二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: テニスの王子様〜お姫様現る!〜●参照500突破!ありがとう! ( No.57 )
- 日時: 2011/07/29 16:08
- 名前: 黒羊 (ID: 2N4onKWr)
- 参照: http://p.tl/i/20620591
参照500突破記念 特別番外編
夢
あれは、“今” から5年前の事。
あの子が、8歳の時の、
夢のようで、
夢ではない、
夢と思われ、
忘れられた、物語
* * *
今日は黒宮一家アメリカ旅行の一日目。
旅行は柚子香の母、英梨香の誕生日祝いも兼ねている。
朝。
父の龍之介と、母の英梨香は時差ボケが来たらしく、ホテルでまだ寝ていた。
しかし柚子香は元気だった。
適当に朝ごはんを食べると、部屋を出て近所を探索してみる事にした。
黒いラケットバックには、テニスの道具や水筒を入れてきた。
迷っても帰られるように、ホテルの地図をポケットに入れている。
柚子香はわくわくしてきた。
知らない土地を歩くのは嫌いじゃない。
どんな事が待っているか分からなくて、楽しいではないか!
しばらく歩くと、林に入った。
道なき道を進んでいるうちにけもの道を見つけ、道を歩き始めた。
急に、視界が開けた。
広場のようなところで、近くに家とテニスコートがある。
人のうちに入ってしまったのだろうか? と、少し不安になったが、まぁいいや、と柚子香は思った。
沢山歩いて少し疲れたので、木の下で休むことにした。
木漏れ日と風が、心地よい……——
「ねぇ。アンタそこで何してんの?」
生意気な声で目が覚めた。
少し寝てしまったようだ。
ツリ目がちな大きな目、緑が勝ったまっすぐな黒髪、日本語……日本人だろうか?
白い帽子はサイズが少し大きいらしく、つばがななめを向いている
“ねぇ、何してんの?”
今度は、英語で聞かれた。
何を言っているか分からないが、英語と言う事だけはわかった。
柚子香はとりあえず、最初の質問に答えた。
「アンタに安眠妨害されてムカついてるところ」
「…ふーん。(日本語、分かるんじゃん)ここ、俺んちなんだけど、何か用があるわけ?」
いちいち、気に触るような言い方だ、と柚子香は思った。
風が通りぬける。
「特にないけど」
「アンタ、テニスするの? それ、ラケット入れるやつでしょ?」
ラケットで、柚子香のバックを指された。
「…そうだけど」
「相手してくんない? 親父も兄貴も寝てるんだよね。俺は珍しく目が覚めちゃってさ」
柚子香はバックからラケットを取り出して、立ち上がった。
「…いいよ。やろぅ」
「…あたしは黒宮柚子香。アンタは?」
「……越前リョーマ」
* * *
リョーマのサーブ。
球は、不規則な弧を描き柚子香のもとへ向かった。
——このサーブ…!
柚子香はエースをとられてしまった。
「どんどん行くよ」
また、ツイストサーブ。しかし柚子香はまたエースをたられるわけにはいかない。柚子香の意地だ。
「甘いね」
リョーマのいる所とは反対側、取りにくいところへ返球した。
これにはリョーマもびっくりしたようだ。
* * *
柚子香のサーブ。
柚子香は、驚かせてやろうと思い、あのサーブを出した。
その球は、不規則な弧を描きリョーマのもとへ向かった。
「! へぇ、なかなかやるじゃん」
ラリーが続いた。
リョーマも柚子香も、ドライブをかけたりスライスをかけたりと、激しいラリーが展開された。
「ドライブA!!」
「アークタルショット!!」
両者一歩も引かない。
突然、柚子香に変化が起きた。
息が切れていない。
まとっているオーラは神々しかった。
————無我の境地だ。
リョーマは驚いたが、ラリーを続けた。
しかし、つぎつぎ繰り出される自分の技の数々。
どこに打っても、打ち返してくる。
突然、リョーマは意識が遠のいた気がした。
無意識に、体が動いた。
「You still have lots more to work on・・・」
* * *
「終わった…。あたし…の勝ち……だ……ね…」
二人とも、無我の境地の副作用で体力を消耗しつくしたようだ。
その場に倒れ込み、
眠ってしまった。
——しかし、二人ともラケットを強く握っていた
* * *
「あらあら、リョーマったらこんな所で寝ちゃって。ベッドで寝てればいいのに……あら?」
リョーマの母、倫子がコートに入ってきた。
リョーマを起こしに行っても居なかったので、探しに来たのだ。
「誰かしら、この子…?」
リョーマの友達だろうか、しかし、こんな朝っぱらから…。
ふと、柚子香のポケットからはみ出ている紙に気が付いた。
「地図…? あ、丸が付いてる。ここに泊ってるのね!」
リョーマも柚子香も、起きそうにない。
「きっとご両親が心配してるわよね…」
倫子は車に柚子香を乗せた。
「…軽っ!」
* * *
目が覚めると、木の下にいた。
木漏れ日と風が心地いい…。寝てしまったのだろう、と柚子香は思った。
それにしても、すごく疲れている。
たしか、部屋を出て林に入って迷って、テニスをして……。
そのあとは、よく覚えていない。
ここは、ホテルの庭のようだ。
そもそも、そんな遠くには行っていなかったのだろうか。
すべて、夢だったのではないだろうか。
柚子香はそう思った。
それにしても、夢の中のあの子、強かったなぁ……、よく覚えてないけど。
【夢.終わり】