二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 閉じた光
- 日時: 2012/11/23 19:08
- 名前: 紡 (ID: SfeMjSqR)
はじめまして。radの歌に影響を受けて、初投稿です。紡(ツムグ)といいます。
このスレには「radwimps3〜無人島に持っていき忘れた一枚〜」を厳選して短編として更新していきます。題名は、紡が一番好きな歌、ということで「閉じた光」に。よろしくです。
目次(予定)
1、4645
2、セプテンバーさん
3、閉じた光
4、揶揄
5、おとぎ
6、最大公約数
7、トレモロ
8、最後の歌
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- Re: 閉じた光 ( No.1 )
- 日時: 2012/11/23 19:37
- 名前: 紡 (ID: SfeMjSqR)
≪4645≫ よろしこ
奇跡って信じるか?「軌跡」とか「奇蹟」じゃなくて、「奇跡」。
俺は奇跡を信じようって思う。いきなりだからびっくりしただろ?でも、具体的にどんなって言われたら無理だけど、俺はちょっと思ったんだ。
あっ今、宗教だって思ったでしょ?違くて、なんでこう思ったか言いあらわせる言葉を見つけたんだ。もちろんこの奇跡ってやつが続くわけがないのもわかってる。
お前が遠かったのは、いつだろう。そりゃ、いまでも遠くに居るけど。
そう考えるととても懐かしい。まだ思いを告げていない、心であっためてた頃の話。
告白したのは俺からだったな。ベタだけど、放課後の教室にお前を呼んで。メールって手段は嫌だったから、手紙を靴箱の中に入れたな。
すっごい前の話だな。あれから5年、相当経ってるよな。しかも、俺はお前にいっぱい酷いことしたし、お前も俺を引っ叩いて4回くらいフったよな。10:4か、俺ひどいな。お前、「なんで今その話なんだよ」って顔だよ、今。
お前に凄く言いたいことがある。つまりは俺と同じ高校通ってたのも俺が告白してお前がOKして付き合ったのも、今ここに一緒に居るのも今までの失敗もとにかく全部大正解。だって俺は、それが全部運命だと思っちゃってるやつだから。
率直に言うと、俺と結婚して下さい。
- Re: 閉じた光 ( No.2 )
- 日時: 2012/11/23 20:32
- 名前: 紡 (ID: SfeMjSqR)
《セプテンバーさん》
夏ってのは、誰の目にも輝いて見える。
そして浮かれて変になっちゃう季節でもある。
でもそんな気持ちが好きだったりした。
今の季節は秋に差し掛かっていて、夏の残り香がかすかにある。
夏もたいがいしぶとくて、いなくなったと思えばまた舞い戻ってくる。
高校野球児にはちょっとばかし辛い季節。夏が終わった寂しさもあるけど、寒いかと思えば暑くなるのは体にきつい。
僕は汗をぬぐってマウンドからベンチに戻る。スポーツ飲料をがぶ飲みすると、まだ夏真っただ中の気分になる。
気分だけ。浮かれるけどウンザリな暑さだ。
「あっついね。お疲れ」
マネージャーの凛が僕の飲みっぷりに苦笑して、タオルを手渡した。
「もうウンザリだよ、さっさと秋になり切ってほしいもんだ」
「そういうのは星太ぐらいだよ」
「へえ、やっぱ暑いのは好きなのか。汗気持ち悪いとか言いながら、浮かれるよな、みんな」
フン、と鼻をならす。どーせ、みんな夏の魔力にだまされて秋になったら思い出すだけだ。
「夏、嫌い?」
「今は夏じゃないよ」
「でも、嫌いみたいな言い方」
「夏だから恋愛するみたいなのがやなんだよ」
言うと、凛が噴出した。僕は憮然とした。その時、ちょうど満塁になる。守備にも暑さによるガタがまわっているようだ。
ひとしきり笑った後、凛は言った。
「そんなことないじゃん。秋だって冬だって春だっていつだって恋愛するじゃん。てか、星太がそんなこと言うなんておっかしー」
「夏が終わったら冷めるの、よくあるじゃん。僕の女友達もそうだったんだよ」
そうやって、凛が僕を嫌いになったとしたら、嫌だなぁ、って。
僕がぼそりと小さい声で言ったのに運悪く凛は気付いたようだった。
冗談でしょ、とごまかさず、凛は暑さのせいか顔を真っ赤にした。
「……星太、でもさ、ならさ、」
支離滅裂に、言葉を繋ぐ凛に苦笑する。結局、僕は夏の空気に頼ってみる。なんだ、凛は気付いてたと思ったのに。
「夏じゃなくても、———手、繋いだり、抱き合ったりしたら、どきどき、する……じゃん」
「…秋でも?」
「秋でも。いいじゃん、九月で。———あたしたちの夏を、九月にしちゃえばいいんだよ!」
凛はまた笑って、還ってきた選手にお疲れ、とスポーツ飲料を投げる。そういえば、今まで彼女がマネージャーをしてきた中で、試合中の物を手渡ししていたのは僕だけだったことに気がついた。
- Re: 閉じた光 ( No.3 )
- 日時: 2012/12/01 15:50
- 名前: 紡 (ID: SfeMjSqR)
≪閉じた光≫
声と、丈夫なままの体と、折れない心だけがあれば、あとは正直十分だった。この状況に耐えうる、力があれば。
既に、生きて故郷に帰るという選択肢は無いに等しい。
親は俺がもう死んでいるかもしれないと思っているだろう。
だから、夢はとっくの昔に、置いてきた。
「おい、ハヤ。なんだぼーっとして。白昼夢か?」
「…そんなとこだ」
乾パンを分ける友にはぐらかした。大丈夫だ、銃の激鉄はおとしてある。暴発する危険は無い。結構な間、俺の相棒を務めてきたこの銃は、一日おきに欠かさず手入れをしている。
突然、乾パンを食べながら戦友は呟いた。
「今日、道尾軍曹、魚雷に体当たりして自爆したってな」
「…ああ、これで特攻隊も残る軍曹は3人だ」
「次は俺かもしれんな」
「———また、物騒なことを」
「ヤツ等には、俺たち〝tokko〟で通用するんだとさ。よっぽど有名だぜ、俺ら。それとこれとは関係ないけどさ、明日俺前衛任命される気がするわ」
「…マイナスな考えは慎めコウ。必ずウマい飯食って死ぬって約束だからな」
「あったりめぇだ、こんな口のなか渇くパンなんか喰ってられっかよ!生きてやるよ、ぜってえカミさんの飯食って死んでやるからな!」
特攻隊、すなわち特別攻撃隊。
通称、神風。
そしてその意味は、捨て身で敵に襲いかかり、死亡前提でいくさに臨む兵隊である。
強くなれる方法を昔、探していた。
体を鍛えればいいと思い立ち、必死で鍛えた。
でも強くなったのは体だけで、心はもろい。
またどうすればいいのかわからなくなって、今度はどんなことにも動じなければいいのかと思い立つ。
でも今度は鍛えることすらできずに、なにもできずに終わった。
いつしか自分は大人になり、子供の様な無邪気なものも忘れてただ中も外もぜんぶ堅く塗り固めた。
今の時代は、戦って勝てば強い。そう考えている。
そんな思いが、俺たちの命や世界中の兵士たち、そして戦に関わるのみならず全てを呑みこんでいる。
俺にだって弱さはまだ残っている。塗り固めただけだから、心のやわらかい部分のふたをとればすぐに見つかる。
でもそれを知っているのは自分だけだ。目を閉じると、何故か自分の弱さが「見える」ようで不安になる。
この星のせいにすれば、きっと明日をまだ生きられる。
たとえ死んでしまったとしても恨みをぶつける対象はここにあるから。
まだ幼かったころの、何も知らなかった俺のための痛みが、苦しみが、今の俺に降り注いでいる。心の、やわらかい部分に。
他の人の人生を一度だけ、生きてみたいと思った。
家庭を持ち、毎朝妻の食事を食べ、子供の面倒をみて。
あまりにも、命は軽かった。どうすれば、命の重みは変わる?
全部なくていいから、適当でいいから。
でも、俺は諦めて笑う。
そう、そんな夢はもうどこかに置いてきた。
嫌でも俺は戦い、そしてそのうち死ぬ。
こんな状況で、誰かが俺に、笑え、と言った。
「———コウ、行くのか」
「おう、ちょっくら逝ってくるぜ。ちょっとのお別れだ、上で待ってるぜ」
気軽に笑う。これは強がりなんかじゃなくて、「願い」だ。
「せめて笑って逝こう」。これも、俺と彼の約束だ。
俺も、その言葉にこたえて手を振った。右手に銃をたずさえて、戦地に散るひとつの命を見殺しにするために。
「また会おう」、と。
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