二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第一章 続3 ( No.5 )
日時: 2010/05/08 14:26
名前: お⑨ (ID: NzSRvas.)

「悪いね、冬馬君。」

「いや、どうせ暇だったから良いですよ。
それより、何をすれば。」

店長の謝罪に対して、気を使われないような返事を簡単に返し、自分への指示を促す。

「じゃあ、外をお願い。」

「はい、解りました。」

早速仕事に取り掛かろうと厨房から出ようとした時に、店長から「バイト代はずむから」と声が聞こえたが、今は無視だ。 
時間帯は午後の1時。 
昼飯時だからだろう、客のテーブルにはサンドイッチやらスパゲティーやらが並んでいて、各々食事を取っている。
客の追加メニューや席への案内、お会計に片付け。
言うだけなら簡単に言えるし、それ程忙しいと思えるような仕事の内容ではない。
しかし、それも数が多くなってしまえば重労働になるのではないだろうか? 
それらの仕事をこなしている内に時間は流れ、店内が落ち着きを取り戻したのは3時過ぎ頃だった。
殆どの客が昼食の休憩時間を利用してここに来ているため、忙しくなる時間帯もそれに比例する。
特に平日とも成ればそれは、そのまま客入りに影響を及ぼす。 
客が帰った後のテーブルの片づけをある程度終わらせると、午前中からいたバイトのメンバーが、私服に着替えて「お疲れ様でした。」の声と共に店を出て行く

「おつかれー・・・・・はふ〜、ようやく落ち着いたなあ〜。」

独り言のように呟きながら、残りの洗い物に手を掛ける。

「助かったよ冬馬君、ほんとうにありがとう。」

そんな冬馬に店長が後ろから声を掛ける。

「いえいえ、困ったときはお互い様です。」

俺はこのバイトをそれなりの期間続けている。
その御陰で、店長や他のバイトのメンバーからも、それなりに頼りにされている。
そうなってくると、ただのバイトであってもそれなりに責任感という物が芽生えて来るもので、
それに答えようと自然と努力してしまう。
俺は、そんな今の自分を嫌いではない。

「あ、そうそう。冬馬君さ、もし君にその気が有るならなんだけど、うちで正式な社員として雇いたいと思ってるんだけど、どうかな?」

不意に店長の口から重要な言葉が、実に軽いノリで出てくる。

「っぶ、っえ?えぇ。ってか店長、そんな重要な話をさらっと言わないでくださいよ。」

驚きながらもしっかりとツッコミを入れる。
それに対して「あはは、ごめんごめん」といいながら、店長も苦笑いを浮かべる。

「っで?どうかな、この話。」

「あ、はい、勿論喜んで受けさせてもらいます。」

フリーターと言う、今の自分の不安定な立場にはまたとないチャンスだし、断る理由も無い。

「そうかそうか、じゃあ上に話しとくから明日にでも必要な物とか伝えるよ。
んで準備が整いしだい本社に一緒に行こう。」

「はい、よろしくお願いします。」

冬馬は深々と頭を下げる。
子供のように歓喜の声を上げたい気持ちを押さえながら、冷静に振る舞い洗い物の続きを始める。
それからは、忙しくなることはなく、閉店の時間までゆっくりと時間はながれていった。

「よしっと、おわり。」

床にモップをかけて、テーブルの上に上げていた椅子を全て下ろし、店内の片付けは全て終了した。

「ご苦労様、今日は本当に助かったよ。」

「いえいえ、じゃあ僕も上がりますね。」

「うん、お疲れさま。じゃあ、明日に詳しい話をするから宜しくね。」

「はい。」

元気に返事を返し、スタッフルームに入りそそくさと着替えを済ませ帰る準備をする、ふと携帯を見ると夜の9時を表示していた。

「さてさて、帰ってから直ぐに寝ないと。確か明日は朝からバイトだったからな。」

そんな事を言いながら、いそいそと店を出て自転車を走らせる。

「……琴美はかえったかな。」

帰りながら、琴美の事を思い出していた。
あの後ちゃんと帰れたかどうか電話で確認しようと思ったが、別段、急いで確認することも無いだろうと判断した冬馬は、取り出そうとした携帯電話を、再びポケットの中にしまい込んだ。
家を出る間際に書いたメモ帳には、『帰るなら、鍵はポストに入れといてくれ』と書いた。
鍵は置いて出てきたし合鍵は俺が持ってる、だからそんなに心配することもないだろうと思ったからだ。 
考えるのを止めた冬馬は、自転車のペダルを力一杯踏み込み家路を急いだ。