二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【稲妻】all for you!!【話集】 ( No.259 )
- 日時: 2010/10/18 22:10
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
しゅっ、と金属同士が擦れる鮮やかな音が甲高く響く。銀色の刃は舐めるように自らの刃を覆いつくす光を反射し、眩く輝く。その反射光は、直視してしまえば失明してもおかしくないと思うほど強かで激しい。その刃の柄に埋め込まれた、鈍く儚い輝きを放つ宝石。透き通った深緑色のそれは、まるでエメラルドのよう。
その刃を上空へ掲げ、彼は溜息とも深呼吸ともつかぬ息を吐いた。課せられた使命を一瞬でも忘れようと。彼の華奢な体が背負う様々な人々の期待から逃れようと。そしてこれから待ち受ける日々に、哀しくも強かな想いを馳せながら。
全ては、人々の平安のために。全ては、彼自身のために。全ては、彼の愛する彼女のために。全ては————
いつかの、彼と彼女の約束のために。
*
無様だと嘲笑われた。見返してやろうと思った。けれども恐らく、それは無理な話で。どう考えても俺のようなまだまだ剣の扱いもままならないようなヤツが、〝エイリア石〟と呼ばれる石の力を授かった上級騎士に勝つことなんてできない。そんなことがありえるはずがない。
がむしゃらに苛立ちと焦りばかりを刃に乗せる日々で、俺は強くなれたのか。なにか、変わることができたのか。無論、何もなっているはずがない。ただ無駄に、酸素と時間を浪費しただけだ。じゃあ、どうすればいい。
どうすれば、彼女を守ることが出来る。どうすれば、彼女との約束を守ることが出来る。できないのか。あの約束を守ることなど、ちっぽけで愚かな俺にはできないのか。出来るのは、アイツらのような上級騎士にだけなのか。じゃあ俺の努力は。俺の今までの想いは。彼女と約束のためにだけ捧げてきた、酸素と時間はどうなるんだ。
誓っただろう。必ず自由の身にしてみせると。一緒にどこか遠くへ逃げようと。誓っただろう?
*
彼は彼女を愛していました。誰よりも、何よりも。そして同等に、彼女との約束を大切にしていました。しかし彼は、見失っていたのです。己の焦りや想いに囚われるばかり、彼女自身の想いへと目を向けることを。