二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【3Z】死に損なった少女。 ( No.44 )
日時: 2010/07/26 12:51
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: vWQ1Y4kw)

▼die.11 ─────────────


其れは何時頃なのか。
多分、今自分の視界の低さからして6歳位では無いだろうか。
遊園地に行きたいと駄々をこねるくらいだから、幼女であったと思う。
つまり此の記憶と今の姿は、自分自身。誰か判らぬ幼女の姿では無い、記憶を辿っているのだろう。
相変わらず今の——──小さい頃の自分は泣いている。涙を拭えど拭えど涙は止まらなかった。

其れだから、涙を拭う度目は自然と閉じられる。
故に視界が暗くなり、注意力は散漫になってしまう。足下など、見ていなかった。
雨でぬかるんでいるなんて、全く。

────……あ!!

其の時、勢い良く足が滑った。
其の侭尻餅を着くかと思ったが、倒れる際傾いだ方向は左。
其の侭ま坂になっている草むらを転がり落ちてしまった。草は刺さり土で全身が汚れる。
其れだけならよかった。

其の侭、バシャンと水が弾けるような音がしたかと思えば、身体全体に冷たい水と水圧。
息をしようとすれば水が入って来て、息は出来ない。

川  に  、  落  ち  た  の  だ  。

────苦し……!!

大雨の影響で勢い良く流されてしまっている。
足掻いた処で水圧が強い為何にもならない。
しかも今は幼女の姿だ、上手く泳ぐ力も無い。
何処かに掴まりたくともつかめる程腕は長く無い。
もがけばもがいただけ、只苦しくなるだけだ。

────助け、て!!

水が口から入って来る。息なんて出来ない。
身体中が冷たく、重い。酸素が足りなくなる。

助けて、と願った。

刹那、体が温かいものに包まれた感覚がした。
其の一瞬で、息苦しさや水、冷たさや重さなどが全て綺麗に消えてしまった。
まるで最初から川に落ちてなどいなかったかのようにだ。
温かい。つい先程までの焦りや絶望が一気に消え失せた。
心が落ち着いている。安心、其の言葉がぴったりだ。

ならば此処は一体何処なのか。きっと今までのは過去の思い出。
そうなるとまた、此処はまだ夢の中なのだろうか。

そう思いパチリと目を開けた。
すると目前に広がるのは、何も無い世界だった。何も存在しない、真っ白な空間。
そして其処にポツンと一人佇む少女がいた。
少女と視線が絡む。
誰だろう、何処かで見た事があると数秒首を傾げた自分は、間抜けだと悟った。
まだ見慣れてはいなかった少女、しかし其の少女は今、自分に最も近い存在の少女だ。

其れが判った瞬間、自分は口を開こうとした。
処が、自分よりも先に彼女がニコリと微笑み自分に話かけた為、其れを断念する事となる。

少女は一言、たった一言だけ呟いた。
其の衝撃的な言葉により、自分は当初言おうと考えていた言葉を全て綺麗に忘れてしまった。
と言うよりは寧ろ、言葉を飲み込んだような、吸い込まれてしまったような感じだ。
其の侭彼女はニコリと笑う。
次の瞬間には、自分は意識を飛ばしてしまっていたが、確かに少女の言った言葉を覚えている。


只一言、「返して」と。


        —————————──


「——──廉條!!」
「日向!!」
「……あ、れ??」

暗闇の中で降って来るように聞こえた自分を呼ぶ声。片や低く、片や高い声だ。
重かった瞼を上げて見えたのは、白い天井と泣きそうな神楽、そして余裕の無さそうな表情の土方だ。

「日向、良かったヨ!! また、起きなかったら、如何しようかと、思ったアル!!」
「ったく、ビビらせんなよな。チャイナから聞いた時は本当焦ったぞ」
「……あたし、倒れたんだっけ??」
「あァ。突然頭痛ェって言い出して、倒れたんだ」

自分にがしりと掴まり嗚咽する神楽の頭を撫でながら、土方の説明で状況を把握する。

神楽と話をしていた時、自分は確かに頭痛を訴えた。
経験した事の無いような、鋭く激しい痛み。死んだ身ではあるが、死ぬかと思うくらい痛かった。
汗びっしょりになりながら痛いと喚き、意識を飛ばし倒れた。
神楽は驚くあまり慌てふためき、どうすれば良いか判断が出来ない程パニックに陥った。
其処で自分を連れてきた張本人である土方の元へ行き、授業中にも関わらず此方に連れて来た。

そして土方が保健室に運び今に至るとの事だ。
慌てていたとは言え、神楽は連れてきたからには自分が日向だと土方は知っているのだろうと考えたらしい。
事情を知る人物をきちんと絞った神楽は頭がきれると感心した。

「大丈夫か?? 頭痛いのは」
「……ねぇ、土方君。神楽」
「ん??」
「……何アルか??」

ギュッと瞳を閉じ深呼吸をすれば、直ぐに思い浮かぶ先程の情景。
父親との喧嘩、泣きじゃくる自分、川から落ちた自分。
其の夢を見た真相は今は全く判らない。
しかし、最後に見た夢。あれだけは、はっきりと何が言いたいのか判った。判ってしまった。

いつか、と覚悟はしていた。
しかしやはり悲しくなるに決まっている。
一度死んだ身だ、生きている事がおかしいのだけれど、其れでも願いは生まれる。
「生きたい」と。

しかし、叶いそうにも無かった。
スッと、涙が溢れた。目を丸くさせる二人に構わず、涙と共に言葉を溢した。

「あたし……もう少しで、此の体を持ち主に返さなきゃ駄目、みたい」

夢で見た、少女。
「返して」と呟き笑った少女。

其の子は、今自分の魂が宿っている此の身体の、女の子だった。
今でも頭に響く、四文字の言葉。
まるで本人が未だ自分に言い聞かせているようだ。つまり、少女の魂が、自身の体に戻って来る。

其れはつまり、自分——──日向の魂が、近々消える事を意味していた。
魂ノ消エルカウントダウンガ、始マッタ。

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