二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 曇天 そう、それはまるで大空の様な。up ( No.34 )
日時: 2008/08/18 12:40
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

「てめェ、そいつの仲間か」 
 青い侍と並んでやぐらを見上げていた銀時に、土方は投げつける様に言った。銀時は振り返り、土方と目を合わせてから、また青い侍の方へ視線を流した。
 仲間だと言ったら、二人とも捕まえるに違いなかった。
「おい、俺たちは仲間か?」
 銀時が見つめると、青い侍はやぐらを見上げたまま、口元をつり上げた。
「違うね」
「ふーん、なら俺たちは何だ?」
 銀時の二度目の質問を合図に、青い侍と銀時は真撰組の方に向き直り、ニタッと笑った。
「さぁな」


 5
 いい女ってのは見た目じゃねぇ。ココだ、ココ。


 アイツが振り返った。
 綺麗な顔立ち、本当に一言で言えば二枚目だった。
 土方は初めて、男に見とれた。
「みなさぁーん!どうしたんですかァ」
 ムカつく面の銀時に声をかけられて、初めて正気を取り戻す始末。自分でも動揺しているのがよくわかった。だが、それは土方だけではなく、初めてアイツの顔を見た隊士達や、近藤、沖田も同じだった。
 すると、やぐらのスピーカーからテロリストの声が響いた。
「てめェらァァァ!俺たちのこと忘れてる訳じゃねぇだろうなァ!!」
「あー、忘れてたァ。どうする銀時」
「ん?やるしかねーだろ」
 銀時は右耳に小指を突っ込んで、ぐりぐりと回した。
 侍は、そうだよな。と、はにかんで、いきなり銀時を持ち上げ、小脇に抱えた。
「はぃ?何するつもりィッ!?」
 銀時の質問を完全に無視し、侍は全速力で真撰組の方へと突っ込んできた。隊士達はいきなりの行動に動揺しながら刀を構えるが、侍は楽しそうに数を数えだした。
「いィーちッ!にィーのッ!さんッッ!!!」
 いちの時には大股で、にの時には隊士達を飛び越えて、さんでパトカーの天井を思いっきり踏みつけ、蹴り飛ばした。パトカーは大きな音を立ててひしゃげ、吹っ飛ばされた。 侍は銀時を抱えたまま、5メートル以上ある高さのやぐらの屋根に飛び乗った。
 ソレと同時に、やぐらの瓦の上に銀時が顔面から落とされる、鈍い音が響いた。
「いってェ!もっと柔らかく落とせねェのか!?」
「重力がある限り無理だな」
 ケケケッと意地が悪そうに笑う侍を涙目で銀時はにらんだ。
 テロリスト達は、急に飛んできた二人の侍に驚いて、腰を抜かしていた。青い侍はそれを見るとニタッと笑って、「化け物」だとか騒いでいる下の真撰組達に大声で言った。
「しっかり受け止めろよォォォォ!」
 人質が落ちてくると思った隊士達が、慌ててやぐらの下を取り囲むと、間髪入れずに次々と人が落ちてきた。それは全て、テロリスト達だった。              「うわ!?ぎゃァァァァッ!」
 全部で10人。見事に隊士達の上へと落下した。
「てめェら!人質助けにいったんじゃねーのか!!」
 近藤が落ちてきたテロリストに押しつぶされながら文句を叫ぶと、青い侍と銀時が下を覗いた。
「人質助けにいってェェェェェ!人質投げられるかァァァァァ!!」
 あ。
 まぁ、たしかにそうだ。


「はあぁー暴れた暴れた」
 大江戸西公園ベンチの上、オレンジ色の光に包まれながら、銀時の隣で侍はコーラを飲んでいた。満面の笑み。相当楽しかったらしい。
「お前、全然からだ鈍ってねェのな」
「お前と違って死ぬギリギリの生活してたんだよ」
「俺も経営ギリギリじゃ。舐めんなコノヤロー」
「そのギリギリじゃねーよ。お前は頭がギリギリだな」
 二人がギャーギャー騒いでいると、誰かが近づいてきた。
「おい」
「アレ、多串君」
 そこにいたのは、頬を赤く染めた土方だった。遠くの方から、近藤、沖田、神楽、新八、お妙が話しながらこっちへ向かってくる。土方は二人から目をそらしたまま、しどろもどろに侍に聞く。
「お前、一体何なんだ」
「え、なんなんだって言われても」
 侍はコーラから口を離すと、おっさんの様に膝に手を当てて「よっこいしょ」と立ち上がった。うんと大きくのびをして、土方に持っていたコーラを渡した。
「その天パの家族ですゥ」
 背中越しにひらひらと右手を振って、どこかへいってしまった。土方はふいに渡されたコーラを口に運びながら、侍の背中を消えるまで見つめていた。銀時は天パはないだろ。と口をとがらせてブーブーと文句を言っている。
 すると、遠くを歩いていた近藤達が、二人のいるところに到着した。
「旦那ァ、あの人行っちゃったんですかィ?」
 沖田が公園の入り口を見つめながら聞くと、銀時は思いっきりベンチに体重を預けながら言った。
「ああ、いっちまった」
「引き留めなかったんですかィ」
「生きてりゃ、また会えるだろ」
 いつも死んだ目をしている銀時には見られなかった、今までにないような、穏やかですがすがしい顔をしていた。
 そんな銀時を見て、近藤が言った。
「せめて、名だけでも聞きたかったなァ」
「私もアル!あんなイケメン滅多にお目にかかれないネ!」
「あん、イケメンだァ?」
 銀時は笑いながら重たい腰を持ち上げ、落ちていた桜の木の枝を拾うと、しゃがみこんで地面に何かを書き出した。近藤達は、銀時を取り囲んで上から覗いた。土方も、コーラを飲みながらその輪に加わる。

 丹波 桜

「たんば、おう。ですか?」
 新八が聞くと、銀時はおかしそうに笑った。
「違ェよ、それじゃ男みてェじゃねぇか。さくらだ、さーくーら。」
「え、男みたいじゃねぇかって、男の人じゃないんですか?」
 新八が言うと、近藤達もそんな顔をしていた。銀時は全員の顔をのぞき込むと、頭をグシャグシャと掻いた。
「あー、まぁあんな髪型に、あのカッコじゃ無理ねぇな。アイツは女だよ」
 ソレを言った途端、土方は口を付けたコーラを思いっきり飲み込み、顔を耳まで真っ赤に染めて硬直してしまった。
『女、だと?確かにキレーな顔してるとは思ったが、まさか。ホントに、、、』
 頭の中で色々なことが交錯し、ついには何やら蒸気の様な物が出てきだした。
「あ、トシがショートしだした」
「ウブですからねィ」
 近藤と沖田がおもしろがって笑っているが、土方はショートしたまま立ちつくすだけだった。銀時はそんな光景をぼんやりと見ながら、落ちてくる桜の花びらを見つめていた。
 すると、お妙と、新八と、神楽の三人がニコニコしながら銀時の前にたった。
「ん、どうした?」
「銀ちゃん、あの人が銀ちゃんの家族なら、私たちもあの人の家族ネ」
「そうですよ。銀さん」
「みんな、みんな家族なんだから」
 銀時は驚いた様に目を丸くした後、口元を少しつり上げて笑った。


「おう、そうだな」