二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ________冬結晶. *小説集*_______ ( No.82 )
日時: 2012/01/15 12:38
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)






10話




 茜の槍が生み出した“その刃”は、ヒトの体を無残に切り裂いていく。
 三人が倒したそのヒトらは、既に息絶えて骸となった。

「ひえー……相変わらずおっそろしいな」
「まだどこかに残ってるな。……出て来い、死に損ないの愚か者めが」






「……誰? 貴方は人か、それとも別の何か?」




「何を言っているのか分からんな。私は普通の人間だ」
(普通……?)
(きっとちげえ)

 森番二人がそんな事を思っていたのは夢とも知らず、茜は警戒しながら茂みの向こうを見る。

「お前こそ何者だ? 人か、別の物体か?」
「私? ただの人間。多分」

 ガサガサと茂みを掻き分けて出てきたのは、虚ろな目をした女。今の季節に似つかわしくないマフラーをして、手に剣を握り締めている。
 女は前に出ている茜から、微妙な距離を取って止まった。それを見た風丸は目を細める。

「森番二人と部外者一人。まあ、“普通の人間”に会えて良かったのかな」
「……おい森番。この女は何だ?」
「さあ。森に入ってきた“普通の変人”じゃないか?」
「変人……って? 私はオラリス・エルセレル。“普通の人間”よ」

 そう女は名乗ると、後ろで立つ円堂と風丸をキッと睨んだ。

「森番。貴方達はまだ、この異変に気が付かないのか」
「異変? 此処に転がってる奴の事か? ならもう終わった所だけど」
「奴らはほんの一部にしか過ぎない。“もう一方で”全てが起きたの」
「カーナと天月か!? ……すまない、一体何があった?」

 我此処に在らず。そう飄々としていた茜が急に反応する。そのいきなりの声に、オラリスはビクッと体を震わすと、一歩下がった。

「……名前は知らない。ただ二人が、貴方達と同じ奴らと戦っていた。ああ、でもその前、親玉みたいな奴が現れた」
「親玉、ね。私の目の届かない所で登場とは、やってくれるじゃないか……」
「遠くて何を言ってるかは分からなかったけど、一つだけ。『希望の石だっけ?』親玉の手に、小さな何かが握られていたのを覚えてる」
「「希望の石ッ!?」」

 また二歩後ずさる。茜は、叫んだ二人に腕を伸ばして制すると、オラリスに声を掛けた。

「教えろ。今此処で何が起きている?」
「大きな歪みに気付かぬ哀れな“普通の人間”。“普通の人間”の私が、その歪みを表してあげようか」

 オラリスが両手を胸の前で組んだ。祈るように目を閉じ、その言葉をゆっくりと呟く。

「<エレメントアーツ>。自然を司る神よ、我にその歪みを見せよ!」

 突然、茜は顔をしかめて後ろに背ける。後ろで見ていた円堂が何事かと近寄るが、すぐに手で鼻と口を覆った。

「何だ……よ、この臭い……」
「火で何かが焼ける異臭と、……血の生臭い臭い、だ」
「部外者の女。これが示す先は分かる?」
「破滅、その象徴は余り良い意味では無いな」

 オラリスはその言葉に頷くと、組んでいた手を離した。それと一緒に異臭は消え、元の静かな夜に戻る。


 茜は辺りを見回すと、息を吐き出して言った。

「カーナ達と合流しないと。何があったか説明してくれないと状況が掴めん」
「彼女達ならほら、すぐそこに居ますよ」





 天月の明るい声が響いたのは、そのすぐ後の事だった。