二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 522章 イリスvsザート ( No.773 )
- 日時: 2013/03/20 22:06
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
下っ端の大軍を突き抜け、城へと侵入したイリスは、不運に見舞われた。率直に言って罠にかかったのだ。それも落とし穴。
まさかのトラップに引っかかりイリスが落下したのは、砂漠だった。
「……なんだ、ここ?」
空気は乾いており、砂も舞っている。上を見上げると、青空が広がっていた。室内から落ちてきたのに、完全なる外の空気と情景だが、
「ここは砂漠の気候を再現した訓練場だ。とはいえ、我の部隊くらいしか、使う者はいないがな」
と、どこからともなく説明が入った。
イリスは声のする方向に視線を向け、その者の姿を視認する。
橙色の鮮やかな髪に、砂漠では保護色となるベージュの軍服、その上から灰色のコートを羽織った男。軍服の左胸には、勲章のようにプラズマ団の紋章が刻まれたバッジを付けている。
地縛隊統率、その実力はいまだ未知数の男——7Pのリーダー、ガイア。
「よくぞ来たな、英雄。お前は、我が自らの手で引導を渡したいと思っていた」
「……そのわりには、お前は僕らにちょっかいをかけてこなかったよな」
ガイアが能動的にイリスたちに手を出したのは、プラズマ団が準備期間を終えて始動した時。他はすべて、他の者の個人的な依頼だったり、イリスたちから首を突っ込んだ形でしか関わっていない。
「我が率いる地縛隊は、その名の通り基地に縛り付けられる部隊だ。拠点の防衛が主な役割である以上、貴様たちに直接をくだすことは滅多にない」
どうやらそういうことらしいが、なら最初の一回はなんだと言いたくなる。
だが今はそれよりも重要なことがある。こうして7Pに出くわしたとなれば、そのまま素通りできるはずもない。
「確か、あの科学者が七位。浴衣の子が六位。罠を仕掛けてきたのが五位。暴走しかけた人が四位。執事服のが三位。怪物っぽいのが二位……とすると」
消去法で考えれば、7Pの解放状態序列一位、ガイアということになる。
「7P最強か……相手にとって不足なし、と言いたいけど、出来れば当たりたくない相手だったな」
強い相手と戦わずに済むに越したことはない。最終目標がプラズマ団の解体、その手段がゲーチスを倒すことである以上、それ以外の者と戦う理由はないのだ。
ガイアは、そんなイリスの言葉に反応した。しかし反応するポイントは、イリスが思っていたものとは違っていたが。
「我は7P最強ではない」
「……え?」
思わず呆気に取られるイリス。本当に、まったく意味が分からないといった表情だ。
「我は7Pで最弱だ」
「いや、だからそれは未解放状態なら、ってことだろ? 消去法で考えれば、解放すればお前が7Pのトップなはずだ」
「そうだな。しかしそれは我であっても、ガイアという男ではない」
「……?」
ますますわけが分からない。ガイアが何を言いたいのかが、まったく理解できない。イリスはただただ混乱するだけだ。
「7Pには、それぞれコードネームが存在する。我々が互いに呼び合っている名がそれだ。しかし我は、ガイアという名は、7Pとしての名ではない。ガイアとは、我の故郷で代々受け継がれる、巫女の異名。7Pとしての諱は他にある」
「み、巫女……? お前、何を言って——」
どんどん困惑していくイリスを無視して、ガイアはさらに続ける。
「キュレムの刻印が抑え込むのは、その者を形成する核となるもの。解放時の変化は、解放率の大きさに比例する。我の解放率はアシドでも計測しきれぬほど強大だ。英雄、とくと見よ。我が解放するのはこれが二度目だ、その事実を光栄に思うがいい!」
叫び、ガイアはコートを脱ぎ捨て、軍服の第一ボタンを外す。すると露わになった首には、歪な縦の線が走っていた。
「我に刻まれし刻印は、キュレムの首! その目に焼き付けよ、英雄! これが、キュレムの刻印が持つ真の力だ!」
刹那、ガイアの首が橙色に輝く、鈍い光だが、その光の大きさは、今まで見てきたどの7Pの解放よりも大きい。あまりの光に、イリスは思わず目を瞑ってしまう。
「っ……!」
ゆっくりと瞼を上げ、イリスは目の前にいるはずのガイアを見据える。
そこにいるのは紛れもなくガイアのはずだが、解放前と比べて相違点が多々あった。
まずは髪。解放前は普通長さだったのだが、今は肩ぐらいまでに伸びている。
「これが、我の解放だ。英雄」
次に声。非常にハスキーで勇ましい声だが、明らかに女声だった。
この時点でイリスは頭の中をかき回された気分になる。自分の常識を大きく覆されそうな感覚に陥る。
最後に体。軍服を着こなすだけあって体格はいいのだが、それも昔の話。今も体格が悪いわけではない、むしろイリスよりも大柄なのだが、服の上からでも分かる程度に体は丸みを帯びている。顔も鋭い眼光でこちらを睨み付けており、顔つきだってガイアとほとんど変わらない。が、どことなく女性的な顔つきをしているのも事実だ。
そして、
「我の真の名はザート。7P序列一位、ザートだ!」
ガイア——否、ザートは、高らかに名乗りを上げた。
「嘘、だろ……!?」
イリスは驚愕していた。今にも倒れそうなほど混乱している。当然だろう、さっきまでは男だった者が、次の瞬間には女になっていたのだ。漫画ではなく、現実でそんなことが起これば、困惑するのは当たり前である。
そしてイリスは思い出した。レイが暴走しかけた時に、フォレスが言った言葉を。
7Pには、解放する性格や人格が大きく変わるものが三人いる。一人はレイ、一人はドラン。そしてもう一人、イリスは誰かと頭を悩ませていたのだが、その最後の一人は——このガイア、いやさザートだったのだ。
「人格が変わるどころじゃないだろ、これは……!」
ふらふらとよろめきながら、イリスは頭を押さえる。非常識すぎて、頭が破裂しそうだ。
「驚くのも無理はないが、覚えておけ、英雄。キュレムの力は、人格や、時に身体までをも変えてしまう力を持つのだ。我の場合は、伝説のポケモンに近い存在であるがゆえに感受性が強かったのと、巫女という概念が我の核を形成していたからこそ、ガイアとザート、二つの体が出来たということなのだろうがな」
性格は、どうやらガイアの時とほぼ同じらしい。となると、一心同体というものなのだろう。
「……さて、英雄。我の準備は整った。7Pの頂点として、我は貴様に引導を渡してやろう。覚悟を決めるがいい」
刹那、ザートの威圧感がさらに増した。さっきまでの困惑が吹き飛ばされ、今度は気迫に押し潰されそうになる。
しかし、
「……性転換とかそんな非常識なことより、こっちの方が断然分かりやすい。覚悟なんて、二年前からとっくにできてる!」
強気に叫び、イリスはボールを一つ取り出し、構えた。ザートも同じようにボールを手に取る。
「勝負は四対四だ。我の全てを持って、貴様を叩き潰してやろう!」
「上等! こっちもお前さえ倒せば、他の7Pなんて敵じゃなくなる!」
そして、二人は初手のポケモンを、それぞれ繰り出す。
「出撃! カモドック!」
「頼んだ、エルレイド!」
ザートが繰り出すのは、カモノハシポケモン、カモドック。
分類とは裏腹に、犬のような姿をしたポケモン。赤紫色の体毛に覆われ、尻尾には大きな殻が付いている。
イリスが繰り出すのは、刃ポケモン、エルレイド。男性的でシャープな人間型のポケモンで、両肘は緑色の刃となっている。
「エルレイドか、懸命だな。メタゲラスでは、我のカモドックには勝てん」
「メタゲラスでも勝つ自信はあるけどね。ただ、下っ端の殲滅で疲れてるだろうから、少し休ませてるだけだよ」
「そうか……だが、エルレイドが相手でも、負ける気はしないがな。カモドック、殻を破る!」
先に動いたのはカモドックだ。だが攻撃はせず、自身の尻尾の殻を破り捨てるだけに終わる。
「殻を破る、厄介な技を……! 」
イリスは顔をしかめる。
殻を破るは、ポケモンの防御と特防を下げる代わりに、攻撃、特攻、素早さを急上昇させる技だ。
簡単に言えば、守りを捨てて攻撃に特化した状態となる技。能力を変化させる技としては、かなり優秀だ。
「行くぞ! カモドック、シャドークロー!」
カモドックは影の爪を生成し、勢いよくエルレイドへと突っ込んで来る。かなりのスピードだ。
「ぐっ、影討ち!」
あまりのスピードに、イリスは真正面からは迎撃不能と判断。エイルレイドを影の中に潜らせてカモドックの背後を取り、刃で一閃する。
「追撃だ! シザークロス!」
さらに刃を十字に構え、カモドックを切り裂いた。効果はいまひとつだが、殻を破るで防御が下がっているカモドックには、そこそこのダメージは通っている。
「ぬぅ、カモドック、アクアテール!」
「エルレイド、影討ち!」
カモドックはすぐさま水を纏った尻尾を払うが、それよりも早くエルレイドが影を通じてカモドックの背後を取り、刃で一閃する。
「よしっ。そのままシザークロス!」
「させん! シャドークロー!」
エルレイドは追撃に十字の刃を振るうが、すぐさまカモドックが影の爪を振るってエルレイドを弾き飛ばした。
「失敗……7P最強の名は、伊達じゃないってわけか」
イリスは急遽変貌を遂げたガイア、現在のザートを見据える。砂塵吹き荒れる砂漠で佇むその姿は、戦巫女にも見えた——