二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 543章 記憶 ( No.795 )
日時: 2013/03/24 00:13
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「戻りなさい、ハッサム」
 エレクトロは戦闘不能となったハッサムをボールに戻す。
「……ここは変に意地にならず、素直にこちらのポケモンを出しておくべきでしたね」
 と言って、エレクトロは次のポケモンが入ったボールを構えた。
「さあ、行きますよ。飛翔の時間です、トロピウス!」
 エレクトロの三番目のポケモンは、フルーツポケモン、トロピウス。
 竜脚類のような体つき、背中にはヤシの葉のような一対の翼。長い首元には、黄色い果実が成っている。
「やっぱりトロピウス……!」
 トロピウスは、リーフィスにとって非常に相性が悪い。
 草と飛行タイプを合わせ持っているので、大成長とハイドロポンプは効果いまひとつ、大地の怒りや宿木の種に至っては完全に無効化されてしまう。
 対して向こうは飛行技で弱点を突いてくるため、リーフィスでは厳しい相手と言えるだろう。
「速攻で決めますよ。トロピウス、大成長!」
 トロピウスが咆哮を上げると、次の瞬間、地中から大量の根っこが飛び出し、リーフィスに絡みつく。
「もう一度、大成長!」
 二度目の咆哮で、新たな植物が飛び出し、今度は積極的にリーフィスを襲う。
「くっ、リーフィス、こっちも大成長!」
 リーフィスも同じように植物を呼び出して対抗するが、
「ハリケーン!」
 植物同士がせめぎ合っている中、トロピウスは翼を大きく羽ばたかせて突風を巻き起こし、植物諸共リーフィスを吹き飛ばす。
「リーフィス!」
「決めますよトロピウス、大成長です!」
 そしてすぐさま地面から植物を呼び出し、リーフィスを襲わせる。うねるように蠢く植物は、リーフィスのガラス鉢の中に侵入して攻撃。リーフィスは甲高い絶叫を上げ、動かなくなった。
「ありがとう、リーフィス。戻って休んで」
 リオは戦闘不能となったリーフィスをボールに戻す。
「トロピウスが相手なら……このポケモン」
 リオは迷いなく次のボールを掴み、大広間の高い天井目掛けて放り投げる。
「出て来て、ドラドーン!」
 リオの三番手は、神龍ポケモン、ドラドーン。
 分類通り、胴の長い東洋の龍のような姿をしたポケモン。黄色と青の体色で、蓄えた白い髭が特徴だ。
「やはり、ドラドーンで来ましたか」
「どうせ、私のエース対策はしてるんでしょ? だったら耐久力で勝るドラドーンの方がいいわ」
「エース対策はどのポケモンでも同じですがね……それに、貴女のドラドーンもマークの対象ですよ。トロピウス、ドラゴンビートです!」
 トロピウスは飛び上がり、龍の鼓動のような音波を発射。ドラドーンの顔面に直撃させる。
「っ、ドラドーン、炎の牙!」
 ドラドーンは効果抜群の攻撃を喰らい、多少は怯んだが、すぐに牙に炎を灯してトロピウスへと突っ込む。
「トロピウス、かわしてドラゴンビート!」
 ドラドーンの牙をかわし、今度は背面に龍の音波を直撃させるが、
「凍える風!」
 ドラドーンはすぐに身を翻し、トロピウスに向け凍てつく風を放った。
「っ! トロピウス、ハリケーンです!」
 ドラドーンに反撃に対するトロピウスの反応も早かった。トロピウスは素早く翼を羽ばたかせると、突風で襲い掛かる凍える風を押し返そうとする。しかし凍える風を押し返すことまではできず、最終的には双方ともに相殺されるに終わった。
「以前よりも威力が増していますね。攻撃力を強化したのでしょうか」
「その通り。でも、それだけじゃないわよ。ドラドーン、炎の牙!」
 ドラドーンは牙に炎を灯し、トロピウスへと突っ込む。
「真正面から突っ込んでも当たりませんよ。トロピウス、かわし——」
 エレクトロが指示を言い切る前に、トロピウスは既に回避行動を起こしていた。が、それよりも早く、ドラドーンの牙はトロピウスの翼を掠めていた。
「っ? 速い……!」
 最初の炎の牙は余裕を持ってかわせたのだが、今度の牙は直撃を避けるのが精一杯だった。初撃を手を抜いていたということは流石にないのだろうが、急に速くなったドラドーンに、エレクトロは疑念を抱く。
「ドラドーン、もう一度炎の牙!」
 空中で折り返し、ドラドーンは牙に炎を灯して三度突っ込んで来る。そのスピードは、やはり先ほどよりも速い。
「くっ、ダイヤブラストです!」
 回避は難しいと考え、トロピウスは宝石のように煌めく爆風を放ち、迎撃しようとする。しかし巨体ゆえにドラドーンの攻撃力は相当なもので、ドラドーンは爆風を突き破ってトロピウスに牙を剥く。
「ドラゴンビート!」
 牙がトロピウスに突き刺さる直前、トロピウスは龍の音波を発射し、ドラドーンの軌道を僅かに逸らす。それにより牙はトロピウスの首を掠めるに終わり、トロピウスは九死に一生を得た。
「スピードもパワーも段違いに上がっている……これは……!」
 エレクトロの脳裏に浮かぶのは、アシドの言葉。トレーナーが秘める能力についてだが、確証はない。リオのそれはアシドが言うものとは違うかもしれない。
 だが、能力にしろなんにしろ、ドラドーンのパワーとスピードが上がっているのは事実だ。前回は手数で攻めたトロピウスだが、今回はスピードでもドラドーンに後れを取ってしまいそうである。
「ドラドーン、ドレゴンプレス!」
 ドラドーンは急上昇し、天井付近まで高度を上げると、そこから一気にトロピウス目掛けて急降下——落下してくる。
「トロピウス、全速力で回避です!」
 迎撃など不可能だ。エレクトロは一瞬でその答えを導き出し、トロピウスもそれに合わせて羽ばたき、ドラドーンから逃れようと全速力で飛行する。
 即決即断、反応が早かったのが良かったのか、トロピウスはドラドーンの一撃をギリギリ回避。広間の床が軋み、テーブルも押し潰されたが、そのまま反撃に出る。
「大成長です!」
 地面から数多の植物を呼び出し、ドラドーンを拘束する。リーフィスとのバトルで三回使用しているため、今のトロピウスの特攻は二倍以上だ。束縛もそう簡単には抜け出せないほど硬いはず。
 だがその時、エレクトロは見た。ドラドーンに起こった異変を。
「っ! 赤い……!」
 ドラドーンの体が、赤く輝いていた。それに合わせ、ドラドーンからは激しい威圧感が伝わってくる。
「ドラドーン、炎の牙!」
 ドラドーンは襲い掛かる植物に炎を灯した牙を突き刺し、そこを起点に炎を拡大させる。炎は別の植物に移り、その植物の炎もまた別の植物に移る。それを繰り返し、やがてドラドーンを拘束していた植物は全て燃え尽きてしまった。
「攻めるよ、ドラドーン! ハリケーン!」
 ドラドーンは大きく息を吸い、災害レベルの突風を放つ。広範囲に放つものではなく、標的をトロピウスに定めた、一点突破の破壊力を持つハリケーンだ。
「ぐっ、トロピウス、ハリケーンです!」
 トロピウスも翼を羽ばたかせて突風を放つが、力の差は歴然としている。多少は競り合ったものの、トロピウスのハリケーンはドラドーンのハリケーンに押し負けてしまい、トロピウスは吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられた。
「凍える風!」
「かわしてドラゴンビートです!」
 追撃に放たれる吹雪のような凍える風を、トロピウスは旋回するように回避。そして、ドラドーンに龍の鼓動の如き音波を浴びせる。
「ダイヤブラスト!」
 トロピウスはドラドーンに接近すると、白く煌めく爆風を放ち衝撃波を起こす。衝撃波はドラドーンに直撃し、ドラドーンは少しだけ体を揺らした。
「反撃よ! ドラドーン、凍える風!」
 ドラドーンは素早く身を捻って凍える風を放つ。
「回避です! ドラゴンビート!」
 トロピウスも必死で翼を羽ばたかせ、なんとか凍える風を回避。そのままドラゴンビートを直撃させる。だが、ドラドーンは怯まない。
「効いてはいるのでしょうが、これは……」
 トロピウスの攻撃は確実に通っている。だがしかし、ドラドーンは攻撃を受けても、それで怯むような素振りは見せず、すぐさま反撃に転じる。
「ドラドーン、炎の牙!」
「っ、トロピウス、ハリケーン!」
 ドラドーンが牙を剥き、トロピウスに突っ込む。トロピウスは咄嗟に突風を放ってドラドーンを止めようとするが、その程度ではドラドーンは止まらない。
「降下です! ドラドーンの上を取りなさい!」
 トロピウスは指示通り、急降下してドラドーンから逃れる。ドラドーンも同じく下降し、炎の牙でガリガリと床を削りながら炎上させ、トロピウスを追った。
 追われるトロピウスは途中で急激に進路を変え、ドラドーンの上を取ろうとする。
 が、しかし、

「ドラドーン、ドラゴンプレス!」

 刹那、トロピウスに巨大な影が差す。ドラドーンだ。
 戦闘中に上がっていく力。それは遂に、トロピウスを遥かに上回るスピードとなった。
「なっ……!」
 体を真っ赤に染めたドラドーンは凄まじい勢いで急降下。トロピウスを炎上した地面へと突き落とし、押し潰す。
「トロピウス!」
 炎とドラドーンの板挟みとなり、トロピウスは戦闘不能。ドラドーンも、静かにトロピウスから離れていく。
「…………」
 エレクトロは呆然とその光景を見つめる。どこかで見た光景。しかし、それがどこなのか思い出せない。
 残りのポケモンはあと一体。エレクトロは遂に追い詰められたが、しかし彼は追想などしない。なぜなら、そもそも彼には、思い出すべき記憶などないのだから——