。若者の街と知られる。特に原宿の竹下通りは若者向きの服屋などがある事で有名。

代々木・東京都渋谷区の北部にある地名。日本共産党本部などがある。高層ビルが建ち並び、高級住宅地としても有名。代々木ゼミナールはここで創立された。

日比谷・東京都千代田区にある地名。ビジネス街。日比谷公園などで有名。東京メトロ日比谷線に駅がある。なお、市立千代田小学校〔架空の学校〕は、日比谷公園の中にある。

新宿三丁目・東京都新宿区にある地域名。伊勢丹などがあり、新宿駅から少し離れている。東京メトロ丸の内線・副都心線・都営新宿線に駅がある。

             〜語句説明〜

トウキョウ国立総合医大病院・東京医科大学病院をモチーフとしている架空の病院。

近衛文麿・ 1891〜1945。貴族・政治家・貴族院議員・日本の内閣総理大臣。第34・38・39代目の内閣総理大臣。戦争を推し進めた政治家の一人。元老 西園寺公望の推薦により首相に就任。1938年に国家総動員法を定め、第2次近衛内閣の時に、各党を分裂させ、大政翼賛会を設立し、日独伊三国同盟を締結させた。1941年に総理を辞めさせられ、1945年、戦争犯罪人の汚名を浴びせられ、極東国際軍事裁判〔東京裁判〕に、A級戦犯として名が挙げられたため、自宅で自殺した。

伊勢丹・三越伊勢丹ホールディングス。日本の百貨店。1889年に営業を開始した。京都などに店舗がある。大阪駅の北側にも、出来る予定である。2008年に、三越と合併した。ちなみに、新宿3丁目の所で出てきた伊勢丹は、伊勢丹新宿本店の事である。

山田かまち・1960〜1977。画家。詩人。幼少期から絵画の才能を発揮する。中3の頃から、ビートルズなどのロックに傾倒。高校受験に嫌気がさし、1年浪人生活を送る。17歳の時、誕生日プレゼントで貰ったエレキギターによる感電で死亡した。死後、1992年に、群馬県高崎市に「山田かまち水彩デッサン美術館」が設立された。そして、2010年 生後50周年を迎えた。

以上です。第13話もお楽しみに。


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