二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 430章 毒暴走 ( No.590 )
日時: 2012/12/31 00:41
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「ザングース、まずは剣の舞だ!」
 最初に動いたのはザングースだった。ザングースは剣のように鋭く力強く舞い、攻撃力を増強する。
「続けて毒々だ!」
 さらに猛毒を生成し、掌に集める。それをエルレイドへと投げつけるのかと思いきや、

 ザングースはその毒を、自分の身体にこすり付けた。

「!」
 イリスは目を見開く。当然だ、毒々で相手を毒状態にするのは戦術としてよくあることだ。しかし、自ら進んで毒状態になるというのは、常識を逸している。
 そこで下っ端は自慢げに言った。
「ふん、俺のザングースの特性は、毒暴走。毒状態の時に攻撃力が上がるんだよ。見てみろ」
 下っ端に示されてザングースを見ると、ザングースは毒に侵され苦しそうにしているが、その顔は憤怒の形相で、攻撃的な視線をエルレイドにぶつけていた。
「それじゃあいくぜ。ザングース、シャドークロー!」
 ザングースは爪に影を纏わせて突っ込んで来る。スピードは意外と速い。
「アイスブレードで迎え撃て!」
 エルレイドも刃を凍結させて斬りかかるが、ザングースは俊敏な動きでエルレイドの後ろに回り、影の爪で切り裂いた。
 効果抜群に加え、剣の舞と毒暴走で強化されたザングースの攻撃力は相当なものだろう。エルレイドは思わず片膝を着いてしまう。
「休ませねえぜ! シャドークロー!」
「くっ、影討ち!」
 続けて繰り出される攻撃を、エルレイドは影に潜って回避。そのままザングースの背後に回って刃を振るうが、効果はない。とりあえずシャドークローをかわすための影討ちだ。
「アイスブレード!」
「シャドークロー!」
 エルレイドはそのまま凍てつく刃を繰り出すが、同時にザングースも影の爪を突き出し、互いに鍔迫り合いのような姿勢となる。
 だが、ザングースの方がエルレイドより僅かに強く、エルレイドを跳ね飛ばした。
「追撃だ、空元気!」
 ザングースは態勢を崩したエルレイドに向かって突っ込んで来る。空元気は状態異状の時に威力が二倍になる技。タイプ一致に加えて剣の舞と毒暴走もあるので、その一撃を受けてはひとたまりもないだろう。
「サイコバレット!」
 エルレイドは念動力の銃弾を乱射してザングースを引き剥がす。直撃はしなかったため、ダメージは薄いようだ。
「にしても、なんて攻撃力だ」
 思わずイリスは呟く。下っ端だと思って甘く見ていたが、トレーナーとしてはなかなかの強者だ。プラズマ団の中でも上位の強さというのは伊達ではないようだ。
「もう一度サイコバレット!」
「空元気だ!」
 エルレイドは念動力の銃弾を乱射し、ザングースも鋭い爪で次々と銃弾を弾き飛ばしていく。
「シャドークロー!」
「マグナムパンチ!」
 続いて影の爪と拳がぶつかり合う。先のアイスブレードでは押し負けたが、タイプ補正が入ったマグナムパンチなら力は互角。お互い大きく後ずさった。
「チィ、空元気だ!」
 ザングースは気力を振り絞ってエルレイドへと突貫する。
「近寄らせるな、サイコバレット!」
 エルレイドも念動力の銃弾を連射するが、ザングースは銃弾を弾きながら迫ってくる。
「だったら……サイコバレットだ!」
 エルレイドはまたもサイコバレットを放つが、それはザングースにではない。ほぼ真上、やや前方斜め上に向かって、念動力の銃弾を連射する。
「どこを狙っている! ザングース、空元気!」
 遂にエルレイドはザングースの接近を許してしまい、ザングースの爪が振りかぶられる。
「マグナムパンチ!」
 エルレイドも大砲の如き勢いで拳を突き出すが、今度はザングースが押し勝ち、エルレイドを吹っ飛ばす。
「これで決める! ザングース、シャドークロー!」
 ザングースは影の爪を構えてエルレイドへと走る。
「エルレイド、全力でマグナムパンチだ!」
 対するエルレイドもすぐさま態勢を立て直し、大砲どころかミサイルのような勢いで拳を突き出す。
 ザングースの爪とエルレイドの拳がぶつかり合い、エルレイドが押し勝った。ザングースはあえなく吹っ飛ばされる。
「くっそ、まだだ! ザングース、空元気!」
 毒状態で疲弊しているにもかかわらずザングースはまだ戦闘不能になっておらず、気力を振り絞って特攻をかけるが、
「いや、悪いけどもう終わりだ。上を見てみなよ」
 イリスは人差し指で上を指した。エルレイドは既に、構えを解いている。
「は? 上?」
 下っ端は訝しげに顔を上げると、そこに広がっているのは、弾幕。念動力を固めた銃弾の雨だった。
 これはカトレア戦でも見せた、サイコバレットによる時間差攻撃。スピードと運動エネルギーがプラスされた銃弾は重く、今のザングースでも弾くのはそう容易ではないだろう。
「何ぃ!?」
 下っ端の顔は驚愕と恐怖に染まっている。次の瞬間にはザングースはサイコバレットの雨に貫かれ、戦闘不能だ。
「ザングース!」
 案の定、ザングースは地に伏してしまった。完全に戦闘不能である。
 これで下っ端は撃破したので、あとは、
「出て来いデンチュラ」
 イリスはデンチュラを繰り出した。デンチュラは瞬く間に下っ端に接近し、電気を帯びた糸で下っ端を麻痺、昏睡させ、身動きを取れないようにする。
「ふぅ、これで一段落だな」
 イリスは額を汗を手の甲で拭いつつ、少女に歩み寄る。
「君、大丈夫? 怪我とかない?」
「大丈夫、だけど……」
 少女の目がリオルに向く。リオルはぐったりとしており、かなり弱っているようだ。
「うーん、バトルでダメージを受けているだけだから、ポケモンセンターに行けばすぐ回復するけど……」
 今この街は、プラズマ団によって半ば占拠状態だ。ポケモンセンターも、ほぼ利用不可能だろう。
 なのでイリスは、リュックサックから念のためにと常備していたオレンの実を一つ取り出す。回復量は少ないが、ないよりマシだろう。
「とりあえず、これを。ここは危険だから、もう家に戻った方がいいよ。他にポケモンは?」
 少女は木の実を受け取って、礼を言いつつも首を振る。
「ありがとう。ポケモンは、このリオルだけしかいなくて……」
 少女はか細い声で言う。
 さっきの下っ端は上位に位置する強さらしいが、他の下っ端だってそこそこ戦えるはず。となるとプラズマ団が闊歩している街中に、戦えるポケモンのいない少女を一人で出すのは危険だろう。
「なら……出て来てウォーグル」
 イリスはさらにウォーグルを出す。さらにデンチュラにも目配せし、
「ウォーグルは空から、デンチュラは物陰から、この子をエスコートしてくれ。もしプラズマ団に襲われそうになったら、なんとしてでも守るんだよ」
 エスコートというかボディーガードだが、二匹ともコクリと頷き、ウォーグルは飛び立って空中へと羽ばたいていった。
「それじゃあ、僕はまだやることがあるから、気を付けてね」
 イリスは残るエルレイドをボールに戻し、その場から立ち去ろうとするが、
「あ、ありがとう……待って!」
 少女は思い出したようにイリスを引き留めた。イリスはゆっくりと振り返る。
「ん? なに?」
「あなた、名前は?」
「ああ、名前か。名前はイ——」
 とそこで、イリスは思いとどまる。
「……ま、僕のことは英雄とでも呼んで」
 そしてそれだけ言って、イリスは今度こそその場から立ち去った。



 場所は変わってセイガイハシティ……のすぐ近くの海岸で、二人の人影が並んでいた。
 一人は子供のような幼い顔立ちに、焦げ茶色の長いポニーテール。勝ち気な瞳で小生意気な少女のような姿。
 言わずもがな、イリスの父、イリゼである。
 その隣には、日焼けした褐色の肌。ヒレのついた青と水色のボーダーになっている水着。髪は暗い青で、白い斑点がある。首からは水泳用とともわれるゴーグルを提げており、如何にも海の男といった出で立ちである。
「なあシーちゃん」
「なんじゃいイーちゃん」
「なんかセイガイハの近くでプラズマ団がコソコソ動いてるみてーだけどよ、お前は行かなくていいのか? ジムリーダーだろ?」
「プラズマ団が本当に悪いことばしてんじゃったら、おいもそれば止めったい。けど、まだ被害は出てん。そんなら海で泳いでた方がずっと楽しいったい」
「相変わらずだなーシーちゃんはよ。ま、そこがお前のいいとこだけどよ」
 イリゼはその場にごろんと寝ころび、どこまでも青い空を見上げる。
「なあシーちゃん、ちょっと頼まれごとしてくれや」
「おう。なんじゃ?」
 イリゼのは頼みごとをする態度ではないが、男は内容を聞く前に気前よく引き受けた。
「俺の息子とバトルしてくれ。アデクから聞いたが、どうも俺の理想通りに育ちやがらねーんだよ、あいつ」
 吐き捨てるようにイリゼは言う。
「つーわけで、ちょっくらあいつボコってくれや。シーちゃんのポケモンなら、あいつのエースもたじたじだろ」
 何故か誇らしげなイリゼ。それだけこの男の実力を信用しているということだろうか。
「おう。そいじゃあ引き受けた」
「頼んだぜ」
 それだけ言って、二人はその場から立ち去っていった。



今回はイリスが下っ端撃破、そしてセイガイハのジムリーダーである彼が登場です。にしても、下っ端相手に意外と苦戦しましたね。無駄に長くなってしまいました。では次回はヒオウギシティでの戦いの続きです。楽しみに。