二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.67 )
日時: 2011/02/06 15:30
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eMRX3Yay)
参照: 二月四日は立春(リッシュン)の日!!皆さん、春ですよ〜





  第三十三話【そして戦いは幕を開ける】

 瞳子監督の周りに集合した雷門イレブン。緊迫した空気が、余計に頬に突き刺さる。寒さと緊張が私に襲い掛かった。

『凍てつく北の大地を溶かすほどの熱気……緊急テレビ放送まで行われる世紀の一戦が、始まろうとしています!!』

 白恋イレブンの表情も険しさが増してきた。私だって怖い。でも、絶対に戦い抜くと誓ったんだ。皆の笑顔の為に。
 瞳子監督から告げられた作戦。それは、雷門の皆さんにとっても私にとっても、驚きの作戦だった。内容は——士郎をDFに下げ、シュートを封印すること。あのシュートならエイリア学園にも通用すると思ったのに、何故なのかしら?

「それから桃花さん……前半は、ベンチで控えていて」

 私は、どうやらベンチ組。足を引っ張らなくて良さそう、という安心感と、私の力では仲間を救えないというもどかしさ。どちらもお互いを強く主張し、譲り合う気配はない。おかげで、私は曖昧な気持ちのまま、試合を迎えることになってしまった。

『さぁ、試合開始ですっ!!』

 鬼道さんからのキックオフ。染岡さんにパスが通り、攻めあがっていった。どうだ、と言わんばかりの表情。染岡さん、どうやら自信がついたみたい。レーゼを抜き去ると、ゴール前へ駆け出した。うん、エイリアを抜けた、なんて喜べたのもつかの間。レーゼは、ふっと不敵の笑みを浮かべると、

「……その程度か」

 勝利を確信したかのように怪しげな瞳を煌かせた。雷門が相手陣内へ攻め込んだとき、もう少しのところでボールを奪われてしまった。やはり、まだ追いつけないみたい。

「皆、戻れっ!!」

 あ……前言撤回。初めて会った時より、スピードはあがってる。そして、エイリアたちに追いつけている!春奈さんに試合を録画した映像を見せて貰ったけれど、その時よりも相手をマークするスピードは速かった。ものにしたスピードを使い切れていないので不慣れな部分は目立つが、彼等は自覚している以上にパワーアップしている。
 まさに一進一退。雷門イレブンは、エイリア学園と互角の勝負を繰り広げているように見えた。

「頑張れ〜!!吹雪くん、みんな〜!!」

 白恋中生の声も一段と大きく張り上げられた。学校の運命だけではない。地球の未来もかかったこの戦い。応援にも知らず知らず、力が入る。ベンチの後ろからたくさんの生徒の声が聞こえた。報道陣たちも心配そうにしている。たくさんのカメラが、広いコートを駆け回る一つのボールを追っていた。

「"アイスグランド"!!」

 雷門のゴール前まで迫ってきたボールを士郎がカットする。流石、士郎だ……なんて。私は、士郎がエイリアなんかに負けないってこと、一番知っているんだから。やはり、DFとして活躍している士郎を眺めていると落ち着ける。シュートを決める士郎が嫌いなわけではない。私の中で、シュートを打つときの士郎を自然と"アツヤ"へ変換させてしまうから。だから、どう接すれば良いのかわからなくなり、不安から取り乱してしまいそうになる。そんなの、情けないし申し訳ない。小さいころから見てきた士郎のまま、士郎には大人になってほしいから。
 ぼんやりと過去に浸っている間にも、レーゼがボールを持ってゴール前に駆け上がってきた。士郎の今の位置では、レーゼを食い止めることは不可能に近い。円堂さんが止めてくれないと……塔子さん、壁山くん。お願い、間に合って!

「……"アストロブレイク"!!」
「止めてみせるっ!! "爆裂パンチ"ッ!!」

 レーゼが放ったシュートは、二人のDFをもろともせず、円堂さんのゴールを割った。そして、皮肉な事に前半終了の笛が鳴る。士郎のスピードでも、あの位置からシュートを打たれたんじゃ間に合わないもん。気付くとレーゼは、"実力"という名の貫禄を身に纏い、円堂さんに語りかけていた。いや、円堂さんだけではない。私たち、雷門イレブンへむけて。

————人間ごときが、我々に勝てるはずが無い、と。

 確かに強い相手だけれど、サッカーを破壊の道具として扱うのならば、私たちは全力でジェミニストームを倒さなければならないんだ。ぞっとするほどの正義感に襲われたあと、弱い私の手のひらに残ったものは、小さな誓いと儚い勇気だけだった。