二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 粉雪幻冬 ( No.38 )
- 日時: 2011/08/02 10:30
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: WtPXn5LU)
彼が私のことを本当に好いてくれているかなど、定かでは無かった。
だけど、それでも良かった。私に必要だったのは“運命の人”なんていう大げさな存在よりも、私の隣を定位置としてくれる人だったから。
ほわほわとした純白のそれが雪だと気づくまで、少し時間が掛かりすぎてしまった。さむ、と消え入りそうな声で呟き手袋を忘れた素の両手を、ぎゅっぎゅと握る。既に指先の感覚は忘れかけていたが、約束の時間まであと五分も残っていない。ここで引き返すくらいなら、彼を待ち続けるほうがよっぽど良かった。
たとえ、ドタキャンされる可能性が来てくれる可能性を上回っていたとしても。
かちり、と。
粉雪が薄ら積もった街時計が針を一つ、『12』へと近づける。
“彼”はもともと不器用な人だった。多くの仲間から慕われ、皆の道標となり、常に未来を翔る少年だったけれど、過去を振り返ることを知らなかった。いつも明日のことしか考えていなかった。昨日、零れた誰かの涙なんて頭の隅にも置いていなかった。
彼も、酷く不器用で寂しい人だった。人と慣れあうことを嫌い、協力することの強さを否定し、ずっと過去に縛られて生きてきた。でも、未来を自分で描けるようになることを望んでいた。昨日の自分を捨てようと、足掻きつづけていた、そんな人だった。
私がどちらに惹かれ、恋焦がれていたかなんて、きっと彼らは知らないし知る気も無い。でも、あの日の私は——過去を知らなかった私は——未来を見ることで自分を創り上げていた“彼”を心の支えとしていた。それをきっと恋と呼ぶのだろうけど、そう呼ぶには、味気ないものだった。
だって私、“彼”の名前を呼んでも何も感じなかったもの。
だけど、彼は違う。
「久遠」
低めの凛々しい、彼の声。嗚呼、ずっと、貴方を待ってたの。
守られることしか知らない私は——久遠冬花は、酷く不器用で寂しい人だった。守くん以外の人と慣れ合う意味を拒み、他人との協力の大切さを見ず、過去だけに縋って生きてきた私。いつかは自分の未来を自分で描きたかった。でも、それが今だとは思ってなかった。思いたく、なかったの。
“運命の人”は、私や彼と正反対の人だった。だから私が貴方に惹かれるのは——縋ってしまうのは、ある意味当然とも言えることだった。
でも彼は、私を守ってくれる人では無かった。弱いままでは隣にいられない人だった。だけど私は、守られることを幸せと呼ばず、傷ついてもいいから、捨てられることを覚悟しながら彼の隣という空間で生きることを幸せと呼ぶようになった。きっかけなんてない。もともと私と彼は似た者同士で、偶然出会って、私だけが変わった、ただそれだけのことだから。
「不動くん、」
「わりぃ、遅くなった」
ぴったり『12』を指した長針は、ほのり、白く染まっていた。途端崩れる、緊張感。寒さから強張った口元を懸命に動かし、小さな笑みを浮かべる。行こう、そう差しのべられた手は、冷え切った手を包み込んでくれた。その暖かさを感じ、ふと思う。
やっぱり私、彼を選んで良かった。
まだ“彼”のことは忘れられないけど、今はこれでも良い。ううん、これが良い。その人に守って貰えて初めて「好き」って感じるのは、恋じゃないのよね。“彼”も多分、そのつもりだったろうけど——大丈夫だよ、守くん。私、貴方に縋らなくても生きていけそうなの。傷つくのも自分、捨てられるのも自分、泣くのも自分なんだけど、
笑えるのも、自分だから。
(さよなら、運命の人よ)
+
立派な不冬になちゃったよw
円堂くんに守られるのが普通だと思ってた冬花ちゃん。きっと私、守くんといないと死んじゃうみたいな。でも不動さんはずっと独りで、どうして生きていけるのかなーって思ってて……自分より強い人だと思ったら、自分と同じ弱い人だった。どうして貴方は生きられるの?ってうちに不動さんの隣にいたくなるみたいな……w
難しいですね、解説。不忍も可愛いけどこっちのが書きやすい気がしてきたw
ぴーえす、時期はイナゴくらいです。つまり二十四歳w