二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.429 )
日時: 2010/03/26 16:15
名前: 亮 (ID: nWdgpISF)

 96 見れないテニス




「こっちや。 職員室は」(謙也)
「ありがとうございます」(香澄)
「ほな。 俺らは此処で待っとるわ」(白石)
「はい」(香澄)

謙也と白石に連れられて、四天宝寺の職員室にやって来た香澄。
職員室に入る香澄を確認して、謙也はため息をついた。

「・・・白石。 この様子やったら、前からあの子が此処に来ること知ってたんやろ」(謙也)

謙也が、若干ふてながら白石を見る。
白石は、照れ笑い。

「はは・・・ どうやろ?」(白石)
「はぐらかすな!」(謙也)
「ええやん。 こうして会えたんやし」(白石)
「・・・ったく」(謙也)

会って、ほんの少ししか立っていない。
だけど、2人の中で香澄は大きな存在になっていた。
いつも、頭の中はテニスばかりで、女の子のコトを考える暇なんてなかった。
だから2人とも、初めてなのだ。
まさか、こんな形で“トクベツ”だと感じる女の子に、出会うとは思っても見なかったけれど。

しばらくそうしていると、香澄が出てきた。

「あ、待っててくれたんですね。 すいません」(香澄)

香澄は穏やかに笑った。
白石は、それにどことなく違和感を感じていて。

「あ、いや。 気にせんでええよ。 ほな行こか」(白石)
「せや。 練習、戻らな」(謙也)


「れん、しゅう・・・?」(香澄)


香澄は、足を止めた。
謙也がそれに気がつき、振り返る。

「せやで? テニス部が練習せんで、誰がするんや」(謙也)
「ま、つっても俺らはもう、引退した身やけどな」(白石)

2人は笑いながら言う。
香澄は、足が重たくて進めない。
心臓の鼓動が、徐々に大きくなるのが分かる。
何故かって?
そんなの、分かり切っている。


「香澄ちゃん? 顔色、悪いで?」(白石)


白石に顔を除かれて、我に返る。
香澄は慌てて笑った。

「すみません、大丈夫です」(香澄)

その笑顔には、やはり違和感があった。
3人はテニスコートへと歩いた。



「行っくでー!! 超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐ィ!!」(金太郎)

金太郎が、高くジャンプする。
相手は、財前。

「しゃーないなぁ、金ちゃんは・・・」(財前)

コートの外で、楽しくその様子を見学するコハルとユウジ。
千歳は、その後ろのベンチに座っている。
銀、健二郎の二人も、隣のテニスコートでプレイしていた。


「おーい、何好き勝手やっとんねん」(謙也)


謙也が声を掛ける。
皆、一斉に振り向いた。



「な、謙也、異様に元気やで?」(ユウジ)
「アタシが慰めようと思ってたのにィ」(小春)
「声が大きいッスわ、先輩ら」(財前)

「なにー? 何話してるん? 光ー!」(金太郎)

「ま、元気そうで何よりばい」(千歳)
「・・・ん」(銀)
「そうだな」(健二郎)



「まるぎこえやっちゅーねん、お前ら!」(謙也)

ヒソヒソと話す部員達に、ツッコミを入れる謙也。
呆れながらも、自分の心配をしてくれていたのかと思うと、ちょっと嬉しさを感じていた。

「・・・謙也先輩。そっちで隠れてるのは? 誰でッスか?」(財前)
「ん?」(謙也)

財前が、香澄を指さす。
香澄は、ビクッとして更に木の陰へと隠れた。

「何なんスか、あの子・・・」(財前)

香澄も、馬鹿なことをしているとは思っていた。
でも、どうしても足がすくむ。

テニスを見られない。
テニスコートへ来ると、皆がいるような気がしてならない。
あのかけ声、あの応援、あの興奮、あの感動。
全てが、まだ残っているような、そんな気がして。


もう、何処にも、誰もいないのに。


「・・・あ、この子はな、」(白石)

白石が、香澄の説明をしようとする。
謙也もフォローしようとした。

また、このパターン。

香澄は呟いた。
自分では、結局何も出来ていない。
自分の力で、歩めてなんかいない。



「BR優勝者の、一ノ瀬香澄です。 明日から、この四天宝寺に通います」(香澄)



カラを、突き破れ。
強くなれ。

「え・・・?」(財前)
「優、勝者・・・」(ユウジ)
「この、姉ちゃんが?」(金太郎)

皆、驚きを隠せない。
白石も謙也も、同じだった。

それでも、香澄の気持ちは、なんとなく悟れた。


「ま、そーゆーこっちゃ。 光。 同学年なんやから、色々教えてやりィ」(謙也)
「せやで。 よろしゅうな」(白石)


俺たちは、キミを支える。

「・・・しゃーないなぁ」(財前)
「ワイ、遠山金太郎いいます! よろしゅうなー姉ちゃん」(金太郎)

金太郎が、香澄に飛びつく。
財前が、素直にほほえむ。





ここへ来て良かった。





伝えれば、伝わるね。


「・・・良かったな」(謙也)
「ええ奴らばっかで、良かったわ」(白石)
「そりゃ、あんな泣きそうな顔で言われたらな」(ユウジ)

ユウジが、白石の肩をポンと叩く。

「悪者じゃ無いことくらい、お見通しよ」(小春)
「せやな」(謙也)

謙也が、クスッと笑った。



「おー 一ノ瀬さんか?」(オサム)



謙也達の後ろに、オサムが現れる。
名前を呼ばれて、香澄が振り向いた。

「・・・はい?」(香澄)
「初めまして。 顧問のオサムです」(オサム)
「あ、初めまして」(香澄)

オサムの目も色が変わる。





「突然やけど、“中務隼人”のこと、教えてくれんかなぁ?」






それは、“悪魔”の名前。