二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 粉雪に融ける、 【吹雪/キャラバン搭乗?】 ( No.214 )
- 日時: 2011/06/05 22:10
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: t8UeV32b)
- 参照: つっかれたー。
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ふわり、と。
無意識に声を上げるより先に、くすんだ灰色の雲から舞い散る綿雪が手のひらに載る。でも、それは結局、一瞬にも満たないほどの短さで。冷たいと感じる前に、呆気なく消えてしまった。小さな水滴が肌の上で転がり、目に見えなくなっていく。脆い、この一言に尽きる。だが同時に、似たような意味を持ちながらも、響きの聴こえ方が全く違う単語が、脳裏を過ぎった。脳内で転がすよりも早く、唇がその言葉を弾き出す。
「儚い、」
「え?」
あまりにも唐突な葵の言葉に吹雪は、薄く笑いながら短い疑問詞を返す。葵の表情は、緩く揺れる黒髪の陰に隠れたせいで伺えないが、彼女のその蒼い瞳がぼんやりとしていることを想像するのはそう難しくなかった。ただ、続く言葉を当てられる自信は、吹雪には無い。何せ彼女は、本当に不思議な生き物で——いつもは明るい、ごく普通のマネージャーに過ぎないのだが、こう感傷的に佇む葵の思考を理解してやれる人物は、そう多くは無かった。
そんな彼女をわかってやれと言うほうに無理がある。これが吹雪の言い分である。
「雪は、脆いし儚い。綺麗だなって思う頃には、この世に存在してないんだから」
もったいない、と彼女は言う。その言葉を聞いた吹雪は、そうだねと暖かく笑って見せた。自分も幼い頃、そんなことを考えたなぁ。おぼろげな吹雪の瞳は、そう語っていて。目で会話をするなんて、そんな器用なことはできないと葵は思う。自分の周りを数えても、そんな恐ろしい輩は豪炎寺や鬼道くらいしか……と思いかけてやめる。二人も居るじゃん、なんて。マフラーに口元を埋めてくすくすと笑うと、隣の肩も揺れた。
「葵さんは、面白いね」
「そう、かな? 面白いなんて初めて言われた。……変とは、よく言われたけど」
先ほどとは打って変わって、拗ねているような表情を見せる葵。吹雪はそんな葵を見て、また笑う。本当に楽しくて笑っているのかな、そんな疑問が葵の心を占めたが、自分はそこまで空気を読めない輩ではない。ただ黙って笑って見せた。面白くも何とも無いのに。
「そうやって笑うけどさ、吹雪も相当、面白いと思うよ」
どんなところが? と吹雪が尋ねれば、そうだね、例えば、と彼女は考え込む。言葉を具体的に表す事が苦手なのかもしれない。心中で呟くと吹雪は、葵の言葉を待った。風が前から吹きつけ、思わず瞳を伏せる。つんつんと痛むような寒さには、十四年経った今でも慣れることができない。そういえば葵さん、寒がりって言ってた気がするな。マフラーを差し出そうか、と紳士的なことも考えたがこのマフラーだけは手放す事ができないので、ごめんと小さく呟いた。他のマフラーなら、貸してあげられるんだけど。
あ、と彼女は呟き、立ち止まる。突然の事ゆえ、慌てて立ち止まった吹雪だったが少し遅かった。振向くような形で葵と視線をぶつける。どこまでも深い蒼い瞳を、ただ純粋に美しいと思った。
「たとえば、さ」
その仮面の下にいる、吹雪じゃない"誰かさん"とか。
時間が、廻ることを忘れた。
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やんわりエンド。二期の白恋辺りが舞台です。
吹雪って言うともう一人の夢主or珠香ちゃんしか思い浮かばない私にしては頑張りました。だがしかし、恋愛要素が無い。自分の事を初めて見抜かれてショック受けた吹雪くん、ただそれだけ。
ちなみにこのシリーズは、改行無しで頑張ってみます。他のは普通に、今までどおりですけどw