二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:388章 イリスvsシキミ ( No.506 )
日時: 2012/06/09 19:51
名前: 白黒 (ID: QpE/G9Cv)

そこは書庫だった。塔のような縦長の建物、その側面にびっしりと並んでいる無数の本棚が、その証左だ。
 寂れた廃屋のようなその場所にいる人間は、二人。
 言わずもがな、一人はイリス。そしてもう一人は、
「『その少年は巨大な悪を打破するべく、己の魂を熱く滾らせるのであった』」
「……それ、僕のことですか? シキミさん」
「あ、分かります?」
 イッシュ地方の四天王が一人、シキミだ。
 イリスとシキミが向かい合っているこの状況、そして古びた書庫再現した四天王独自の戦闘フィールド塔——通称『化け本屋敷』——というこの場所。以上の事から分かるものは一つ。

 そう、イリスは再び、四天王と合いまみえることとなったのだ。



「では、早速始めましょうか。小説でもポケモンでも、スピードが大事ですからね」
 シキミはそう言ってから、ボールを構える。
 ちなみに、今回のバトルは5対5。前回は簡略式で4対4だったが、今回はちゃんとしたバトルだ。
「『それは空虚な抜け殻であり、絶対という守護の力を象徴する蟲である』……ヌケニン!」
 シキミの一番手は、抜け殻ポケモンのヌケニン。セミの抜け殻のような姿をしたポケモンだ。
「ゴーストと虫タイプか……だったらこいつだ。ディザソル!」
 イリスの繰り出すポケモンはディザソル。素早い上に弱点を突ける技を二つ持っている。特性、不思議な守りで弱点しか受け付けないヌケニンには適任だろう。
「ふふ。ですが、アタシのヌケニンだって、そう簡単にはやられませんよ。ヌケニン——」

「辻斬り」

 シュパッ
 ——と、風を、そして無を切り裂くような音がした。
 シキミは目の前の状況を、視界にとらえる。だが、それだけだ。目視しても、視認はしない。否、できない。
 いくらなんでも——

 ——いくらなんでも、四天王のポケモンが、登場から僅か十秒足らずで地に伏すなど、到底納得できるものではないだろう。

「え? え? な、何が起こったんですか……?」
 その証拠に、シキミは今もなお、現状を理解できていない。
 そんなシキミに、イリスが声をかける。
「簡単な事ですよ。ディザソルの辻斬りが、ヌケニンを切り裂いただけです。ヌケニンはジバクンと違って、耐久力はほぼ皆無。紙どころか水につけたティッシュペーパー並みに打たれ弱いです。だったら、一撃で倒せるでしょう?」
「いや、でも……」
 理屈では確かにそうだが、しかし今のはいくらなんでも無茶苦茶だ。ディザソルが素早いであろうことはシキミも見抜いていたが、それは想像を絶していた。
 シキミはなんとかその真実を飲み込んで、ヌケニンをボールに戻し、次のボールを握る。
「……仕方ありません。まさかこんなにも早く先鋒がやられるとは思いませんでしたが、それでもまだバトルは続いています。アタシの次のポケモンは、この子です。『闇に溶け込み表へ出ない、暗き日陰の精霊』……ロップル!」
 シキミの二番手は、日陰ポケモンのロップル。長い耳と、帽子のような頭部が特徴のポケモンだ。
「次は同じ轍は踏みません。ロップル、気合球!」
 ロップルは正面に気合を込めたエネルギーの球体を生成し、一回転しつつそれを発射する。
「ディザソル、神速で回避。そして辻斬りだ」
 ディザソルは一直線に襲ってくる気合球を神がかった速度で回避し、ロップルをすれ違いざまに切り裂く。効果抜群で威力は四倍に膨れ上がっている。相当なダメージだろう。
「攻撃力も高い……ならばロップル、自己再生です!」
 ロップルは体内のエネルギーを治癒力に回し、体の傷を高速で再生させてゆく。
「あれは厄介かな……ディザソル、怒りの炎!」
 ディザソルは雄叫びのように咆哮し、全身より怒り狂ったような激しい炎を放つ。炎はうねるようにロップルへと襲い掛かる。
「ロップル、サイコバーンです!」
 しかしロップルは念動力を衝撃波として放つことで、その業火を相殺。そして正面にエネルギーの球を生成し、
「気合球です!」
 発射する。
「かわしてツヴァイテール!」
 気合球をジャンプでかわしたディザソルは、そのまま一回転しつつ硬化させた二枚の尻尾をロップルの脳天に叩きつける。
 が、しかし、
「ロップル、スターダスト!」
 ロップルは何事もなかったかのように次なる技を繰り出す。それは、上空より無数に降り注ぐ隕石——いや、鉄塊だった。
 ディザソルは斬ったり避けたりしてその無数の鉄塊から身を守っていたが、それも限界に達し、直撃を三発ほど喰らう。
「ディザソル!」
 ディザソルは大きく吹っ飛ばされたが、幸い戦闘不能ではない。だがそれでも、大きなダメージを負ったことには変わらないのだが。
「くっ、そういえばロップルの頭部の帽子は頑丈で、盾みたいに使えるんだったか……!」
 いつかシルラが教えてくれた。しかし、思い出すのが少しばかり遅い。
「さあロップル、畳み掛けますよ。スターダスト!」
 ロップルは先ほどと同じように、上空より無数の鉄塊を降り注ぐ。無差別ではなくその狙いは、明らかにディザソルに集中していた。
「くぅ、ディザソル、神速でかわせ!」
 何はともあれ、あの鉄塊はかなりの威力だ。下手に喰らうと不味い。ディザソルは神がかりのスピードで狭いフィールドを縦横無尽——いや、立体的に駆け巡っているその様は。天衣無縫と称した方が良いのかもしれない——に駆け回る。
 しかしそれでも、掠めるように数発喰らい、砕いた鉄塊の破片を全身から浴びて、少々の傷は負ってしまう。が、この程度なら大事には至らない。
「あのロップル、調子出てきたな……自己再生もあるし、あまり長い時間をかけてはいられない。短期決戦で行くか。ディザソル、怒りの炎!」
 ディザソルは雄叫びを上げ、怒り狂うようにうねる憤怒の業火を発生させる。そしてその業火を、包囲するようにロップルへと放った。
「相殺です。ロップル、サイコバーン!」
 ロップルは正面ではなく周囲に対して衝撃波を放ち、全ての炎を相殺する。
 だがその隙にディザソルはロップルの正面まで接近し——神速の応用だ——態勢をやや低くする。
「ツヴァイテール!」
 そしてそのまま体を大きく捻り、二枚の尻尾でロップルを弾き飛ばした。さらに、
「とどめだ、辻斬り!」
 助走なしで一息で飛び上がったディザソルは、すれ違いざまにロップルの体を幾度と切り刻む。
 ただでさえ一撃一撃が強いディザソルの攻撃を、相性で威力を四倍に膨らませた挙句、連続で放った。これはもう、ロップルが耐えていることは絶望的であり、実際、ロップルはそのまま戦闘不能となった。



はい、久過ぎる更新をしております、白黒です。とりあえず今回は、四天王戦からです。シキミの一番手はヌケニンですが、あえなく瞬殺です。たぶん、実際にはああなります。そして二番手はロップル。奮戦しましたが、結果はディザソルの勝利です。さて次回はシキミ戦の続きです。お楽しみに。