二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマイレブン〜大江戸イレブン!弐 ( No.10 )
- 日時: 2011/03/12 12:34
- 名前: ゆうちゃん (ID: 66DLVFTN)
- 参照: http://monocro39.blog109.fc2.com/
第十八話『幻中』
「閣下……只今戻りました」
リュウジはさっと、頭を下げた。慣れた動作。この部屋に入ると、自然に体が動くのだ。
大きな黒い椅子に座っていた人物——リュウジたちに閣下と呼ばれている男は、リュウジに対してちらりと顔を上げ、「ご苦労」と短く、低い声音で答えただけだった。
「はっ」
リュウジが返事をすると男は満足げに頷いた。
「その顔を見る限り、上手くやったようだな。……シャドウはどうした」
男はシャドウがリュウジの傍らにいないのを見ると、目を細めた。
「彼でしたら———……」
シャドウはまだ、大江戸の一角にいた。
もちろんばれないように変装してある。だが、口元は布で覆ったままだ。
まだ、どことなく焦げ臭い周囲の臭いを布越しに嗅いで、顔をしかめた。
(———来ているな)
ちらりと後ろに目をやった。
そして、何も無かったように足早に歩き出した。足は崩れかかった家屋の間の路地へとむかっていた。
そして、ふと立ち止まり。行き止まりになった壁へ向いたまま、言った。
「気づいているぞ———、茂人」
どこからとも無く、茂人が現れた。茂人は無言のまま、シャドウに歩み寄ると、刀を振りかざした。シャドウはすんでのところでかわすと、背後に回りこみ、くないを茂人へ突きつけた。
「……危ないじゃないか」
茂人は特に抵抗もせずに、黙って手を上げた。降参の合図だ。
シャドウが黙って茂人を解放すると、茂人はくるりとシャドウに向き直った。
「『敵を欺くには味方から』……そう言ったのは影人さんでしょう?」
そう言って、口布を取ると微笑んだ。
「ちょっと意味は違うけどな」
そして、シャドウに先ほど突きつけた刀を渡した。見れば刀身は朱に染まっていた。
「……斬ったのか」
「えぇ。貴方の命令でしょう」
茂人はにっこりと笑った。シャドウは刀を受け取ると、刀身の血をゆっくりと指でなぞった。まだ時間がたっていないのか、ぬるりとした感触が伝わってきた。
「……確かに」
シャドウは血のついた刀をそのまま自分の持っていた空の鞘に収めた。
「このままどうするんです?」
「お前は自分の斬った主の元へでもいけばいい」
「貴方の話です」
シャドウは歩み始めた足をつと止めて、空を仰ぐといった。
「そうだな……、俺も主のところへ戻るか」
茂人は小さく頷いて、口布を当てた。
「……しばらく会わないでしょうね、お互い」
茂人はまた、一人風の中に消えた。
シャドウは振り向くことなく、空を見つめたまま誰もいなくなった路地で、そうだなと、つぶやいた。
空———あの日、都を出た日も晴れ渡っていた。もう、縛られることは無い。……これで、よかったんだ。
足音が近づいていた。
「分かったことを聞くまでも無いでしょう?閣下」
リュウジは言った。男は冷酷に言い放った。
「追っ手は差し向けてあるんだろうな」
リュウジは笑顔で「無論でございます」と答えた。男の笑い声が、広間に響き渡った。
足音が遠ざかっていく。
シャドウは、その場から動こうとしなかった。……いや、動けなかった。
これでいい、これでいいんだ———……
「——————はは」
かわいた笑いがこぼれた。
まぶたが重くなってくる。
ちらりと、彼の面影が見えた気がした。————あぁ、報告をしなくては。ぼんやりとした頭でそう思う。
「——————闇野影人……、任務遂行致しました……」
ゆっくりと、目を閉じたまぶたの裏で、彼が心なしか微笑んでくれたようだった。
闇で生まれ、闇に消える。
ちくりと胸が痛んだ。敵のまま終わるのか……交わした約束を、果たせないまま。
「佐久間?」
源田が言った。佐久間はちいさくかぶりを振って、床の木目をなぞった。首元に下げていた数珠の一つが、糸が解けたわけでもないのに転がり落ちた。数珠は佐久間の指先に触れると、溶けるように消えていった。
『”遂行致しました”』
耳元で声がした気がした。