二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.318 )
日時: 2010/03/14 19:34
名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)

 89 抑えられなかった悲しみと憎しみ




「謙也くん、白石くん。 起きて」(侑母)

朝。 
重たい体を、無理矢理起こす。
今日は、葬儀の日だ。

「おはよーございます、おばさん」(謙也)
「下で、朝ご飯作って待ってるからね」(侑母)
「はい」(謙也)

白石も隣で目を覚ます。

「あー・・・ もう朝か」(白石)
「よう寝れたか?」(謙也)
「微妙、やな」(白石)

白石ははにかみながら言った。
2人は、その後1階に降りて朝食を食べ、侑士の家族と共に、会場へ向かった。
車の中では、誰1人、口を開く者はいなかった。


「着いたよ」(侑母)


車を降りる。
大きな建物だった。
あの中に、侑士がいるんだろうか。

・・・もう、見ても侑士だ、とはっきり分からないようになってしまっているんだろうか。

考えるだけで、吐き気がする。
こんな状態で、優勝者の女の子と会えるのだろうか。

謙也は、そんな不安を押し殺し、白石に悟られないよう、なるべく普通にした。
過剰反応もしない、取り乱しもしない。
たとえ、優勝者が目の前に現れても。

そう、誓おう。

「行くぞ、謙也」(白石)
「おぅ」(謙也)

建物の中へ入る。
そこには、有名なテニスプレイヤー・越前南次郎や、不二裕太、他にもたくさんの参加者の家族達がいた。

「母さん達が悪いんだよ! 兄貴を売ったりするから!」(裕太)

そんな声も、聞こえてきた。
白石は、目を背けてはならない、と心の中で呟いた。

謙也は、辺りを見渡す。
視界に飛び込んできたのは、南次郎でも、裕太でも、他の家族でもない。




————————————————優勝者の、女の子




憎しみと怒りと悲しみと寂しさと。
すべてのキモチが混ざり合い、解け合い、繋がる。
もう、抑えられない。

優勝者は、謙也が入ってきた入り口を反対にある出口を通り、外へ出た。

自分が止められない。
頭の中では、何もかも分かっている。
今、あの子に飛びかかっていっても、何の解決にもならない。
何をしたって、解決なんて出来ない。
なのに、次の瞬間、謙也は走り出していた。
他のいろんな人をかき分けかき分け、女の子の元へ。


「謙也?!」(白石)


白石が驚き、謙也を呼び止める。
それも聞こえなかったかのように、無視して行く。
白石は嫌な予感がした。

「・・・ッチ」(白石)

白石も走り出した。
止めなくては。 今の謙也、何をするか分からない。
あの子を前にして、何をするか分からない。

ドンッ

誰かの肩に、自分の肩がぶつかる。

「! すんません!」(白石)

顔を確認する暇などない、謙也の背中が、見えなくなるその前に。
止めないといけない。



「待てや! 自分、優勝者っちゅーもんやろ!」(謙也)



遅かった。 白石は思った。
白石が追いついたときには、もうこの状況だった。
女の子は、静かに振り返る。







これが、俺たちとキミの出会い。
今日のキミの、目。 俺は一生忘れられないだろう。
そして、もう一生、見られないだろう。

今日のキミが、俺の見た最後の本当のキミ。