二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【BLEACH】鬼事——onigoto—— ( No.6 )
- 日時: 2009/12/05 20:39
- 名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: naBKxD7x)
【第一夜】———新入隊員・壱———
「はぁ…一体どうなってるんだか」
隊長の執務室で吉良イヅルは大きな溜息を一つ
今日は今期の新入隊員が顔見せに来る日だった
しかし、肝心のその新入隊員がいつまでたってもやって来ないのだ
時計を見ればすでに約束の時刻から半刻程過ぎていた
しかも顔見せ相手である隊長もどこかへ行ったっきり帰ってきてはいない
「市丸隊長…早く帰ってきて下さいよ」
思わず隊長への愚痴が出てしまう
あの自由奔放な隊長に、吉良はいつも振り回されてばかりだった
「吉良副隊長、遅れて大変申し訳ありません——————新入隊員を連れてきました」
やっと扉の向こうから隊員の声がかかり、開いた扉から一人の少女が入ってきた
美しい黒髪を長く伸ばし、背中に流している強気な瞳をした少女
口を堅く噤んでいるのは緊張しているからだろうか
生憎、まだ隊長は戻ってきておらずとりあえずこの場を保つために吉良は微笑を浮かべて少女に問いかけた
「初めまして…君の名前は?」
「名前?さっき捨ててきました」
あまりにあっさりとした少女の返答にあぁそうなのかと頷きかけて思いとどまる
——————————捨てた?
そんなはずはないだろうと思い、初対面の上官相手に冗談を言えるとはなかなか度胸のある子だ、と怒るより先に感心してしまい苦笑を浮かべて少女に関する記述のあった書類へと目を通す
名前がなかった
本来名前が記入されたいるはずの欄には一文字も書かれておらず真っ白で吉良を困惑させた
少女が手を加えたわけでもなく、本当に最初から何も書かれていなかった
「君、これはどういう…「悪かったなぁイヅル、今戻ったんや」
吉良の言葉を遮るように市丸ギンが執務室へと入ってきた
苦笑を浮かべながら頭を掻き、詫びれる様子もない声音で謝りながら
「お?キミが新入隊員の子やね、よろしゅう」
吉良の横に並んだ市丸はやっと少女に気づいたような反応で笑顔を向け、手を軽く振って言葉をかける
「宜しくお願いします」
少女は相変わらずの無表情で市丸に頭を下げた
「市丸隊長、この子…」
「あぁ。名前、ないんやろ?」
少女を気遣う様に小声で話しかけた吉良の心遣いを無に帰すように市丸は笑顔で頷いて普通の声量で先に答えを言った
市丸は少女を見下ろすと笑顔のまま少女の綺麗な漆黒の髪を指さした
「そうやね…綺麗な黒髪をしとるから黒、瞳が猫みたいな形しとるから猫————黒猫でどうや?」
吉良にとっては訳の分からない言葉を並べて市丸は少女に首を傾げた
少女は市丸に首を傾げ返して尋ねる
「名字は?」
「市丸、市丸黒猫…それがキミの名前や」
少女の疑問にあっさりと答え、少女の名前をさっさと決めてしまった
呆気にとられている吉良を置いてけぼりに二人の間で話は進む
「市丸黒猫…オレの、名前」
「そう、それがキミの名前や…イヅル、ちょうそれ貸して」
市丸は少女の呟きに満足そうに頷くと吉良から書類を受け取り名前の欄にたった今ついた名前を綺麗な字で書きしるした
「改めまして。よろしゅうな、黒…ボクの名前は市丸ギン、こっちは副隊長の吉良イヅルや」
少女の事をさっそくあだ名で呼んで、改めて自己紹介をする
ついでのように吉良の事も紹介して頭を下げさせた
少女はさっきと別人のような、華が咲いたような笑顔を浮かべて二人を見、頭を下げた
「これから宜しくお願いします、ギン隊長、吉良副隊長」
吉良は二人の間に漂う初対面ではないような不思議な雰囲気に気づいていないようだった