二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ■━…紫弓 【銀魂】 ( No.148 )
日時: 2010/04/02 21:52
名前: 帽子屋 ◆8ylehYWRbg (ID: vtamjoJM)
参照:            ──「ずっと好きだよ」『でっていう』


■━━…参伍


暫く沈黙が続き、嗚咽をしながら何とか涙を止めようとする稜弥。
手首でゴシゴシと擦ったその目は、真っ赤に充血しかけていた。

「…稜弥」

銀時は小さく名前を呼ぶ。

『…っく……、何…?』

稜弥はまだゴシゴシと目を擦りながら返事をする。

「おめーはよ、何でおかしな事しかしねェ奴のとこに居んだ? 何で高杉に従うんだよ」

自分自身がおかしいと思う事でも、素直に高杉の言い成りになる稜弥が、銀時は可哀想に思えた。
もしかして無理矢理従わされているんじゃないかとも疑える。

けれど稜弥は、銀時の予想と大きく外れた答えをする。

『……兄貴は昔からそういう性格だから。
俺が何言ってもどうせ聞かないし、歯止めがかからねェのはもう何度も経験してる。
周りから変だとか言われるのも仕方がねェんだよ』

ほら、やっぱりそうだろ。
と、銀時は言いそうになるが、稜弥はまだ小さな声で呟く。

『でも、やっぱりそれでも俺は兄貴の事尊敬してる。
強いし、頭もキレるしさ、ほら、俺とは正反対にいろいろと考えてるんだよ。
多分今回の事もいろいろ考えてるんでしょ。俺はそうだって信じる』

銀時は予想外の回答にため息をつく。
まったく、救いようのねェ馬鹿だな、コイツは。

だが、そこが稜弥がいろんな者達から慕われる要因なのだろう。


『けど……』

稜弥はそうぽつりと言った後に、また大粒の涙を流しだす。
銀時はまた驚いて、「今度は何だよ」と言わんばかりに肩を落とした。

『今回だけは…俺も良く分かんねェんだよな…
 お前はただあの女を守りたかったからここまで来たんだろ? 
…何でッ、何で俺がそんな奴を殺さなきゃいけないんだよォッ!! 大切なモンを守ろうとしてる奴をッ、何でッ……』

涙雑じりの悲痛な声で、稜弥は今までの胸のうちを泣き叫ぶ。

銀時は、そんな稜弥をゆっくりと自分の胸に抱き寄せた。

『……ッ!』

「お前もいろいろと辛かったんだな。
まぁ何にせよ、お前が本音言ってくれて良かったぜ。このままずっと溜め込んでたらよ、お前にも周りにも毒だろうしな」

銀時の優しい声が、稜弥の涙腺を刺激する。

「めーいっぱい泣いとけ」


次の瞬間、稜弥が子供の様に泣きじゃくったのは、銀時しか知らない。


━━━━━━


ひとしきり銀時の胸で稜弥が泣いた後、稜弥と銀時は江戸の甘味屋で一服していた。
まだ稜弥の元気は回復しなそうだと見込んだ銀時は、団子を三本ほど奢ってやる事にしたのだ。

「ほら」と、銀時は甘そうな蜜のかかった団子を差し出す。
『ん…』と俯いたまま団子を受け取る稜弥。

そのまま2人は甘味屋の前の長椅子に腰掛ける。

もっちゃもっちゃと団子を頬張る銀時に対し、稜弥は一口も団子を口にしていない。

「ほら、折角銀さんが大盤振る舞いしてんだからたーんと食べなさい」

『ん…』

そう促しても、稜弥の口が開くことは無い。

稜弥は不安なのだ。
「任務遂行しませんでした」なんて言って帰ってったら、命令を聞いた時半分キレた手前、故意にサボったと誤解されてしまうんじゃないかと。

銀時はそれを察していた。
まぁそれは頭が残念な稜弥の事だから、解決策なんて見出せないだろうな……。
なんて失礼な事も脳内で思っていた。

こんな状態でほっとく訳にもいかねェしなァ…
ハァ、お人よしもいーとこだな、俺も。

「おい」

銀時がそう呼ぶと、稜弥は肩をビクつかせて銀時の方に顔を向ける。

『え、何…? 団子ならちゃんと食いますけど…?』
「それはどっちでもいいよ、団子食べないから怒るって俺どこのオカン?」

「そうじゃねーよ」と銀時は面倒くさそうにため息をつく。


「高杉には俺を殺したって言っとけ。その方がお前も都合良いだろ」

その言葉に、稜弥は驚きの表情を見せる。

『ちょっ、ンな事冗談でも…、女はどうするよお前!』
「今はンな事言ってる場合じゃねーだろーがコノヤロー。大丈夫だ、今のお前があそこに居んならよ。俺も安心だわ」

銀時がそう言うと、稜弥は少し嬉しそうな顔をした。

そして銀時は席を立つ。
「俺の嫁宜しくね稜弥チャン」と悪戯っぽく言うと、ザッと地面を鳴らしてその場から去っていく。

『あっ……、銀時!!』
稜弥は言い忘れたと焦りながらその場に勢いよく立つ。

『今日はその……、いろいろとありがとな!!!』

銀時はそれ聞くと、黙って右手をひらひらと振った。


今日は俺、銀時にいろいろと救われたな、と稜弥は感じた。
そして気持ちを新たに船へ向かおうと、甘味屋を立ち去ろうとした時だった。


「お客さん、お会計」

■━━……