二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 負けないくらい想ってたのに ( No.129 )
日時: 2011/08/31 16:49
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: g.taR5LA)
参照: 合作楽しそうですね^^



 もう、とっくに気付いていた。
 円堂くんは誰も愛さないことを。私は勿論、夏未さんも冬花さんも春奈ちゃんも、代償を払ってまで愛そうとはしないことを。

 それが一番平和なのだと知っていたけど、頬を伝うこの雫は、きっと、嘘じゃない。



「俺、秋が好きだよ」
 そっと目を伏せ、静かに呟かれた言葉は、初めて聞いたものでは無かった。でも、まだ恥ずかしい。そっか、と囁くように発すると俯いた。一之瀬くんが小さく笑う。その笑みは照れとか、そんなものじゃなくて、自嘲しているような響きで。疑問から、顔を反射的にあげた。そこから先の展開なんて、考えもせずに。
「だから、付き合って欲しい」
「……え?」
 告白されたことは何度かあった。さっきのように静かに告げられることもあれば、強く抱きしめられ涙声で言われたことも。でもそれは、私がまだあの人を好きだと知っていながらの言葉だった。だから私は、きちんと返事をしなかった。曖昧に濁しては、はっきりと断りも告げず、ただ笑って見せた。一之瀬くんは私にそれ以上を求めなかったから、私からも何もしなかったし、彼に何かを求めるような真似をしなかった。それが、私たちの暗黙のルールみたいなもので。そうだったはずなのに、
 嗚呼、今私は、彼に必要とされているんだ。
「……でも一之瀬くん、私、貴方を一番にできないよ?」
「わかってる。まだ円堂のこと、好きなんだろう。——だけど俺は、」

 それでも良いよ。
 でもさ、秋はそれじゃダメだろう?

「俺、最低な男だよ? 円堂から秋を奪おうとか、そんなこともしないで、好きなんて言ってて。秋から愛されなくても良くて、俺が秋を愛せればそれで良くって。最初から負けって知ってるから、戦おうともしなくて」
 それはそれは不服そうに唇を尖らせ、彼は駄々っ子のように語る。
「でも今、秋に告白してる。俺の隣にいてほしくて、情けない顔して、……秋を悩ませてる」
 ゆるゆると首を横に振り、力無く俯いた。それでも彼は、まだ続ける。もう、良いんだよ。一之瀬くんの気持ちは届いてるから。無理しなくても良いんだよ。だって、

 答えはきっと、一之瀬くんが思い描いているものと同じだから。

「一之瀬くん、私ね、」
「秋は優しいから、きっと笑ってくれるだろうね。でも本当は、怒りながら俺を突き飛ばすべきなんだよ」
 そう、だよね。本当なら私は、最低な貴方を思いきり罵って、それで本気で貴方を傷つけなくちゃならない。変なこと言わないでと、目を覚ましてと怒らなくちゃ、なのに。——その裏にある彼の心を知ってしまったから、私は——嗚呼、最低だ。
「ねえ……もう、」
「秋、これだけは覚えてて」
 彼は不意に私を抱きしめ、ぎゅうっと力を込めて、哀しそうな瞳は、

「俺、負けないくらい想ってたんだ」

 嗚呼、それなら——私はどうなっちゃうの。
 ねえ一之瀬くん、貴方ならわかるんでしょう? ずっと想い続けることの痛みを、甘さを、苦しみを、諦めを。

「……あ、りがとう」

 でも、もう良いよ。
 一之瀬くんは私を好きで、私も彼が好き。だから——

『秋が作ったおにぎり、今日もうまいぜ!』



 負けないくらい想ってた彼のことはもう、忘れようか。




円秋前提一秋。意味不明なのは知っている。だって自己満足だもの(どやっ
キャプテンの恋人がまだサッカーであった頃、だといないなー。

タイトルは『確かに恋だった』様よりお借りしました。