二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 降り止まぬ恋時雨 ( No.144 )
- 日時: 2011/09/21 09:47
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: sOJ/z1xg)
- 参照: テスト、だと?←
本当はこんなつもり、無かったのだ。ただ、何となく部屋にこもり、何となく携帯をさわっていた。ストラップ一つついていない、真っ白な携帯。傷もあまりついていない、と言うと聞こえが良いが、実際は使い方がわからずあまり触れていないだけなのだ。本当に何気なく、いじっていただけ。それだけなのに、
無意識にプッシュしてしまった番号は、なぞるように覚えた彼のもので、
「……何してるんだろ、私」
我ながら恥ずかしい。今まで必死に我慢してきたのに、ぽろっとその決意が崩れてしまったなんて。日本でリハビリを続ける士郎。辛いのは彼のほう。私が電話なんかして睡眠時間を削ってしまったら——嗚呼、そんなの嫌だよ。なのに、体は動いてくれない。諦めがつかないみたいで、本当に嫌になってしまう。そうだ、あと三回、三回だけコールを待って繋がらなかったら、切ろう。そう考え、コールを数え始めた。が、いーちと数え終わるより先に、電話の向こうから暖かな声が届く。機械越しだとわかっているのにそれは——とても、優しくて。
『もしもし、桃ちゃん?』
「え、あっ……士郎だよね……」
久しぶりだね、どうしたの?
優しく尋ねられ、返す言葉を見失う。もう、何て言ったら良いのかわからないよ。だけど、ずっと黙っているわけにもいかない。困惑する脳を必死に回転させ、少ないボキャブラリーの中から勝手のいい言葉を探した。だけど、見つかるはずがない。
「……ごめん、迷惑だよね」
素直に伝えるべきか迷ったものの、恥ずかしすぎて耐えられない。正直に謝れば、どうしたのと心底心配そうな声で聞き返された。私は本当に、士郎に迷惑を掛けてばかりだ。情けないよ。
「その、特に用件は無いんだけど、掛けちゃって、」
焦る心内状況。そのせいか、言葉はどんどん駆け足になっていく。終いには自分が何を話しているかもわからなくなってきて。私はマネージャーなのに。選手に復活してくれるだろう彼を支えてあげられないくせに、困らせてばかりで。
『ううん、大丈夫だよ。僕だって桃ちゃんと話したかったから』
そうやって彼は——また上手に、私を甘やかすの。
じわり、と目頭が熱を持つ。声が掠れていきそうで、呼吸も苦しい。だめ、私、我慢してよ! そう叫ぶも、感情に押し流されぬよう踏ん張れる程、私は強い人間じゃない。
とてつもなく、苦しい。
「ごめっ……ごめんね、しろう、」
『え? 桃ちゃん、どうしたの? ねえ、もしかして泣いて——』
通話を遮断してしまったのは、反射的な行動だった。耳に響く、つーつーという電子的な機械音に耳鳴りがする。ぐ、と呼吸を止めれば、ぼろりと大粒の涙が頬を滑り落ちた。寂しくなるってわかってたのに、なぜ声なんて聞いちゃったんだろう? 苦しいのは、私なのに。でも、優しい士郎のことだから、あんなところで切っちゃって、怪しく思ってるんだろうな。ごめんね、と今更謝ってみる。でも、それだけじゃ涙は止まらなくて。
罪悪感と孤独感と閉塞感と、よくわからない負の感情がぐるぐると私の中を巡っている。何だか寒くなってきた。目頭はこんなに熱を持っているのに。視界はぐらぐらに歪み、眩暈にも襲われる。
そしてまだ、彼の名前を呟く私。
「……し、ろう」
何て弱い生き物なんだろう。
頭の中で誰かが言い放つ。ごしごしと目を擦っても、何も変わらなかった。何度も浮かぶ彼の笑顔が、眩しくて、とても苦しい。
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第三期で吹雪離脱時の捏造。二人が遠距離っぽくなってたらこう書くだろうなという好奇心からv
桃花泣かせるの楽しいな、とか今更考えちゃう私まじ鬼畜w