二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   土方十四郎の姉で御座います。【銀魂】 オリキャラ募集! ( No.211 )
日時: 2012/03/24 13:23
名前: 朔良 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)

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 初めて握る本物の刀は、
 何よりも重かった
 これで人が死ぬのだと、悟った。










      土方十四郎の姉で御座います【紅篇】
       第十六訓「瞼の裏に焼付いた」









 動物か人間なのかも分からないような風貌をした天人が、小屋に襲い掛かる。
紫色や緑色の見るからに毒々しい色をした身体を揺らしながら、見たこともない武器を取り出して攘夷志士に攻撃を繰り出した。

 目の前で起こる、まるで現実味のない光景に、目を見張る。こんな筈ではなかったのに、足が竦んで、手が震えて。
何て情けないのだろうか、と目を伏せがちに、どんどん増える屍から逃げるように後ずさりした。

 すると後ろから気配がして振り向けば例の天人が私に標準を合わせながら、銃の引き金に手を掛けていた。
「ひっ」、声にならない叫びをあげながら咄嗟に刀を横に一閃、振り回す。
そうすれば天人は気味の悪い色の体液を撒き散らしながら膝からがくんと崩れ落ちた。



「あ、ああ……!」



 初めての感触に恐怖さえ覚える。
とうとう殺人を犯してしまった。天人を人と呼んでいいかは定かではないが、兎に角殺してしまったのは紛れもない事実で。
血の匂いが充満する部屋に、むせかえって咳き込む。刀の先には天人の体液が付着している。

逃げ出したくなった。昨日までの自分は何処だ。他の攘夷志士を見下すほどの余裕は、何処にいった。
そう考えながらも恐怖が私を支配する。
今の自分は、どう考えても最低だ。他人を見下す価値さえない。



「…オイ、朔」
「……ッ銀ちゃ、」



 恐怖と自責の念の狭間で揺れる私に銀時が躊躇いなく話しかけてきた。
彼の着物には夥しい量の血痕がついている。
けれど彼は平然な顔で、私を見据えた。その力強い目に泣きそうになる。

 ああ私は馬鹿だ。ただの役立たず。他の攘夷志士たちが私を突き放していた理由がわかった。
 だって私は臆病だから。私は誰かを斬ることに躊躇してしまったから。
戦場では躊躇などしてしまったらすぐに死んでしまう。
だから志士たちは警戒していた。誰かを斬ることに恐怖を抱いてしまうであろう私に。



「非道な言葉だと思うかもしれねェ。けど、」
銀時は悲しそうに目を伏せた。
「躊躇するな。殺さなきゃこっちが殺られるんだよ。生きるためには誰かを殺さなきゃなんねェ。お前には待ってる奴がいるんだろーが」



 その言葉は氷の刃のように深く私の心に突き刺さった。
それは、戦争上での常識。やらねばやられる。それが当たり前。
戦争を甘く見ていた。私など他人から見ればただの甘ちゃんに過ぎなかったのだ。



「無心になれ。修羅になるんだ。」
「しゅ、ら……」



修羅に、つまり鬼になれ。そう銀時は言っている。
〝お前には待ってる奴がいるんだろーが〟
そうだ。私には十四郎がいる。考えればわかったことではないか。
修羅になれ、無心になれ。私に心などない。そう思い込め。



「——御意」



生きて帰るためには、それしかない。
ただ、刀を強く握り締めた。





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