二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜 ( No.326 )
日時: 2014/01/20 20:48
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)

☆番外編☆第二十四話   「家族旅行へ」



「ひっこうき♪ ひっこうき♪」

鼻歌を歌いながら、座席に座って、友撫は足をぶらぶらさせた。風花も友撫の歌にあわせ、合いの手を入れたりしながら、彼女のとなりに座る。

「風花、友撫注意してあげて。それに、シートベルトも、ちゃんとして。」

と母がいうのも聞かず、風花は友撫につきあい、楽しいおしゃべりをはじめている。
窓から外を見ながら、友撫はぼやいた。

「あーあ……きょうからしばらく、かえってこないんだよね……。」

そのことばに、風花の気持ちがずんと重くなる。
輝のまえではああいったものの、ほんとうはさびしいし、一度会ってしまったから、輝と会いたい、という気持ちは、必ずアメリカでわき上がってくるだろう。
それは、風花にだって、安易に予想できた。
だけど、せっかくの家族旅行だ。
楽しまなければ、損だ。

「そうだけど、友撫。アメリカは楽しいところなんだよ!」
「ほんと? にいに。」
「うん! ママにいっぱい本見せてもらったけど、どれもこれもワクワクしちゃうんだよ!」
「たのしみー!」

はしゃぎまくる友撫に合わせ、風花も大げさにからだを左右に揺する。

「こら、ふたりとも。ちゃんとシートベルトをしめなさい。」

母がとうぜんのおしかりを飛ばしてきた。
ちょっと不満げに口をとがらせつつ、風花は自分のシートベルトをしめてから、上手くできない友撫のシートベルトもしめてあげる。
ちらりと窓の外を見ると、輝の後ろ姿が見えた。
目を細めて、その背中を見ながら。
そっとつぶやく。

(また……帰ってきたら、遊ぼうね。)

そのとき、間もなく離陸するというアナウンスが響いた。
もうすぐ……もうすぐ、輝とは、しばらくのお別れをしなければならないのだ。
服のすそをきゅっとにぎり、母の顔を見上げる。母は風花を見下ろして、にっこりと笑んだ。

「また、輝くんと、遊びましょうね。」

うるうると、目に涙がたまって、母の顔が見えなくなる。
母には、なんだかちょっと変なときが、まえはあった。
だけど、やっぱり、母は変わらず、大好きな母のままなんだ。
つう、とほおに熱い涙が伝ったが。
涙を流しながら、満面の笑みを浮かべた。

「うん!」

     ☆

「今日から、どうかよろしくお願い致します。」

ぺこりとあたまを下げると、金髪を七三分けにした初老の男性が、にっこりほほ笑んだ。

「ソンナニ堅苦シクナラナイデクダサイ。気楽ニヤッテイキマショウ。」
「ほんとうに、ありがとうございます。」
「いいじゃないか、母さん。堅苦しくするなといってくれているんだから。」

風花はきょとんとして、友撫を抱っこしながら、男性をじーっと見つめていた。
彼女の視線に気づき、男性はにっこりして、あたまのぼうしを外す。
そして、ふたりの視線に合わせると。

「ハジメマシテ、オ嬢サンタチ。ワタクシハ、カズヤ・ムルーシュデス。『ムルーシュ』ト呼ンデクダサイ。」
「ムルーシュおじさんだね。この子は友撫で、あたしは風花。よろしくね。」

友撫はムルーシュを見ると、うれしそうに笑った。
ムルーシュは、くるんと巻かれた白い口ひげと、常に笑っている口元が好印象な男性だった。目元のしわも気にならないほど、笑顔がとても若々しい。
彼と一緒に暮らせるなら、楽しい家族旅行ができそうだ