二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.661 )
日時: 2010/04/25 17:14
名前: 亮 (ID: ycpBp.uF)

 111 始まる新しい日々




翌日。
香澄の新しい日常が始まる。

「じゃ、行ってきます。 おばあちゃん」(香澄)

祖母は優しく笑って、「いってらっしゃい」という。
その顔を見れば、安心できた。
そんなふうに、安心させてくれる人を、不安にさせてはいけない。

手を振りながら、香澄も笑った。


テニス部は朝練の途中で、すでに引退した白石達も顔を出していた。
全体を指示しているのは、財前のようだ。
香澄は、邪魔をしてはいけないと思いながらも、やはりテニスが気になってしまう。


まだ、自分の胸の深いところで、“彼ら”を探している。


「おはよーさん、香澄」(謙也)

テニスコートを見つめる香澄を見つけて、謙也は方を叩いた。
香澄は驚いてこちらを向く。

「あ、謙也さん、でしたか」(香澄)
「脅かしてしもたか?」(謙也)
「てっきり、練習しているのかと思っていたので」(香澄)

不思議な気分だ。
こうして普通に話しているのが、不思議だ。
あんなに傷つけ合って、ぶつかり合ったのに、こうして分かり合えるんだ。
それが、心地良い。


「オサムちゃんがな、呼んでんねん」(謙也)


香澄は首を傾げる。

「オサムさんが?」(香澄)

昨日の、話しだろうか。

「なんか、言いたいことがあるって、言ってたで?」(謙也)
「はァ・・・」(香澄)
「来てくれるか?」(謙也)

香澄は頷く。
どんな話しでも、聞こうと思う。

謙也に手を引っ張られ、白石達のいるテニスコートの横を通り過ぎる。
途中、白石にあいさつをされ、香澄も笑って返した。
もちろん、始めに謙也に会ったときも、出来るだけ笑って見せた。



“安心”という“幸せ”をくれた人を“不安”という“不幸”に陥れてはいけないから。



「オサムちゃん、連れてきたで」(謙也)

オサムは、昨日と同じベンチに腰掛けて、香澄に笑いかける。

「早いなァ、謙也。 ご苦労さん」(オサム)
「ほな、俺行くわ」(謙也)

帰り際に、謙也は香澄の背中をポンッと叩いた。

「あの、話って?」(香澄)

香澄はオサムに問いかけた。
オサムは、昨日とは違い、温かく笑う。




「会おう、と思てんねん。 隼人に」(オサム)




キミのおかげ。
素直に、この言葉が言えるのは、キミのおかげ。

「本当に・・・?」(香澄)

オサムを頷く。

「ありがとな。 やっと、素直になれたわ」(オサム)
「感謝されるようなコトじゃないです」(香澄)

謙遜する香澄の頭を、オサムはベンチを立ちクシャッと撫でる。

「分かり合えるまで、何度も話し合う。 それが、リサの望んでることやと思うから」(オサム)

すごく、すごく、時間が掛かるかもしれないけれど。



「ちゃんと、進もうと思うんや。 ありがとうな、“香澄”」(オサム)



オサムのココロも、香澄を受け入れる。

チャイムが鳴る。
オサムは、コートに向かって大声を出す。


「今日の朝練はここまで! はよ、教室に行きや!」(オサム)


進んでいこう。
止まっていたココロが、動くんだ。



「香澄ちゃん、何組や?」(白石)

白石が問う。

「あ、2年7組です」(香澄)
「それなら、財前くんと同じやな」(白石)
「そうなんですか?」(香澄)

財前を白石が呼ぶ。
怠そうに、財前は部室から出てきた。

「何ですか? 白石さん」(財前)
「この子、連れてってやってや」(白石)

白石は財前の前に香澄を連れてくる。
香澄は少しばかり、恥ずかしくて。

「あ、の」(香澄)
「転校生やから、優しくしぃや」(謙也)

謙也も横から出てきて言う。
財前は、やっぱり少し怠そうで。

「しゃーないなァ」(財前)

一言そう呟いた。
それが、香澄はすごく申し訳ない。

「ほんなら、行くで」(財前)
「あ、うん」(香澄)


教室までの道の間、人からの視線が気になった。
それに、財前は一言も話さない。


それでも、ここで前に進む。
始まる新しい日常で、強くなると決めたんだ。






皆。 見ていてね。
ここで強くなるよ。 今度こそ、涙とサヨナラするから。
笑うから、だから、見ていて。 皆。






財前は、切ない表情をする香澄を、横目で見つめた。