二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン〜大江戸イレブン! ( No.78 )
日時: 2010/12/18 16:01
名前: ゆうちゃん (ID: 66DLVFTN)

「佐久間」
呼ぶ声に振り向く。


ああこれは————


遠い日の物語。





第十六話『番外:記憶を辿るは夢の欠片』





「ったく……いくらなんでも食いすぎじゃないのか?」

あきれたように俺を見下ろす優しい瞳。
もう今は見ることの無い、その瞳。

「へーきへーき!お前んちの飯はうめぇよ」

俺は気にもせず、源田の持ってきてくれたおにぎりにかぶりついた。

「だからってなぁ」

俺には……場所がない。
帰るところも、行くところも。
いつも、一人だった。

『……誰?』
『俺は源田幸次郎。どうして君は一人なの?』
暗くて狭い、小さな社の縁の下。
そこが俺の、唯一の居場所だった。
『かんけーねぇだろ。あっちいけよ』
強がって、そっぽを向いた。
でもそいつは『ほら』と言って、おにぎりを差し出した。
『な、そんなもん……』
『腹、減ってんだろ?はい』
俺は無言でひったくるように受け取ると、かぶりついた。
『……ん、まい』
さっぱりとした塩の味に思わず言葉が出た。
『だろ?俺んち特製』
源田はにっこりと笑った。





そして今日も、源田は来た。
たくさんおにぎりを持って。
「なぁ、俺なんかに食わせていいのかよ?お前んちだいじょうぶなのか?」
「ん、大丈夫。こっそり持ってきたけどな」
そう言って、自分も手をだす。
俺は源田の横顔をじっと見ていた。
「なに?」
源田は照れくさそうに顔を赤らめた。
「いや、お前ってさ、武士の子?」
俺は源田の顔と源田の腰の小さな帯刀とを見比べた。「え、うん。俺この山の下の屋敷に住んでる」
武士か……。
俺は塩でぺたぺたとした指をなめた。
(それにしては結構とろそうだけどな)
「佐久間は?お前も苗字あるし、武士なのか?」
無邪気に尋ねてくる。
俺はただ苦笑するだけだった。
言えっこない。家が破門になって格が下げられたなんて。この平和症の坊ちゃんには早すぎる。
そう思った。厳しいことはまだ知らなくていい。

「ねむ……」
平和症の坊ちゃんはひとつあくびをすると、俺にもたれた。
「!?」
俺にもたれたおかげで綺麗な着物に泥がついた。
「おまっ……」
源田は気にも止めずに目を閉じていた。
俺はなんだか恥ずかしくなって目をそらした。
「佐久間……」
ゆっくりと手が伸びてきて、俺の髪に触れた。
びくりとした。
頭をなでられたのは初めてだった。
「寂しくない……俺がいる」

……わかってたんだ。
俺のこと。

俺もゆっくりと目を閉じて、源田に体を預けた。
そう、寂しくない……

「うん……」







——————また、ここに来た。
もうほとんど崩れかけのその社は、変わらない場所で俺を迎えてくれた。
昔は佐久間と二人で入れた縁の下。
今はもう狭すぎる。
汚い賽銭箱をどかして、俺はお堂の戸を開けた。

佐久間は傷ついた体を静かに横たえて眠っていた。
「佐久間」
しゃがんで体に触れると手が赤くなった。
まだ完全に傷はふさがっていないらしい。
「……来たんだ……」
佐久間の紅い瞳がこちらをみあげていた。
俺はゆっくりと佐久間の体を起こすと、そっと抱き寄せた。
「ほんとに……」
弱々しい声でつぶやいた佐久間の頬を涙が伝っていた。
「大丈夫」
俺はしっかりとした口調で言った。





「もう……寂しくない」