二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 氷と杏(BLEACH小説) ( No.20 )
日時: 2011/04/13 20:01
名前: まろんけーき (ID: Q9sui1jr)

 第一章

 第三節

『氷と風』(2)



 桃が持ってきたお粥を食べ終えた冬獅朗は、布団に横になって寝ていた。

 「おーい、寝てるかー?」

 いつもと変わらぬおちゃらけた表情で、冬獅朗の目の前で手を振る。
 反応がないため、本当に眠っているようだ。
 
 杏は、一回深く深呼吸する。
 そしてその手を冬獅朗の腹の上辺りに翳し、目を閉じた。

 「…寒楼の手に渡りし氷の膂力。魁骸の旺牙、蔭雅の瑯獅。全てを瓢婁とする牙に安らぎを与え、蟠りを留めよ。」

 静かに言霊を詠唱する。
 身を劈く様な寒さが、心なしか徐々に和らいでいくような気がした。

 「静まれ…氷輪丸。」

 杏が目を開く。
 ふっ、と唐突に外の雪が止んだ。

 冬獅郎はまだ、目を覚まさない。
 それを見て、杏は冬獅郎の胸に手を当てた。

 「…コイツにはまだ、アンタの声は聞こえない…。お願いだから、大人しくしててね…?」

 そういって、杏は冬獅郎の頭を撫でた。
 どこか寂しそうな、悲しそうな顔をしていた。

 
 暫くそのまま沈黙状態が続いていたが、ふと何かに気づいたように撫でていた手を再び翳した。

 「コレ…風邪にも効くのかな…?」

 語尾疑問形で杏が言う。
 手に、ポウっと橙の淡い光が灯った。
 その光は、静かに冬獅郎を包み込んだ。

 荒く上がった息が少しずつ、ゆっくりと穏やかなものに変わっていった。
 
 ほっと安堵の息を漏らし、暫くそのままの体制を保つ。

 数分したところで、杏は橙の光を消し、立った。

 その場を立ち去ろうとして、もう一度冬獅郎の方を振り向く。



 
 「いつか必ず、迎えに行くから。」 

 

 そう言い、杏は部屋を出た。

 最後の言葉は、誰に向けられたものかは解らない。


 しかし、先程。

 ……氷輪丸。

 確かに、杏はそう言ったのであった。