二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【3/20最新話】月下で交わる二人のオレンジ【現在三章】 ( No.81 )
- 日時: 2012/04/01 11:25
- 名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 8Sk6sKy2)
- 参照: 六道骸VS虹宮道山
「ええ、確かに僕の名前は六道骸です。よくご存じですね」
「当然。……敵に勝つ第一歩は知ること、でしょう?」
「ええ、少なくとも僕はそう思っています」
倒れかけの鈴音風花と、突然の乱入者であるオッドアイの男が自分を無視して話し続けているのが勘に障ったのか、突然虹宮は地面を踏みつけた。勢いがどれほどであったのかは知らないが、コンクリートが砕け散る。それだけでなく、大きな亀裂が道路中に走る。スッと目を細めた骸は冷たい視線で観察する。地面に叩きつけた左足の紋章から、黄色い炎が放たれているのに。きっとこれは晴れの“活性”による肉体活性だろう。
「何故だ! 何故今さら現れたんだ! 今までこちらにいる気配すら見せなかっただろう!」
「仕方ありません、今まで思念体で観察していたのですから」
「だったら! 何で今さら出てきたんだ! この邪魔くせぇ囚人が!」
怒り狂うように髪を振り乱し、何度も何度も地面を抉り続ける男に、骸は憐みの目を向ける。どうやら、少々イカレてしまった人間だとは即断できた。我を忘れてしまっているようで、目は血走り、瞳孔は開き、鼻息も荒くなっている。
無様極まりない、その様子を見た骸の、虹宮に対する第一印象はそれだった。しかし、地面が粉々にされてしまっているその様子から相手の力そのものは決して侮れないということは納得した。
「決まっているでしょう、君が僕の分身をどう扱ったか、忘れたとは言わせませんよ」
「くそっ……。何でこいつまで呼んだんだよ、あの人は」
「僕は勝手に付いてきたんですけどね」
そこから骸の解説が勝手に始まった。訊いてもないのに始まったのだが、敵である二人にとって、それは仕入れておきたい情報だったので黙っていた。
まず、骸は将来の目的である沢田綱吉を乗っ取るという行動のために、守護者集合の際にクロームの中に意志として忍んでいた。都合良く、沢田は感じていないのかそれどころではなかったのかこちらの事を黙っていた。すると、クロームという器ごと、骸はこちらの世界に来た。その後、大虚が現れた瞬間に、骸はクロームへの憑依を解き、周囲の探索を始めた。そして、見つけた宇木良平を。そのまま観察を続けていると途端に彼は元々骸の居た、ボンゴレ一向の下に戻ったのだ。
どうやらやり過ごしたのを見つけ、浦原商店に着いていき、一緒に戸魂界に潜入した。途中の、拘流でクロームが転倒するというアクシデントでは、一瞬だけ憑依して脱出を手伝った。
なんだかんだの動乱で、気が昂ぶっていた沢田は骸が現れる兆候であるサインに気付かずにそのまま現世に出撃した。そして、憑依の直前、最も強い違和感を感じる瞬間でようやく沢田は気付いたのだ。
「さて、今のところ分かっているのは、大空と雷、そして晴れぐらいですね。他の炎だと、どのように使うのでしょうか」
「うっせえよ! 全部使うまでも無くお前は死ぬんだよ!」
右足の紋章が深紅に輝いた。今度は嵐属性の炎のようだ。その、赤い炎を纏った右足を、サッカーボールを蹴るようなフォームで一気に振り抜く。空を蹴ったその脚からは、嵐属性の鋭い刃が放たれた。
三日月形のその蹴撃が、真っ直ぐに六道骸に襲いかかる。三叉の槍を構えた六道骸が、格闘能力に特化した状態で舞うような槍術で迎撃せんとする。
六道骸は、自分自身で六道輪廻の世界を全て回ったと言っている。六道輪廻の思想とは、人は死んだらそれぞれ、地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天界道を回るというものだ。そして骸はそれら全ての世界でスキルを手に入れてきた。その中の一つが、格闘スキルに特化した修羅道。
だが、嵐の“分解”能力を持った刃は、槍をあっさりと打ち砕く。完膚無きままに破壊された彼の槍の欠片は、宙を舞った。防御のための道具を失った骸に、容赦なくその嵐の炎が襲いかかる。
「馬鹿な……」
「ほらな! この! 虹宮道山を! 嘗めんなって話なんだよ!」
勝ち誇ったように、虹宮は高笑いする。目の前で膝をつき、胴体に斜め一文字に出来た斬り傷を見下しながら。真っ赤な血を垂らす彼を嘲笑しながら、止めを刺そうと大空の炎を右手に集約させた。これで終わらせようとの算段だ。より一層不敵に、虹宮は表情を崩して、嫌らしい笑みを作る。
そして、右手から炎の光線が放たれる。沢田が空を翔ける時のような凄まじい速度で、骸に向かって一直線。
その瞬間、視界全てが漆黒に包まれた。それこそ、一寸先をも見渡すことの出来ないほどに深い闇。
「なっ……何だこれは!?」
それまで圧倒的に優位に立っていた筈の虹宮が焦りを顔に浮かべる。今、攻撃したのは彼の筈なのになぜこのように動揺しているのか、風花には分からなかった。どうせ、ふざけた虹宮がこのような空間を作り出したと思ったのだ。しかし様子から察するに、それは違うようだ。
だとすると、候補は最悪の状況である一つしか思い浮かばない。ゾッとするような悪寒が身を包む中、周囲一帯の景色が牙をむいた。絶対に明るさの欠片も無い、目も当てられぬ程の闇に眼が眩んできた、その瞬間にやけにリアルな目玉が浮き出てきたのだ。
血走った眼、それら全ての目の赤い瞳には、一の文字が入っていた。
「鈴音! これは一体……何なんだ!」
「六道骸の……幻覚空間よ」
何が起こるか分からない恐ろしさに目を見開き、ガタガタと震える風花、彼女の言葉を聞いた虹宮までもが血相を変える。さっきまでの興奮は無かったかのように血の気が引いていく。それこそ、顔面蒼白。彼にも分かっている、相手の幻覚に堕ちたということは……知覚のコントロール権を完全に奪われてしまったという事。これから骸が作りだす世界、それは二人にとっては現実となるのだ。
周囲の目玉、その中心から、幻覚のレーザーが発射された。それこそ、先程虹宮が撃ち出したような。幻覚とは分かっていても、防御しないといけないという防衛本能が働く。腹の辺りの紋章が輝き始めた。属性は雨、その鎮静力で無効化しようとの判断であろうが、幻覚なのだから威力は元よりない。それなのに、額から出る雲の炎で雨の炎を増殖させて、より強力な炎を作り上げる。
それでも、この空間内に居る間中は、全てが骸の意志に左右される。練りに練ったその炎も、あっさりと消し去られてしまった。
「嘘……だろぉっ!!」
「真実ですよ、陥っている、君たちにとっては……ね」
「いつからだ……! いつから仕掛けていたぁっ!」
突然足下から現れた蓮の茎が、二人に絡みつく。身動きの一切を封じられて、全身を締めあげられた二人は、悲痛な、苦痛による呻き声を上げる。もうそれは、声になっていない。
その様子を見ながら、一応問いには答えておこうと骸は口を開いた。
「幻覚の事ですか? 最初からですよ」
「適……当なこ……と言ってんじゃねえよ!」
「分かっていないのですか……」
やれやれと、頭を抱えて骸は残念そうにする。そして、それこそ勝ち誇ったような表情で、もう一度現実を突きつける。
「僕が現れたその瞬間、君たちはもう僕の術中に嵌まっていたのですよ」
「何……だと……。……ふ、ざけんなあっ!」
途切れ途切れに、怒りに体を震わせる虹宮が絶叫するも、拘束はほどけない。いつの間にか、虹宮の足元にだけ灼熱の溶岩のような色の円が出来上がっていた。
じりじりと、髪を焦がす音が虹宮の耳に飛び込む。髪の毛が焦げる臭いもする。皮膚を突き刺すような熱気が、体の表面全体を覆い尽くす。
「僕のクロームに容赦なかった君には……情けをかけるつもりはありません」
そろそろ強気な鼻っ柱を叩き折られた虹宮は涙を流していた。ただ、己の命惜しさに命乞いを続けるだけ。どのみち幻覚内なので、本当の死を迎えることは無いのだが。
骸は笑みを解き、神妙な顔つきになる。鋭い視線で睨みつけて、威嚇する。許す気は無い、それが視線から痛いほどに伝わってくる。脊髄に、堪らなく冷たいものを垂らされている感覚。
「君の敗因は、言わずとも分かりますよね。後、最後の背中の霧属性の紋章ですが、それは楔ですね。紋章を構築するための紋章、よってそれ以外に効力は無い。これで全て、ちゃんと分かりましたよ」
次に虹宮が何か言葉を発しようとする前に、紅蓮の火柱が彼を包み込んでいた。際限なく天へと伸びていくその火柱から、隣に居る風花までもが熱気を感じ取った。
「堕ちろ、そして廻れ」
三話・開戦がこれにて完結です。
四話に入る前に短編作ろうと思います。
もうすぐ1000なので、もはや700じゃなくて1000記念になっちゃいそうなのですが……