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二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Story 『物語』ターン ( No.22 )
- 日時: 2012/05/12 22:49
- 名前: 永夢 雪華 (ID: 7G9M03h3)
(3)戦いの軌跡など只の紙切れ同然
カラリと鈴の心地よい音をたて扉は開かれた。
春の桜の香とともに、小ざっぱりとした部屋へと足を踏み入れたのは———。
「相原沙耶、此処にお戻りいたしました、蘭丸さま。」
心なしか頬を紅潮させた少女は、小さく会釈する。
蘭丸さまと呼ばれた少年———霧野はそれに答え、にことピンク色のツインテールを揺らした。
うんうんと更に可愛らしい笑顔をグレードアップさせた幼さの残る少女が後ろ手に扉をゆっくりと閉める。
「久しぶりだなぁ沙耶!!」
「はい、お久しぶりでございます!!」
相原沙耶、それが少女の名前。彼女の目の前の少年、霧野蘭丸が率いる【無限の輝き・アンリミテッドシャイニング】第二部隊に所属する立派な補佐官である。
窓からの春風にグレーの髪が波打つ様は、書類置き場と化している部屋に華が添えられたよう。
長旅の疲れから溜め息をついた後、沙耶は改めてあいさつを兼ねた報告をした。
「任務は成功、それからそのまま帰国した次第でございます。それから、」
少し表情を曇らせた沙耶に対する霧野の苦笑。
「まあ戦場は・・・死傷者くらい出て当たり前だ。国の為に死することくらい光栄なことは無いんだから、さ。」
「・・・はい。」
うつむき、前髪が淡い水色の瞳を隠す。
彼女の唇がほんのわずかだけ動いた。
「———。」
「ん? ごめん、聞こえなかった。」
「全員、玉砕。生還者なし。それでは失礼します。」
呆然とする将官に敬礼し、少女は退室した。
「どういうことなんだよ・・・。」
全員、玉砕。
生還者なし。
それが意味するところは、すなわち———。
「ちくしょう、なんで皆、俺を置いて逝ってしまうんだ・・・!!」
拳を握り締める少年。
窓の向こうの桜の大樹が、嘲笑うかのように花びらを散らした。
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