二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【REBORN】 皓々と照る月 【平凡主生息中】標的23更新 ( No.45 )
日時: 2012/09/22 20:19
名前: 苗字(元なゆ汰 ◆UpTya9wNVc (ID: gwrG8cb2)

 ベル(と読んでいいと言われた)と一旦別れ、私は最低限の荷物を取りに帰ろうと帰路を急いでいた。なるべくお母さんたちには気づかれず、静かにヴァリアーに行きたいものだ。足音だけが波打ったように静かな道路に響く。さて、どうしたものか。ヴァリアーに行くはいいが、武器はどうしようか。そういえば、おじいちゃんは趣味だとかいって手裏剣やクナイを集めていた気がする。それを貰おう。暫く歩くと、古い私の家が見えた。何枚か剥がれ落ちた瓦、くすんだ色の塀。貧乏な家だったが、それなりには幸せだった。もう、この家に帰ることはないのだろう。東城と書かれた表札を、何の意味もなく見つめる。すると、向こうのほうから小さな足音が聞こえた。音の方向へと振り向く。


「東城…さん?」
「…………沢田、」


 今、一番会いたくない者の、名前。リボーンくんも肩に乗っていて、何だか吐気がした。荒んだ目をしているだろう私を、戸惑いがちに見つめる沢田が、嫌で仕方が無かった。「今日、学校休んでたみたいだけどどうしたの?」心なしか優しい声色が、私の耳を支配する。「別に」淡々と答えて、沢田から目を逸らした。

 どうして、こういうときにやってくるの。沢田。


「あの、体育祭のことだけど……」
「ああ、沢田。雲雀先輩に腕章返しといてよ」


 沢田の言葉を遮るように私の声を被せる。驚いたように息を呑む声がして、また心がずたずたに荒んでいくような、そんな気がした。「借り物競争、オレがでたんだ」「……そう」それが、どうしたんだ。沢田が遠回しに聞こうとしていることが、私には不快でたまらない。なぜ、体育祭の途中で帰ったか。その疑問だけが、沢田の目の中で渦巻いている。不快、だ。その不快さを取り除くために、私は比較的冷たい声を出した。ただ、真実を伝える。


「お父さんが、死んだのさ。——マフィアによって、殺された」
「…………え」


 沢田が、素っ頓狂な声をあげた。ああ沢田、私は沢田が大嫌いだ。哀れみと同情を含んだ目で私を見るところも、無駄に優しい声色も、私を責めないところも。大嫌いで、……どこかで、大好きだった。そうやって私を甘やかしてくれるところ、大好きだった。けれど、惨めになるのだ。沢田は、優しくてあったかくて、自己中でわがままな私と大違いだ。優しすぎる沢田たちの好意が、嫌で嫌で仕方が無かった。

 ねえ沢田。私は沢田も獄寺も山本も……皆大好きだったんだ。私は馬鹿だから、今やっと気づいたのだけれど。

 けれどね、だから私は無情になる。愚かな私は、沢田たちを恨まずにはいられないから。沢田はマフィアの次期ボスだ。そのファミリーがお父さんを殺したマフィアじゃないって知ってても、愚かな私は、いつかきっと同じマフィアである沢田を恨んで責めて、殺そうとしてしまう。憎悪の念を持つことでしか、私は私でいられない。

復讐への道に——いいや、平凡への道に、お前らはいらない。


「東城、さん……?」
「——ねえ、沢田。私はお前を、忘れるよ」


 沢田の、傷ついた顔が、視界に入る。今にも泣きそうな表情で、沢田は私を見ている。先ほどまでの不快は、さっぱりと消えていた。リボーンくんが険しい顔をしている。もうここにいる意味はない。潔く自らの家に入ろう。そう思って足を門の中に入れる。沢田は、無言で立ち尽くしていた。“ごめん”はいらない。今、謝罪の言葉はいらない。言葉を発さない沢田の代わりに、リボーンが口を開いた。


「——お前の父を殺したマフィアが、ボンゴレの力によって解散させられていても、それでも復讐をするのか」
「君たちの所属するファミリーは甘すぎるんだよ。たかが解散させたくらいで、満足するものか。解散したとしても、お父さんを殺したファミリーはきっとまた、牙を剥く。私はそれを——殲滅するのさ。それで、やっと終焉だよ」
「…………落ちぶれたな、ユウ」
「お褒めにあずかり光栄だよ」


 精一杯の皮肉を込めて、私は東城家の扉に手を掛けた。めいいっぱい、武器を用意しよう。それから死んだおばあちゃんの護符も取ってこようか。復讐の、平凡のためなら私はなんでもする。平凡になるために通る道なら私は喜んで突き進む。お母さんの意志は私の意志だ。そんなことを考えつつ、私は手に力を込めて、扉を開こうとした。すると。「オレ、東城さんのこと、大好きだったよ。」ぽつりと、沢田の声。思わず扉にかけていた手を引っ込める。ここで沢田の声に耳を傾けようとするあたり、私も情が抜け切れていないらしい。ただ、沢田の声に集中する。


「オレは、東城さんのこと忘れないから! オレは、信じてるから……東城さんが帰ってくるって!」
「——……おめでたい奴だね」


 大きく叫ぶ沢田に、一言淡々と返して、今度こそ扉を開く。見慣れた玄関が見えて、そのまま私は家に入った。扉を閉める。

 何故だか、涙が零れた。