二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.143 )
日時: 2011/03/30 19:26
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Ph3KMvOd)





    第四十八話【思い煩う少女】


 ぼんやりと空を眺める。ふわふわの雲が、のんびりと青空を泳いでいた。平和だなーと思う。だから、もしかしたら、エイリア学園なんていう恐ろしい機関を潰しに行くなんていう現実も、もしかしたら夢なんじゃないかな——なんて。私はまだまだ幼いなぁ。ここまで来たって言うのに、まだ現実を受け入れられないなんて。もっと成長しなきゃ。頼るべき人は、ここにはいない。そう……家族なんて論外だ。

 ……家族、か。この単語の響きは、私の脳裏に嫌な記憶を映し出す。最近はめっきり見なくなったけれど、"悪夢"に分類される、お母様とお父様の夢は、私がどれだけ成長しても——精神年齢はわからないが——私を翻弄させるのが好きだったようで。夢の中で私は、お母様の背中を必死になって追いかける。そして、やっとのことで掴んだ母の手は、女性にしては大きすぎるのだ。ふっと顔を上げると、お母様は——自分がそう信じていた人間は、怪しい微笑みを浮かべる、父で。息を飲み込んだところで、夢は冷める。なぜ実の父親に、恐怖心を抱くのだろうか。黙って出て行ったところ、私を邪魔扱いしていたのは目に見えているが、そうなれば抱くものは、恐怖ではなく自虐意識だろう。これだけは、永遠に解けぬ謎なのか。
 私は、重苦しい溜め息を吐き出した。同時に、あの日の夜——動揺を隠せていなかった二人の姿も、吐き出した。

「まだだ! まだやるんだっ!」

 木暮くんの怒鳴るような大声が、私の鼓膜を振動させる。ひょっこり覗いてみると、木暮くんの視線の先には、木陰で休む古株さんの姿と、ボトルを手渡す春奈さんの姿があった。大方、春奈さんが木暮くんを挑発して、こんな練習になったのだろう。
 時折、木暮くんは古株さんに対して、罵倒するような言葉を吐きかける。その度に、春奈さんは木暮くんを叱った。けれど、ただ単に叱っているようには見えない。春奈さんは、彼の為を思って木暮くんを叱っているのだ。二人は、本当に仲が良い。例えるならば、そうだな、うーんと……

「仲良しなんだけど、喧嘩が絶えない兄弟って感じかな?」

 春奈さん、気が強いもの。
 木暮くんがバツの悪い表情で、春奈さんに怒られている様子を思い浮かべてみる。あまりにもピッタリで、自分でもくすりと笑ってしまった。仲の良い、喧嘩の絶えない兄弟かぁ……。あらら、私の幼馴染とそっくり。

「それにしても……」

 雷門イレブンが練習を行っている方面からは、時折、威勢の良い声が響いていた。あの中に、彼はいる。私も混ざらなければいけないのだけど。今は、お手洗いに行ってきた帰りだし。
 吹雪士郎。そして、彼の"中"に存在するアツヤ。二人は、共存している。それで害が無いのなら、世界を救うサッカーに支障を出さないのならば、士郎がそう望むなら、私はそれで良いと思う。だけど一つ、疑問があるのだ。これは恐らく、本人に聞いてみてもわからないだろう。それに、アツヤに尋ねるということは、彼を拒絶することになる。それだけはどうしても、避けたいから。だから、自分で結論を出すしかない。

「アツヤって、何者なのかなぁ」

 実際に声に出してみると、酷い愚問だ。自分に尋ねてみたものの返ってきたのは、羞恥を孕んだ私の本音なのだった。