二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 紫弓 【銀魂】 ( No.23 )
日時: 2010/01/15 19:17
名前: 帽子屋 ◆8ylehYWRbg (ID: vtamjoJM)
参照:         ——『殺さないで、って素直に言ったらどうだよ』

■━━…拾八

「えーッ!!? あ、あの人、攘夷志士なんですか!?」

「絶対チャラ男にしか見えないヨ! 強そうじゃないアル! ひょろひょろネ!!」

「そうだよ、てか今頃お前等が知らねー方がおかしいの。ヅラと同じくれェ江戸じゃ有名でよ、指名手配もされんだぜアイツ」

新八と神楽が稜弥に意外な職業に驚く中、銀時は至って普通に話し続ける。

「でも、本当に驚きです。全然、そんな感じしなかったですし、男性とは思えないくらい華奢でしたよ」

新八は自分が思う稜弥の疑問点を挙げていった。

攘夷志士とは思えない様な軽い空気
華奢な体つき
高い声

挙げればたくさん出てくる疑問。
銀時はそれに対して、「あー…」と見透かしていた様に言った。

「やっぱ誰でも騙されんのな…」

小さな声で言ったせいか、神楽と新八には聞こえておらず、問いただされなかった。

「でも、あんなヒョロっこいヤツなら、私でも勝てそうアル!! 絶対大した事ないネ!」

神楽がそう自信満々に言うと、銀時は「いや」と訂正を入れた。

「ヘタすりゃおめーよりも強いかもしんねーぜ?」

今度はその言葉を聞き逃さずに、すかさず新八は銀時に聞く。

「そんな、神楽ちゃんより強いって…どういう事ですか!?」

またテメーか、と銀時は面倒臭そうに渋々答える。

「どういう事ですかって聞かれてもなァ…。だってよ、俺、アイツに負けてるもん」

銀時がそう言った瞬間、外から、「うわァァァアッ!!!」と、女性の叫び声が聞こえてきた。

否、泉菟の叫び声が。

その声に反応した万事屋の3人は、玄関を飛び出し、[万事屋銀ちゃん]と頼りなさそうに掲げられている看板が掛かっている柵の部分に一斉集合した。

地面に視線を落とすと、泉菟を担いだ稜弥の姿。

『げっ、ほら、アンタがでけェ声出すから、銀時達出てきちゃったじゃん!』

稜弥は自分に担がれている泉菟に怒る。

「知らぬ! それより貴様、早く我を降ろさぬか!」

ジタバタと足を暴れさせる泉菟に、稜弥はうんざりとした表情を見せた。

「テンメ稜弥ァア!! 泉菟に何してやがんだコノヤロー!!」

「さっさと泉菟を離すアル! あだ名ナスにすんぞ! 紫ナスビにすんぞ!!」

「どんな脅しなの神楽ちゃんン!」

大切な泉菟が緊急事態だというのに、コントの様な馬鹿らしい叫び声をあげる銀時達。

そのせいからか、周りの通行人達が足を止め、なんだなんだと野次馬になり始める始末。
そして。

「いい加減離せとっ、言っているであろうッッ!!」

泉菟はそう言い放ち、力を振り絞って、稜弥の腕の中から脱出した。

大きく飛び上がる泉菟。

そして藍色の扇子を取り出し、稜弥を扇いだ。

その扇子は普通の扇子と違い、一度力強く扇ぐだけで、少なくとも人一人分を飛ばせるぐらいの威力は持っていた。
標的にしか風は当たらないため、民家や周りの野次馬達に害は無いが。

稜弥は『うおッ!?』と声を上げると、大きく宙に吹き飛ばされる。

否、飛ばされるはずだった。

手応えは泉菟自身にも、周りの者共にもあった。
明らかに稜弥は飛ばされ、宙を舞って、大きく地面に叩きつけられたはずだった。

神楽や新八も、「これはやった」と確信があった。

しかし、銀時は見切っていた。

「泉菟ゥ!! 後ろだ後ろォ!!!」

そう叫んだ時は、もう遅かった。

地面に泉菟が着地する8秒前、泉菟の耳元でこんな声がした。

『いやァ今のはビックリしたな。でも、まだ、甘ェよ』

泉菟が後ろを振り向くまもなく、稜弥の横平手が、泉菟の峰に直撃した。

その威力はとてつもなく、泉菟は思いっきり民家の壁に打ち付けられた。

野次馬はどよめき、銀時や神楽、新八は、ただ泉菟の名前を呼ぶしかなかった。


『油断大敵って言葉、知らないの? アンタさ、もう自分が勝ったと思ったでしょ。そこが甘いの。分かる?』

音速と言っても過言では無い。
誰もが見えなかった稜弥の動き。

地面に着地する稜弥は、そう余裕の表情で呟いた。

野次馬は恐ろしさのあまり逃げ惑う。

新八や神楽も、口をあんぐりとさせていた。


『じゃ、銀時、この女借りてくから。返さないかもだけど、そん時はそん時な』

そう銀時に向かってニコリと妖しげな表情をした稜弥は、倒れ伏す泉菟を担いで、目にも留まらぬ速さでいずこかへと消えた。

「おいテメェ!!」と銀時が叫んだ時は、もう影も形も無かった。


■━━…